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売上好調なのに資金繰りが悪化?現金不足を防ぐためにできること【税理士が解説】

2024.11.07

著者:弥報編集部

監修者:猪熊 規博

売上は好調なのになぜか現金が増えない、黒字なのに毎月支払いに苦労する、などの悩みを抱えていませんか?実は売上自体は安定した経営に直結するわけではありません。さらに、放っておくと慢性的な資金繰りの悪化や黒字倒産に陥る可能性も高まります。

今回は「経理を変え、経営を変え、未来を変えていく。」をキャッチコピーとして中小企業のパートナーとして活躍する、豊島区池袋の猪熊税務会計事務所 所長の猪熊規博さんに、売上が好調でも現金が増えない原因とその対策について、具体例を交えながら解説いただきました。

現金不足を防ぐためには、そのメカニズムを理解すると同時に、現金管理で見落としがちなポイントにも焦点を当てて迅速に対策を講じる必要があります。現金不足を解消するための施策や、各種財務指標を用いた管理方法なども紹介いただいたので、ぜひ参考にしてください。


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売上好調でも現金不足?黒字倒産や現金不足のメカニズム

売上があっても、気付けばいつも「現金がない」と感じる経営者が多いと聞きます。なぜでしょうか?

一般的に、売上が順調であれば会社が安定していると考えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。売上は増加しているにも関わらず現金が増えない主な原因として、売掛金・買掛金の入金・支払タイミング、過剰な設備投資や借入金の返済などにより、キャッシュイン(現金収入)とキャッシュアウト(現金支出)のバランスが崩れることがあげられます。資金繰りが悪化した場合、「黒字倒産」と呼ばれる突然の倒産リスクが発生することもあります。倒産に至らなくても、会計上は利益を出しているにも関わらず、キャッシュフローの管理不足により手元の現金が不足する可能性はどの企業にもあるのです。

企業が抱えるリスクの中でも、売上と現金のギャップは見過ごされがちな問題です。特に昨今、急激な価格高騰やコロナ融資の返済など、多岐に渡る社会変化の中で「会社の現金が想定より少ない」と感じる経営者は増加傾向にあります。

売上が伸びても現金が増えない会社、逆に売上がイマイチでも現金が増えている会社は、具体的に何が違うのでしょうか?

例をあげて説明します。仮に、売上2億円前後の小売業であるA社とB社を比較するとしましょう。両社ともに年間売上は大きく変わりませんが、A社は現金不足で倒産の危機に瀕している一方、B社は安定した現金フローを保っています。何が違うのか見てみましょう。

売上が伸びても現金が増えないA社の場合

まずA社は、1年目に売上を伸ばすために大量のクレジット販売を行い、売掛金が回収されるまで現金が使えない状態にあります。また、売上を確保するために多くの在庫も抱えています。加えて2年目に設備投資と長期借入金の返済が発生しており、現金の流出が続いています。

結果として、1年目と2年目の損益計算書を比較すると、売上高は増加しているものの、利益は約半分に減っており、現金も大幅に減少しています。

売上がイマイチでも現金が増えているB社の場合

一方、B社は売掛金の回収も迅速に行っており、必要最低限の在庫を保つことで流動性を高めています。設備投資は行っておらず、借入の返済額はA社より多いですが、全体としての現金流出額は少なく抑えています。損益計算書では、この2年間で売上自体は減っているものの利益は増加しており、現金も増えていることがわかります。

このように、同じ売上を上げている企業でも売掛金や在庫、設備投資や借入金などに関する現金管理の違いが経営に大きな影響を与えます。特に過剰な売掛金の発生は資金繰りに大きな影響を与えます。業種別で異なるケースもあるので一概には言えませんが、一般的には売掛金の回収期限は1~2か月程度、買掛金の支払い期限は1か月前後が多いです。これにより、両者のサイクルがうまく回らないケースが多く、結果として資金ショートとなる企業は少なくありません。

現金が増えないときにチェックすべき項目とその対策方法

売上が好調なのに現金が増えないときにまずチェックすべき項目と、対策方法について教えてください。

売上が好調でも現金が増えないときは、まず利益を適正に確保できているかどうかを確認する必要があります。利益の増減と現金収支はほぼ同じ動きをしており、利益が企業の現金フローに直結するからです。例えば原材料の高騰などを加味せず、従来の仕入れや価格設定を続けていたために、想定より利益が確保できていないというケースがあげられます。

