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採用難を突破!地方中小企業が実践する採用成功術
2025.12.25

厚生労働省が2025年9月に公表した「令和7年度版労働経済の分析」によると、大企業および中小企業で人手不足感が強くなっており、全国的に採用難が続いている中、人口の少ない地方都市では特に採用活動に苦戦しています。
今回、株式会社船井総合研究所の手塚颯さんに、地方都市でも安定した採用を行っている企業の事例を紹介していただきました。地方都市で特に効果のある具体的な採用活動の方法も併せて解説していただきましたので、ぜひ参考にしてください。
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目次
地方都市・過疎地域でも成果を上げた中小企業の採用活動の事例
中小企業の中でも、地方都市では特に採用に苦戦する企業が多いと聞きます。やはり人口が少ないからでしょうか。現状と課題を教えてください。
都市部と比較すると地方では人口が少なく、また、通勤圏や移動手段の制約もあり、採用活動は都市部に比べて難しくなります。また、高齢化が進み、特に正社員採用において中途採用はきわめて困難な状況です。
さらに地方の企業は飲食店や福祉施設などの接客サービスが求められる労働集約型の業種が多く、労働時間を減らす傾向のある働き方改革の推進と、収益性の確保の両立が難しいという課題もあります。
そのような中で地方の中小企業ではどのように採用活動をすればよいでしょうか。成功している事例を教えてください。
2社、事例をご紹介したいと思います。
まず1社目、人口5万人未満の地方都市の企業の例をご紹介します。飲食業で、直近の売上は5億円強の中小企業です。14期連続増収の成長を継続しており、人材の採用は必須でしたが、人口が少ない都市のため、ハローワークなどの求人媒体を用いた従来の手法では応募者自体が少なく、人員が確保できなくなりました。
高齢化が進み、中途採用が難しくなる中で、この企業が力を入れたのが新卒採用です。地元志向の若手正社員を狙いましたが、大卒採用は全国的に争奪戦です。人口が減少しているうえ、大企業が初任給を引き上げており、地方の中小企業には応募が少ない傾向にあります。そのため、この企業では大卒ではなく高卒採用に重点を置くこととし、その戦略が功を奏しています。
ただし高卒採用も、地方では簡単ではありません。学校訪問を行い、学校の先生に推薦してもらえるように先生との面談、職場見学会の実施などをていねいに行いました。高卒向けの採用ページを整備し、企業パンフレットを先生経由で配布するなど、学校内で職場を知ってもらうための施策を継続的に行いました。その結果、年間5名の高卒採用に成功しています。
新卒採用を成功させるためには、情報の届け方だけでなく、企業を魅力的に感じてもらう必要があると思います。この企業のアピールポイントは何だったのでしょうか?
この企業は飲食業であり、労働時間を確保してもらうことが売上にもつながる業種です。しかし、この企業では働き方のプランを、働く時間重視の「ワーク型」と、勤務時間の融通が利く「ライフ型」に分けて、選べる体制にしました。「ライフ型」では完全週休二日制、1日8時間勤務とし、地元で働きたい若年層にアピールした結果、2024年の5名採用のうち2名がライフ型で入社しており、採用人数の増加につながりました。
ライフ型では賃金や賞与に調整を入れることで、人件費の増加を抑えています。企業のコストを抑えつつ、給与よりも休暇やプライベートを重視する若年層にアプローチして、収益性にも配慮した戦略をとっています。
もう1社の事例もご紹介ください。
次は、売上約20億円、中堅規模の従業員数を有する事例をご紹介します。人口10万人未満の地方都市で、介護事業を営んでいる企業です。
