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賃金条件がすべてじゃない!応募者を引きつける求人票の作り方

2025.05.22

著者:弥報編集部

監修者:五十川 将史

良い人材は、高い賃金でなければ集められないと考える経営者は少なくありません。確かに求職者にとって、求人票の賃金条件は応募を判断する重要な要素です。しかし、自社の特徴や強み、他社との差別化ポイントを魅力的に伝えることで、賃金面のハンディキャップを補うことは十分可能です。特に、コストを抑えて求人を行えるハローワークでは、こうした工夫が採用成功のカギを握ります。

今回は、ハローワークを活用した採用支援を専門とするウエルズ社会保険労務士事務所 代表の五十川将史さんに、賃金条件が不利であっても魅力的な求人票にする方法について、具体的な事例を交えながら紹介いただきました。


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求職者が求人票で重視する項目は「仕事内容」

ハローワークの求職者アンケート調査によると、求人票の中で求職者が最も重視する項目は「仕事内容」であり、10〜70代以上の全世代で41.1%もの求職者がこれを最優先にあげています。ついで「職種」(24.9%)、3番目に「賃金」(9.9%)という結果となっています。他のハローワーク調査でも同様の傾向が見られ、求職者にとって賃金は必ずしも最重要条件ではないことがわかります。

〈最も重視している項目〉

このような求職者の意識を踏まえると、賃金が低いことが必ずしも不利に働くわけではありません。賃金以外の自社の強みや魅力を適切にアピールすることで、十分に応募につなげられます。加えて賃金の情報を適切に掲示すれば、魅力的な求人票を作ることも可能です。

「賃金」は重要でない?求職者が知りたいのは「実際の収入」

では、賃金に関する情報はどのように提供すればよいのでしょうか。

一般的に求職者は求人票を閲覧する際、まず記載されている月額賃金を基に、転職前と比較して収入が増えるのか減るのかを判断します。

しかし、皆勤手当などの各種手当を含めた月額賃金だけでは、実際の収入を正確に把握することはできません。実際の収入は、求人票に記載されていない手当や、月平均の時間外労働手当を含めた月収、さらに賞与を加えた年収によって決まります。

特に、職種によっては、表面的な月額賃金がそれほど高くなくても、業務手当や歩合給、成果手当などの割合が大きく、実際の月収が高水準となる賃金制度もあります。

求職者が本当に知りたいのは「実際の収入」です。月額賃金が表面的に低く見えても、一定の条件に基づいたモデル月収や年収の情報を提供することで、賃金の見え方を改善できます。企業として公開しにくい場合もあるかもしれませんが、目安となる金額を提示するだけでも、求職者にとって有益な情報となり、応募を検討するきっかけになり得ます。

文例あり!「この会社で働く魅力=転職理由の解決」を示す

転職を考えている求職者は、現職において労働条件や処遇、仕事の適性、業務内容の魅力など、さまざまな課題を抱えています。そして、その課題を少しでも解決・改善したいという思いから、新たな活躍の場を求めています。

求職者が転職時に企業に求めるニーズは人それぞれ異なりますが、自社の長所や強みがそうした課題の解決につながる場合、求職者の関心を大きく引きつけられます。「うちの会社は小規模だから、賃金はもちろんのこと、他にアピールできるものがない」と考える企業もあるかもしれません。しかし、小規模だからこそ生まれる魅力もあります。現在は目立った強みがないと感じても「トップと若手の意見交流会」や「子育て世代が働きやすい環境作り」など、コストをかけずにすぐ導入できる取り組みもあります。

こうした自社独自の魅力が求職者のニーズとマッチすれば、求人票を検討してもらえる大きなチャンスにつながります。以下にあげるのは、具体的なアピール材料の例です。ぜひ参考にしてください。

仕事の魅力をアピール

仕事内容は、求職者が最も時間をかけて読み込む情報です。求人票では、募集職種の業務内容や全体像を紹介しますが、求職者の転職理由が「仕事のミスマッチ」や「やりがいの欠如」などである場合、単なる業務説明だけでは十分な魅力を伝えられません。

そのため、業務内容の説明に加えて、仕事そのものの魅力を伝えることが重要です。具体的には、仕事のやりがいや意義を明確にすることで、求職者が自身のキャリアと照らし合わせやすくなります。また、同じ職種であっても他社と異なる特徴を強調すれば、企業独自の強みを打ち出すことも可能です。

アピール材料と文例

  • 他社にない当社独自の技術が習得でき、専門性を高められます
  • 当社の営業は、お客さまとの長期的な信頼関係を築くことが仕事です
  • 〇〇サッカースタジアムの〇〇工事は当社が担当しました
  • 実務経験と資格取得を通じて仕事の幅が広がり、収入アップにつながります
  • 現場へのドローン導入に向け、若手操縦スタッフの採用・育成を計画しています

働き方の魅力をアピール

働き方改革の進展により、働く人々の就業意識は大きく変化し、現職における従来の働き方を見直したいと考える人が増えています。業界や企業も働き方の改善に取り組んでいますが、すぐに改革を実施できない企業も多く、その結果として転職を選択する人も少なくありません。

働き方を理由に転職を考える求職者にとっては、時間外労働や休日の取りやすさ、有給休暇の取得状況などに加え、メリハリのある働き方やワークライフバランス、さらにはライフスタイルやライフステージに合った働き方ができるかどうかが重要なポイントとなります。こうした要素を求人票で明確に伝えることで、働き方の魅力をアピールし、応募につなぐことができます。