適正な利益を確保するためには、限界利益率を上げること固定費を削減するといった対策が効果的です。利益率は業界によって異なるので、業界平均率などを1つの指標にして調整しましょう。利益率が十分にある場合は、単純に販売数量を増加させるといった、売上ボリュームの拡大に注力しましょう。

そのうえでチェックすべき主な項目は以下の通りです。自社の経営状況を確認する際は、2期分の決算書を比較し、これらの項目の数値変動を追うことが重要です。

売掛金や在庫などの管理・確認

売掛金を回収するまでにかかる平均日数である「売上債権回転期間」と、在庫を販売するまでにかかる平均日数である「棚卸資産回転期間」を参考に、売掛金と在庫の確認・管理を行いましょう。

各日数は、売掛金と棚卸資産を年間売上高で割った値に、365を掛けて出します。業界によって各回転期間の目安は異なりますが、一般的にはこれらの指標が短く、差異が少なければ迅速で健全な経営であると判断できるでしょう。

例えば、棚卸資産回転期間33日と売上債権回転期間23日の合計が56日で、仕入れから支払までが40日となった場合、支払から回収までの日数はその差である16日間となり、この期間は一時的にキャッシュが少なくなります。よってこの期間に給与の支払いなどがあると、資金繰りに支障が生じる可能性があります。

実際に貸借対照表を見てみると、利益は出ていても2年目の現預金は少なくなっているのがわかります。具体的な調整日数を計算式で出すと、売掛金の回収を早めたり、買掛金の支払いを待ってもらったりする交渉時に相手に伝えやすいでしょう。

また、プロジェクトが完了してから売上が立つビジネスモデルなどは、これらの支出のタイミングを調整することは難しいです。しかし回転期間を把握すれば、収支のタイミングやバランスを考慮し、最初にいくらの仕入れや人件費であればビジネスとして成り立つのかを計算する一助にはなるでしょう。

設備投資の見直し

企業が成長を続けるためには設備投資や借入金が必要ですが、これらの資金調達や支出が現金フローを圧迫する原因にもなります。「当座比率」「自己資本比率」の指標を参考にすれば、いくら設備投資に掛ければよいのかの目安になります。

当座比率は、当座資産を流動負債で割った値に100を掛けた数値で、健全な率の目安は150%です。自己資本比率は、純資産を総資本で割った値に100を掛けた数値で、健全な率の目安は50%です。

上記表では、2年目に設備投資を行うと想定していますが、各値が目安を切ってしまうことになるので、よく考えなければいけません。「目安を切るので設備投資を辞めよう」ということではなく、この指標に加え、投下資金をどのくらいの期間でいくら回収できるのかも含めて設備投資額を判断することをおすすめします。

借入金の見直し

借入金についても同様です。新たな事業やプロジェクトのために借入を行うことは一般的ですが、返済負担が重くなりすぎると、売上が好調でも現金が増えない原因になります。借入金の返済は固定費として毎月発生するため、資金繰りの中で大きな割合を占めます。

企業の借入金が月商の何倍に相当するかを示す「借入金月商倍率」と、現在の収益力で借入金を全額返済するのに必要な年数を示す「債務償還年数」を計算しましょう。借入金月商倍率は、借入金総額を月商で割った値であり、借入総量としての判断目安は3.5倍です。

債務償還年数は、借入金、現預金、正常運転資金(売掛金と在庫から買掛金を引いた値)を年間のキャッシュフロー(現金収入)で割った値であり、10年以内となるのが妥当です。

これらの数値が明確になれば、毎月の返済額を調整したり、返済期間のリスケジュールを事前に相談したりするなどの対策ができます。また、借入をする際にも、短期借入と長期を組み合わせた返済計画を事前に立てておけば、返済負担を減らせます。例えば、短期借入金を毎年借り換えれば元本の返済を先送りでき、長期借入金額を減らせるので毎月の返済負担も軽減されるでしょう。

固定費の見直し

固定費の管理も重要です。人件費や家賃などの固定費がもし仮に売上の増加に比例して増えてしまうとすると、その分現金が減少する原因となります。これらの問題に対処するためには、労働分配率や適正な役員報酬の額など、同業他社との比較をすることが有効です。

また、現状の固定費できちんと利益が出ているかも都度確認しましょう。固定費総額に目標利益を足した額を、限界利益率で割ることで目標売上高を算出できます。その値が現実的に到達可能なものかどうかを検討し、難しい場合に固定費の削減を行うのも一つの手段です。

他にもある!現金が増えない原因とその対策

その他、特に中小企業の経営で考えられる「現金が増えない理由」はありますか?

