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人件費を増やさず、新規営業を成功させる!「全員営業」戦略とは?
2025.03.13

「新規顧客がなかなか増えない……」と悩んでいませんか? 特に中小企業では、限られた人材や予算の中で営業活動を行う必要があり、その結果、営業担当者に大きな負担が集中してしまうことがよくあります。さらに、営業活動そのものが属人的になりがちで、組織全体でのサポート体制が不足しているため、せっかくの努力が結果につながらないことも多いです。
しかし、会社全体で営業を意識し、各社員が自分の役割の中で営業活動に貢献する「全員営業」の考え方を取り入れることで、無駄な人件費や経費をかけなくても業績向上につながる可能性があります。
今回は『中小企業のための全員営業のやり方<新装版>』の著者である辻経営有限会社 代表取締役の辻伸一さんに、現状の経営資源をフル活用することで、営業体制を根本から見直し、明日からできる「全員営業」の簡単な方法や、実際に成功を収めた事例についてお話を伺いました。今抱えている課題を解決し、新規顧客の獲得を加速させるヒントを見つけてみませんか?
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目次
なぜ新規営業が停滞する?中小企業が直面する3つの壁
中小企業において、新規営業が重要な理由を教えてください。
経営活動において、最も重要な目的は「お客さまを作り出すこと」であり、新規営業は中小企業の事業継続と成長において欠かせない経営活動です。どれほど優れた商品やサービスを提供し、既存顧客との信頼関係を築いていたとしても、取引先の事情や市場環境の変化による顧客離れを完全に避けることはできません。例えば、引越しやライフスタイルの変化、事業縮小、親会社からの方針転換、さらには倒産といった取引先側の理由による自然減は、どの企業にも起こり得るものです。
特に中小企業では、少数の大口取引先への依存が高いケースを多く見かけるため、取引先が減少すれば売上や利益に直接的な影響を及ぼします。そのため、既存のお客さまを継続的に維持しつつ、新規顧客を常に獲得する両面の体制を構築することが求められます。
中小企業の新規営業への取り組みが進まない理由は、どのようなものがありますか。
新規営業がうまくいかない根本的な理由は、大きく分けて3つの側面があります。それぞれが企業内部の構造的な課題と密接に関係しており、新規営業の推進を阻む障害となっています。
まずあげられるのは、意識面の問題です。中小企業では、経営者や従業員が「現状維持でも十分だ」と潜在的に感じていることが多く、新しい顧客を開拓する必要性を強く認識していない場合があります。特に、主要な既存顧客からの受注が安定してくると、経営者や従業員が「今のままで当面は問題ない」と錯覚してしまい、結果として新規営業への意欲や新しい施策への行動を失ってしまう場合がこれにあたります。
次に、知識やノウハウ不足です。新規営業には、ターゲットの選定やアプローチ手法の工夫、顧客ニーズの的確な把握など、高度な知識や経験が求められますが、中小企業ではこうした専門知識を持つ人材が少なく、ノウハウの蓄積や共有が進んでいないことが多いのが現状です。場合によっては、営業の基本的な型や流れが会社として整っていない、一部の人材しか理解できていないといった状況なども散見されます。
仮に、営業担当者が自社の強みや、商品の特長を明確に説明できない状態が慢性化しているとすれば、価格競争に巻き込まれたり、商談が途中の段階でストップしたりしてしまいます。また例えば、美容室や小売業では競合店のサービス内容や価格帯を調査しないまま営業を続けてしまうと、社内でいくら検討を重ねても、お客さまから見れば一向に差別化が図れない状態に陥ってしまいます。
そしてシステム・組織の問題も大きいでしょう。多くの中小企業では、営業活動が体系化されておらず、組織的に新規営業を推進するためのシステムやプロセスが整っていません。「営業は足で稼ぐ」という認識を持つ企業もいまだにあるため、営業担当者一人ひとりの力量に頼る構造になっているのです。結果として営業活動がバラバラになり、効率的に新規顧客を開拓することが難しくなっています。慢性的な人手不足の課題を抱えていればなおさらです。
これら3つの要因が絡み合うことで、多くの中小企業では、新規営業が停滞してしまうのです。
「全員営業」が新規営業を成功させる第一歩
問い合わせや商談報告が順調でも、なぜ受注につながらないのでしょうか?
