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売上アップのヒント!「6つの顧客価値」を見直そう

2024.03.26

著者:弥報編集部

監修者:加瀬 元日

コロナ禍もようやく収まりつつある現在ですが、物価高騰・人材不足・賃上げなど、社会環境の急激な変化が見受けられます。企業にも大きな影響を与え、従来の経営方法や売上構造では太刀打ちできないと考える経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に売上を拡大していくにしても、何をどのように変えていけばよいのか、わからないという声もよく聞きます。

実はまったく新しい仕組みや事業の構築をせずとも、改めて自社を振り返ってみると、明日からできる売上拡大のヒントが隠されていることもあるのです。では、どのような点に注力すればよいのでしょうか。

今回は公益財団法人日本生産性本部の加瀬元日さんに、既存事業の売上拡大方法や企業が提供すべき6つの顧客価値、具体的な施策などについてお話を伺いました。

加えて「売上」がどのように構成されているかを紐解き、漠然とした売上に対する視点を変える方法なども解説いただいたので、中小企業経営者の皆さまへのヒントとなれば幸いです。


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なぜ今「売上アップ」を目指すのか?

さまざまな社会情勢の変化を背景に、多くの業界で構造転換期を迎えている今こそ、売上アップのチャンスです。

コロナ禍も落ち着いた今、外国人観光客の増加やサービス需要拡大などのプラス面がある一方で、為替変動や国際環境要因に根ざす物価高、国をあげての賃上げ促進や労働力不足など、企業を取り巻く環境が大きく変化しています。

この環境の変化は、企業にチャンスとリスクをもたらします。例えば、下請け企業においては国をあげて価格改定を支援している今こそが商品単価アップのチャンスであり、小売・サービス業なども各社が値上げをしているからこそ、顧客の理解を得やすいタイミングといえるでしょう。

ただし、むやみな商品単価アップは客離れによる売上・収益性悪化などのリスクを伴います。時機を捉えて実を伴う施策を打ちましょう。

そもそも売上はどうしたら拡大できるのか?

売上を拡大するには、客数か客単価、あるいはその両方をアップさせる必要があります。

そのために、商品(サービス)開発や商品ラインナップを充実させて、価格や販売チャネル(店舗)、販売促進を顧客にとって効果的で魅力あるものにしていく必要があります。1人1人の顧客に購入していただいた積み重ねの結果が企業の売上であり、売上を決めるのは自社ではなく顧客です。顧客にとっての価値を探求・向上させていくことが、売上拡大の基本です。

このようなことに留意したうえで、売上方程式を考えていきましょう。下図はスーパーマーケットの場合の売上方程式ですが、他の業界でもほぼ同じ考え方となります。

〈売上方程式 既存店における年間売上向上方程式(スーパーマーケットでの例)〉

まず「年間売上」とは「期中のべ購入客数×購入1回当たりの平均客単価」です。1年間の売上を増加させるには、のべ購入客数(小売店であればレジ客数)と、購入1回当たりの平均客単価を上げる必要があります。

次に「期中のべ購入客数」とは「利用客数×期中平均購入回数」です。期中のべ購入客数を増やすには、利用客数と平均購入回数を増加させる必要があります。

また「購入1回当たりの平均客単価」は「平均買上商品単価×購入1回当たりの平均買上点数」ですので、購入1回当たりの平均客単価を増やすには、平均買上商品単価(顧客が買った商品の単価の平均値)と、購入1回当たりの平均買上点数(顧客が買った商品点数の平均値)を上げる必要があります。

このように方程式で分解していくことで、自社の弱い点や今後強化すべき点が見えてきます。この売上方程式はすべて掛け算になっているため、どれか1つの数値が上がるだけでも売上が上がります。複数の数値が同時に上がれば、売上は相乗的に増加します。

これらの数値を上げるために、数値と具体的なマーケティング施策を紐づけて考えましょう。売上アップの実現性が増すほか、それぞれの施策の効果がどの程度あるのかという検証を、売上方程式の各指標と絡めて行えるようになります。

今こそ見直したい「6つの顧客価値」

今回は、売上方程式の中でも「客単価(購入1回当たりの平均客単価)」、特に「商品単価(平均買上商品単価)」をどうやって上げていけばよいのかを中心に、掘り下げて考えてみます。

客単価アップ、商品単価アップの基本は、「顧客価値(顧客満足度)の向上」です。顧客は、自分にとって価値のある商品やサービスであれば、高いお金を払ってよいと考えますし、価値が低ければ安く済ませようとします。

それでは、顧客にとっての価値とは何なのか。ここでは小売業のケースを中心に、私が提唱している顧客価値のフレームワーク(顧客価値モデル)をベースに解説します。他の業界でも「店舗利用体験価値」など一部の要素を置き換えれば同じように活用できるので、自分事として見てみてください。

〈顧客価値のフレームワーク〉

最初に注目すべきは、「1 基本的価値」です。これは、その業界でビジネスを行うために必要不可欠な要素を抽出したものです。

構成要素としては1-1 商品(有料サービス)価値、1-2 店舗利用体験価値、1-3 コストです。

1-1 商品(有料サービス)価値

商品やサービスそのものの価値のことです。品質や機能、形態、デザイン、耐久性、納期、商品(サービスメニュー)の品揃え・選択肢などからなります。消費者が商品を買う際の主目的であり、直接的な消費価値・利用価値を生み出します。