現金が何かに形を変え、また現金になる過程で滞留してしまうと、現金が増えないことになります。見落としがちな項目をあげてみましょう。

売掛金の貸倒れ

取引先の資金繰りが悪化すると、回収予定の売掛金が長期間にわたって回収できなくなったり、取引先が倒産してしまうと回収不能になったりしてしまいます。このような状況を防ぐためには、取引先ごとに売掛金の年齢(発生してからどれくらい経過しているか)を調べて管理することをおすすめします。

貸付金・立替金・未収入金

貸付金や立替金、未収入金が回収見込みのない状態になる場合もあります。例えば、社長に対する貸付金などがこれに該当します。対策としては、貸付先ごとに管理し、年度末までに解消させることが有効です。

固定資産・投資

結果的に現金の増加につながらない固定資産や遊休資産、金融商品を購入することもあるでしょう。現金収入にならない車の購入や株式投資が該当し、過度な購入は経営を圧迫します。現預金が不足している場合、これらをすぐに売却することで現金化できます。

保険積立金

過度な保険料の積み立ても問題です。退職金準備のためなどにより保険料を積み立てているが、試算し直すと過剰な積み立てになっていた、というケースもよく聞きます。保険料は定期的に見直し、場合に依っては払い済みにすることを検討してもよいでしょう。

損益計算書(PL)では利益が出ているのに現金が不足している理由は、これらの科目が原因となっていることが多いです。何かに投資するとき、それが最終的に回収されて現金として戻ってくるかどうかをしっかりと確認することが重要です。

簡易キャッシュフロー計算書と月別・日別資金繰り表で、早めの対策を

現金が増えない原因を、どのように調査・改善していけばよいか教えてください。

現金が増えない原因を把握するためには、資金繰りの管理が必要になるでしょう。年間単位で簡易キャッシュフロー計算書を作成し、資金の大まかな流れを理解することが大切です。具体的な資金繰りの課題を見つけるためには、日別の資金繰り表を作成するのも効果的です。

例えば、16日(火)に一時的に資金が少なくなった場合、そのようなケースを防ぐ補填方法を検討する必要があります。売掛金の回収期間が45日以上かかっている場合、対策として取引先と交渉して回収サイトを短縮するようにすれば、余計な心配を減らせます。

加えて仕入れの支払いサイトについても、取引先と交渉して支払いを遅らせるなどの対策を講じましょう。日別資金繰り表はどのような形式でも構いません。短期的に作成することで現状把握ができ、資金不足に陥る前に対策を講じることができます。

日別資金繰り表ができたら、実績を基にした月別資金繰り表を作成します。そうすれば、年間を通していつ資金が不足しやすい傾向があるのか、そもそも資金残高が足りないのか、などを俯瞰して見つめ直せます。加えて、事業計画なども参考にしながら次月以降の予測月別資金繰り表を作れば、早目に資金ショート回避策を打てるようになるでしょう。

感覚的な経営判断で日々を乗り切っている経営者は少なくありません。しかし、お金の動きを管理しなければ、過剰な不安や予想外の倒産などといったリスクを高める原因となります。経営の安定と精神的な余裕を確保するためにも、資金繰り表を効果的に活用し、早めの対策を講じることが不可欠です。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

猪熊 規博(猪熊税務会計事務所 所長、税理士)

2001年、明治大学商学部を卒業後、日本生命保険、YKK、本田技研工業で15年に渡り、国内外の会計・経理業務に従事。
2017年に税理士の資格を取得し、猪熊税務会計事務所に入所。2020年には所長に就任。
立教大学大学院で講師やNPO法人の運営も務めている。歴史探訪・史跡巡りが趣味で、各地の歴史的な場所を訪れるのが好き。
豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの多様なニーズに応え、確かなサービスを提供し続けている。

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