リソースの限られている中小企業で特に起こりがちなのは、せっかく問い合わせがあったとしても十分なフォローアップができず、失注してしまうケースです。顧客のニーズや課題を深く理解できておらず、的確な提案ができていないこともありますが、いずれにしても、先ほどあげた3つの原因が深くかかわっています。
さらに、定例の営業会議において、進展の見込みが乏しい顧客や案件を「見込み客」として報告するケースも少なくありません。これは、営業担当者によっては、商談の停滞や失注が明らかになることで、会議での指摘や叱責を恐れる心理が働いているためです。結果として、上層部が把握する営業状況と実態に乖離が生じ、売上が立たない状態が長期化するリスクが高まります。
そうは言っても、営業担当者の確保やスキルアップには時間がかかりそうです。
もちろん、顧客のニーズに沿う提案ができる営業担当者を育成することは必要不可欠です。しかし、新規営業を成功させるために中小企業ができることはそれだけではありません。大切なのは、会社全体でどれだけ数多くの顧客との接点を生み出せるかです。まずは、「営業活動は営業担当者だけが行うもの」という固定観念を捨て、会社全体で営業活動の効率を上げ、余力を作り、仕組みで稼ぐ状態を目指すとよいでしょう。
特に中小企業においては、「既存顧客のフォローと新規営業の両立に時間や労力が足りない」という課題も顕著です。限られた人員と時間では、新規顧客へのアプローチに十分なリソースを割くのが難しくなりがちです。このような状況に対して有効な解決策の1つが「全員営業」の導入です。「全員営業」とは、営業活動を営業担当者だけに任せるのではなく、全社で協力して営業プロセスを支え、効率的に新規顧客を獲得していく仕組みです。
典型的な例で言えば、年賀状の送付などは営業担当者ではなく総務や経理が発送業務を行うといった形です。これを発展させていけば、既存顧客からの追加発注や商品に対する問い合わせは、営業担当者ではなく内勤スタッフが対応する仕組みを整えることも可能になっていきます。そうなると営業担当者に余力が生まれ、営業スキルと経験がある営業担当者でないと実施が難しい新規営業へ、今以上に注力できるようになります。
中小企業でもすぐできる、「全員営業」の取り組みがあれば教えてください。
全員営業を実現させるためにはさまざまな施策がありますが、まずは会社が保有する経営資源の「情報共有」が第一歩となります。営業担当者が顧客に提案する際に活用する営業資料の見直しは、特に効果的です。
例えば、営業担当者が把握しきれない商品の技術的な特性や、顧客への適用事例といった詳細情報を開発担当者から提供してもらえば、提案力が大幅に向上します。他部門の社員が自社のビジネス内容を深く理解することで、日常会話や親しい人との交流の中で自社を自然に紹介できる機会も増え、結果として新規顧客の獲得につながる可能性も広がるでしょう。
また、名刺の点検と見直しもあげられます。会社が伝えたいメッセージや、営業活動に効果がある情報を入れてしまえば、営業部門以外で名刺を持つ社員全員が、実質的に営業に携わるようになります。
その他で比較的取り組みやすいのは、ニュースレターの作成です。営業資料とは別に作成して、ホームページや印刷物として定期的に配信すれば、継続的に顧客へ情報発信することで、新規案件へつながりやすくなるでしょう。「顧客の声」や「商品人気ランキング」などといった情報を交えれば、より興味を惹きやすくなります。ニュースレターのひな形を無料で公開しているところもありますので、参考にしてみてください。
【成功事例】人件費を増やさず、1年で年商15%UP、2年で45%UP
新規営業を成功させた企業の事例があれば教えてください。
「経営者が顧客や営業現場に近いこと」や「経営改善のスピードが速いこと」といった、中小企業ならではの特性を活かして営業体制を見直し、新規営業の強化に成功した事例があります。
ある企業では、既存顧客へのサービスを維持しながら新規取引先の開拓を試みましたが、大きな課題に直面していました。営業担当者が各顧客に張り付き、定期的な訪問や出張を行う体制の中では、新規営業に割ける時間が限られてしまっていたのです。このジレンマを解決し、機会損失していた売上を発掘するために、経営者は営業体制を見直し「全員営業コンサルティング®」を検討しました。