アピール材料と文例

  • 時間外労働は月平均〇時間ですが、その約7割は月末と月初めの1週間に集中しており、月中は定時退社が週2回程度あります
  • 当社はサービス業ですが、年間〇日間は土・日曜日を希望休日として取得できます
  • 若手社員10名による「働き方改善チーム」が業務見直しに取り組み、時間外労働の削減を推進。昨年度は前年度比15分削減の改善を達成しました
  • 募集職種の有給休暇取得は夏季の閑散期に多く、夏季休暇と合わせて〇日間の連続休暇を取得し、リフレッシュしている社員も多くいます

職場の魅力をアピール

職場環境に課題を感じ、転職を決意する人は少なくありません。特に若手求職者にとっては、人間関係や職場の雰囲気への関心が高い傾向にあります。

「アットホームな職場です」「明るい職場です」といった表現はよく使われますが、これらは主観的な表現であり、人によって解釈が異なるため、入社後に「思っていた職場と違った」と感じて離職につながるリスクもあります。

職場環境を言葉で正確に伝えることは難しいですが、求人票には職場の具体的なエピソードや日々の出来事を盛り込むと効果的です。そのような情報を通じて、求職者は職場の人間関係や雰囲気をイメージしやすくなり、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。

アピール材料と文例

  • 社長が毎日、社員のために昼食用の味噌汁を用意しており、その時間を通じて外勤社員も社長と会話する機会が増えました。これが社内コミュニケーションの活性化につながっています
  • 小学生以下の子どもを育てている社員には、学校行事や急な病気などに対応できるよう勤務の配慮を行っています。特に、子育て経験のある先輩社員の理解と協力があり、気兼ねなく安心してサポートを受けられる環境です
  • 時間外労働の削減に向け、全員で話し合いながら目標を設定。達成できた月には会社負担で食事会を開催し、楽しみながら取り組んでいます
  • 国家資格の受験者には、業務終了後にベテランの先輩社員がマンツーマンで技術指導を行い、スキルアップをサポートしています

人事・育成・キャリアアップの魅力をアピール

現在の職場における人事制度の不透明さや将来のキャリアに対する不安から転職を考える人は少なくありません。単に収入や安定性だけでなく、中堅世代では、成果に対する「評価」、若手では「成長」「専門性の向上」「承認」などが働くうえでのモチベーションとして重視される傾向にあります。そのため、企業側もこうした価値観を踏まえた対応が求められます。

自分の価値観に合った職場を求める求職者に対しては、「社員=人」を中心とした企業の人材育成方針やキャリア支援制度をアピールすることで、求人票の付加価値を高められます。

アピール材料と文例

  • 未経験者は当社独自の「3年間育成プログラム」により、着実に独り立ちできるようサポートします
  • 一人ひとりの仕事の成果は、人事面談制度を通じて相互評価し、賞与にも反映しています
  • キャリアアップを支援する「資格取得モデルプラン」を導入し、専門性の高い人材を育成しています
  • 入社1年後には、将来のキャリアについて話し合う機会を設け、知識習得やキャリア形成をサポートします
  • 入社○年後には、総合職コースと専門職コースのキャリア選択制度を活用できます

その他のアピール

求職者の中には、転職理由としてはあげていなくても、企業選びにおいて福利厚生を重視する人もいます。そのため、求人票で「充実した福利厚生」をアピールする企業も少なくありません。

例えば、自動車免許の取得支援、社員住宅、各種表彰制度などのほか、定年年齢を65歳、再雇用を70歳とすることで、ミドル層やシニア層にとって「長く働ける職場」としての魅力を高めることができます。

また、企業の現状や課題を踏まえた募集の背景や、入社後に期待する役割などを明確にすることも、求職者の関心を引くポイントです。さらに、今回の採用に対するトップの思いや熱意をメッセージとして発信することで、求職者の気持ちを動かし、より魅力的な求人票につながります。

アピール材料と文例

  • 当社の表彰制度には、永年勤続表彰や安全ドライバー表彰のほか、社員にも好評な独自の「お客さまに喜ばれたで賞」があります
  • 遠方からの転職者や自立を考えている方には、社員住宅として民間アパートの借り上げ制度を用意しています
  • 業務改善や職場環境の向上を目的とした提案制度では、ユニークなアイデアが次々と生まれています。昨年は新入社員の提案が社長賞を受賞しました
  • 70歳までの再雇用制度に加え、退職金制度および退職金共済に加入しており、定年後の生活設計も安心です
  • (メッセージ)今回の求人は、3年後に予定している新規事業〇〇〇の立ち上げにも参加していただける人材としての募集です。皆さんの新しい発想と幅広い経験を、ぜひ当社で活かしてください

多様な求職者の価値観に対応し、自社の魅力を伝えよう

求人票において、自社の賃金水準が競合他社と比べて優位でない場合、すぐに賃金額を変更することは難しいのが現実です。しかし、自社ならではの独自性や強みをアピールすれば、賃金条件が不利に見える求人票であっても十分に魅力的なものへと変えることは可能です。

求職者が企業を選ぶ際に重視する条件は、世代、職業観、職歴などによって多様化しています。職場の柔軟な働き方やワークライフバランスの充実度、成長機会やキャリアパスの明確さ、そして企業文化や価値観が求職者にとって大きな魅力となります。自社の強みを信じ、前向きにアプローチを続けていきましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

五十川 将史(ウエルズ社会保険労務士事務所 代表)

1977年、岐阜県生まれ。明治大学卒。大手食品スーパーの店長や民間企業での人事担当者、ハローワーク勤務を経て、独立。ハローワークを活用した採用支援を専門としている。商工会議所、労働局、社会保険労務士会などでの講演実績も多数あり、これまでの受講者は1万人を超える。著書に『中小企業のためのハローワーク採用完全マニュアル』(日本実業出版社)、『ハローワーク採用の絶対法則』(誠文堂新光社)などがある。

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