まずは前述の企業と同じく新卒採用に力を入れ、2024年度卒業20名、2025年度卒業20名、2026年度卒業見込み25名もの新卒採用をしており、安定して20名規模の継続採用を成功させています。
すばらしい採用実績ですね。この企業の採用活動を具体的に教えてください。
こちらの企業も地方都市にあるだけでなく、介護事業という、高齢化社会において需要があるものの求人が集まりにくい業界です。人材不足は事業の継続に大きな影響を与えるため、2021年度から人事機能の専任化を断行し、戦略的に採用活動に力を入れました。
特徴的な施策としては、経営者とは別の人事専任者を据えて採用のための組織を立ち上げたことです。中小企業では、経営者だけが採用活動を行うケースも多いのではないでしょうか。しかしこの企業では組織化したうえで、採用の年間行動計画を策定し徹底して実行しました。
新卒採用では、採用したいターゲットの人材を明確にし、例えば福祉の人材であれば実習の受け入れや大学訪問を行うなど、ターゲットに合わせて適切な採用時期にアプローチを実施しました。
中途採用では、外部の人材紹介会社への委託を縮小し、自社サイト経由での応募・採用比率を高めるための投資を行いました。介護業界で人材を採用する場合、紹介会社への手数料は年収の35%程度、100万円超に達することもあります。自社の採用サイトへの投資・強化を行えば、このような高額なコストをかけずに持続的に集客できるしくみを整えられます。
地域の障壁を克服!成功できる採用ツールの具体的な活用事例を紹介
学校訪問などの直接的なアプローチだけでなく、さまざまな採用ツールがあると思います。地方都市で採用に成功している企業はどのような採用ツールを活用しているのでしょうか?
インターネットの普及により、物理的に近隣の方でなくても企業の魅力を伝えることができ、状況によって採用につながります。先ほど大卒の採用は難しいと申し上げましたが、地方都市でも条件によっては首都圏の大学から採用しています。必ずしも地域だけの問題ではなく、企業に魅力があれば採用は可能です。
距離が離れているため大学への訪問が難しくても、例えば新卒向けスカウトツールを活用し、個別スカウトを送付すれば、地方からでも首都圏の大学生へアプローチできます。ただしツールの利用には費用がかかるため、採用にかけられる費用と効果を見ながらになりますが、必要に応じて活用できるでしょう。
中途採用では、求人まとめサイトで求人情報を取り上げてもらえるような施策が有効です。そのためには自社で求人サイトを作成する、求人サイトに求人情報をのせる、などで求人情報をインターネット検索できる状態にすることが必要になります。
採用ツールの中でも、自社で採用サイトを作成するなど、外部業者に依存しない方法をご紹介ください。
先ほど、自社サイト経由での応募、採用比率を高めるための投資を行っている事例を紹介しました。新卒、中途どちらであっても、応募を検討する方は企業のサイトを確認すると考えられるため、自社の採用サイトを作成することは基本的な広報活動の1つと言えます。
採用サイトで企業の魅力を伝えるうえで最も重視したいことは、「働く人のリアルな姿」を伝えることです。理念やビジョンの紹介も大切ですが、実際に企業で活躍するイメージを具体的に抱ける発信は、応募動機を後押しします。
文章だけでなくインタビュー形式や写真・動画などを活用すると、より企業の魅力や社員同士の関係性などを伝えられるでしょう。このような発信は入社後のギャップを縮小でき、人材の定着にも役立ちます。
また、SNSでの発信も重要な広報活動の1つです。例えばInstagramでは画像や動画を中心にして特に新卒を中心とした若年層へアプローチできます。ただしSNSは戦略的な運用が求められ、特に運用担当者の人選は重要な戦略要素となります。
地方都市ならではの採用活動の実践策と運用方法を紹介

これまでご紹介いただいた方法以外で、地方都市ならではの採用活動の実践策や事例はありますか?