具体的には、営業担当者が営業活動を一貫して担当するのではなく、不在時や出張時には内勤スタッフがフォローできるよう、役割分担を明確にした新体制を組みました。例えば、既存取引先への数量調整や納期確認といったリピート営業の業務は内勤スタッフが担当するなどです。こうした取り組みの結果、営業担当者が新規営業に費やせる時間が平均20%増加し、年商を1年で15%UP・2年で45%もアップさせることに成功しました。注目すべきは、この成果を人件費と残業代を増やさずに実現した点です。
経営者が現場に近い中小企業だからこそ可能な取り組みであり、その強みを最大限に活かすことで、限られたリソースでも大きな成果を上げることができたのです。このような営業体制の見直しは、きちんと整えて実施すれば既存顧客へのサービスを低下させることなく、新規顧客を獲得する有効な手段となります。
営業体制の見直しが成功したポイントは何でしょうか。
重要視したのは、内勤スタッフの意識面です。営業業務を今まで行っていない不安面だけでなく、営業活動そのものへの拒否反応も人によっては存在するので、会社の営業体制とやり方を変更する背景や意図を丁寧に説明しました。
内勤スタッフの役割分担の業務内容も吟味して、本業に悪影響がでない範囲で、かつ残業が増えないよう検討して、そのうえで具体的に事前に指導することで現場での不安や混乱を最小限に抑えるように工夫しました。経営者も、これらの点をしっかり整えておかないと、会社の経営全体としては本末転倒になると理解してくれました。
また取引先のお客さまへは、常時社内に営業担当者だけでなく副担当がいる体制を整えることで、相談や問い合わせを営業担当者が外出中でも可能になること、緊急時にも即座に細やかな対応を行えることを説明しました。そのため、営業体制の変更も理解がスムーズで、かつ結果的に新たなサービスの付加価値として評価されていきました。
さらに営業効率を高める!パソコン1台で「売れる仕組み」を強化
その他、新規営業を成功させるためのポイントや施策などがあれば教えてください。
新規営業を成功させるには「営業量の確保」も不可欠です。そもそも商談件数や見込み客自体が少ない状態では、成果を上げる確率も低くなります。見込み客の集客方法としては、従来はリストを購入したり、広告を出したりする方法が一般的でした。しかし、現在ではインターネットの発展により、自社でも見込み客を見つけられる状態になっています。例えば、キーワード検索を活用すれば、法人の見込み先を効率的に集めることが可能です。
今後は営業活動を支える仕組みとして、遅かれ早かれ、ネットを活用した集客や情報発信が欠かせない時代へとなっていきます。その初めの一歩として、Webサイトでのコラム掲載やSNSによる情報発信も効果的です。
特に、見込み客の質を高めるためには、自社の専門性や強みを反映したコンテンツを発信し、競合との差別化を図ることが重要になってきます。SEOを意識しなくても、骨太なコンテンツを作り上げることができれば、それ自体が見込み客を集める自社メディアへと発展するきっかけとなっていきます。
パソコン1台でもできるネット活用は、その内容が営業強化に関することであっても、営業担当者以外でもやろうと思えばできることです。中小企業にとって、自社のアイデア次第で、新規営業における活用度と効果を高くすることは可能なのです。
新規営業を成功させる「全員営業」戦略のまとめ 1.営業担当だけに任せず、全員営業で人件費を増やさず営業強化 2.いますぐできること、例えば名刺からでも営業強化できる 3.中小企業こそ、ネット活用して営業強化と集客を強化する |
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
辻 伸一(辻経営有限会社 代表取締役/全員営業コンサルティング®開発者)
1967年生、三井銀行に入行後、旅行大手HISにて法人営業部の立ち上げに参画。営業実績西日本No.1スタッフとして活躍。コンサルティング会社を経て2003年独立。すべての社員を営業戦力化する「全員営業コンサルティング®」を、日本で初めて体系化。限られた経営資源をフル活用し、会社全体で儲ける仕組みにより営業力を最大化。現有戦力のままでも新規開拓や新規事業による中小企業の更なる成長や、人手不足と無駄な人件費削減も考慮した現場の革新への指南役として、いま注目を集める人物。コンサルタント歴延べ25年・400社以上を指導。人件費を上げず1年で年商197%、2年で231%など実績多数。著書『中小企業のための全員営業のやり方<新装版>』
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