リファラル採用、ハローワークの活用、そして張り紙などのローコストな方法は、都市部よりも地方都市の方がより有効な採用方法として機能しているのではないかと思います。
まずリファラル採用の事例を紹介します。とある地方都市の企業では60名採用のうち30名がリファラル採用です。地元にいる方は定住しているケースが多く、友人、同窓生、PTA活動でのつながりや、地域行事でのつながりなどでさまざまな人間関係が生じ、リファラル採用が活用しやすい傾向にあります。
リファラル採用を成功させるためには、社員が紹介をしようと思えることが大切です。そのためには、魅力的な職場環境を作ることは大前提であり、さらに、社員の方にもメリットがあること、そして紹介するハードルが低い状態にすることが必要です。
先ほどの成功事例では、メリットとしてインセンティブを入社時、定着時に段階的に支給し、金額は総額で約20万円です。そしてリファラル採用を社内認知するために、給与明細に制度案内を同梱する、渡すだけで魅力が伝わる名刺サイズのリファラルカードを毎年5枚配布するなどの工夫をしています。さらに、リファラル採用の実績を表彰し、紹介のハードルを下げることで、さらなる活用につなげています。
リファラル採用では、選考の前に見学や面談を行い、応募者にとってもミスマッチが起きないような工夫も大切です。
続いてハローワークの活用についてご紹介ください。
ハローワークの利用者は高齢者に偏りがちで、希望する採用活動が難しくなっていると言われています。
ただ、近年では一部地域でハローワーク登録者に対して、企業側からスカウトできる機能も登場しています。また、ハローワーク主催の説明会が定期開催されており、各自治体と共催することもあります。説明会の参加者は地域で求職している方が多く、参加者へアプローチすると効果的です。
最後に張り紙の採用広告についてご紹介ください。
張り紙の採用広告は昔ながらのイメージですが、特に車移動が基本の郊外では、生活動線上の認知が採用活動上有効です。ローコストかつ、即日実施しやすい方法であり、業種を問わずに活用できるでしょう。
例えば施設前や店頭での掲示は、近隣住民が求人を認知するきっかけになります。特にパートやアルバイトの応募は、自宅に近い職場であることが強い動機になるため、地域のスーパーやコンビニエンスストア、自治体の掲示板など、目に触れる場所へ網羅的に張り紙をすると効果的です。
自社に合った採用方法をどう選んでいくか
人口の少ない地方都市でも採用活動に成功している事例があることがわかりました。自社に合った採用方法をどのように選んでいくとよいでしょうか。
まずは現状を把握して、求人の緊急度と欲しい人材のターゲットを明確にしましょう。中小企業では採用にかけられるコストに制限があるため、費用対効果の検証も必要です。
採用チャネルで言えば、まずは前述のように自社の採用サイトの作成は基本だと思います。そして次に、ハローワークの活用やリファラル採用などの、無料または低コストでできる方法から活用していくと良いでしょう。
そして採用の緊急度が高ければ、外部の採用サイトや紹介会社などに投資するのも短期的には有効です。大切なのは、漫然とコストをかけて採用活動をするのではなく、緊急性がある場合など、目的を明確にして利用することです。
先ほど高卒採用に重点を置いた例をご紹介しましたが、業種によってはシニア層や主婦、外国人をターゲットとする企業もあるかと思います。どのような人材を求めていくかを明確にして、ターゲットに合った採用チャネルを活用すること、そして継続して人材を活用するためには、募集するだけでなく入社後の受け入れ態勢作りや定着状況の検証も大切になるでしょう。人口が少ない地方都市では、人を集めるだけでなく、定着させることも大切です。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
手塚 颯(株式会社船井総合研究所 ヒューマンキャピタル支援部 マネージャー)
株式会社船井総合研究所 ヒューマンキャピタル支援部マネージャー。入社以来、人事・採用領域のコンサルティングに従事し、介護・福祉など人材獲得が困難な業界でも成果を創出。採用に特化した全国の成功事例を研究・共有し、経営者向け勉強会「採用力向上経営フォーラム」を主催。変化する人材マーケットに応じて次世代の採用ノウハウを築いている。



