1-2 店舗利用体験価値

商品の陳列・選びやすさや、スタッフの接客応対、店の雰囲気・居心地、商品や店舗利用に有益な情報の入手などに関する価値のことです。これらは商品・サービス購入にも影響を与えるほか、時間消費という点でも顧客に付加価値をもたらします。店舗利用体験価値は、不十分な情報しか持たない顧客の購買意思決定に大きな影響を与えます。また店内時間消費にも、経済合理性・情緒性の両面から影響を与えます。

1-3 コスト(料金+時間的・精神的コスト)

料金のほかに、時間的・精神的コストも含みます。料金とは、商品やサービスに対する支払いのほかにも、店舗に行くための交通費や燃料代、駐車場代などを含みます。また時間的・精神的コストとは、店舗に移動したり実際に買い物をしたりするための、時間や精神的負荷を意味します。

ここでのポイントは、実際に支払った金額や失った時間ではなく、顧客が感じる料金や時間、精神の負担感ということです。

例えば、500㎖のペットボトルの水1本を買うとします。スーパーで買えば60円、コンビニエンスストアで買えば110円。Aさんは「50円の価格差は大きいので、スーパーでペットボトルの水を買おう」と考えますが、一方でBさんは「歩行時間とレジ待ちで余計な時間がかかるのは嫌だから、価格は高いがコンビニエンスストアでペットボトルの水を買おう」と考えます。

このように料金や時間、精神面のコストに対する評価は、あくまで顧客の感じ方次第なのです。

業界の環境が成熟してくると、基本的価値の提供だけでは差別化が難しくなります。例えば、商品やサービスに関して他社との違いを生み出しても、特許や何か特殊な要素がないと、すぐに他社にまねされてしまいます。そこでよりいっそう重要になるのが、2 ブランド価値、3 新規性価値、4 継続利用価値です。

2 ブランド価値

ブランドに対する信頼性、ブランドイメージ、ブランドに対する好感・共感などに関する価値のことです。消費者が商品やサービスを買う時点で品質や機能などを的確に予見することが難しい場合があります。予見できない未来について、消費者はブランドを信頼して委ねるしかありません。このことから、小売業に限らずどのような産業でも、ブランドに対する信頼性は非常に重要です。またブランドに対する好感・共感は、気持ちという面でも消費者に付加価値を与えます。ブランドというとメーカーを連想する人が多いですが、小売業などにおいても「ストアブランド」というものが存在します。ブランドは「存在するか、しないか」というよりも、力の強弱や質の違いという見方をした方がよいでしょう。

3 新規性価値

企業・ブランド・商品・店舗の流行や目新しさなどに関する価値のことです。日々の生活に対して変化や新しい刺激・知見を求める人々は、この新規性価値を重視します。市場が成熟してくると、業界や商品に対する顧客の知見が増えてマンネリ感が生じやすくなります。特に感性を刺激するビジネスにおいては、新規性を生み出して顧客の好奇心を刺激していくことが重要になります。

4 継続利用価値

ポイントカードや会員特典など、継続的に店舗を利用することにより生じる価値のことです。経済的価値のほかにも、いつも利用している店だからこその安心感や快適さ、アフターサービスなども含まれます。

新規性価値とは対照的に、利用することでメリットが上積みされていく価値です。継続利用価値が高まり、繰り返しの店舗利用が進むと、顧客の習慣化や無意識的な消費行動も期待できるようになります。

顧客価値向上が、商品単価・客単価アップの秘訣

これまでに説明した6つの顧客価値要素が、どのように商品単価や客単価・売上に影響していくのかを考えてみましょう。まず、商品単価に直接大きな影響を及ぼすのは、「商品価値」と「ブランド価値」です。

「商品価値」については前述のとおり、品質や機能、形態、デザイン、耐久性、納期、商品(サービスメニュー)の品揃え・選択肢などの視点をベースに、改良を考えていくとよいでしょう。これはメーカー・卸・小売業など、業種・業態を問わず必要な考え方です。結果的に、新規顧客の開拓や、既存顧客のリピート率アップ(期中平均購入回数アップ)、買上点数アップなどにもつながっていきます。

「ブランド価値」については、最初に「ブランドへの信頼性」を高め、次に「ブランドイメージの向上」、そして「ブランドへの好感・共感」を高めていくことが基本です。短期的な利益の追求ではなく、長期的な視点で自社ブランドのこだわり・生き方を考え、経営者の強い意志の下で社内外へ展開していきましょう。

〈ブランディングプロセス〉

残りの顧客価値要素を見てみると、「店舗利用体験価値」はリピート率アップや買上点数アップに効果的であるほか、商品単価アップの土台にもなります。高いグレード感の店舗で質の高い接客を受けることで、顧客は高単価商品でも買いたくなっていきます。

「コスト」については、顧客の時間・精神面の負担を和らげることで、商品の単価アップを受け入れてもらえるようになります。例えば、コンビニエンスストアは、スーパーと比較しても明らかに単価が高いのにもかかわらず発展しています。これは店へ移動する時間や、商品を探す時間、レジで待つ時間などが短縮されており、買い物に伴うストレスの軽減が大きく影響しているからです。ECも顧客にとっての大幅なコスト削減につながります。

「新規性価値」は、新規顧客の獲得に大きく寄与するほか、商品単価アップにもプラスの影響を及ぼします。

「継続利用価値」は、リピート率アップに大きく寄与します。ただし、ポイント値引きなどのやり方によっては、実質的な商品単価を落としてしまう可能性があるので注意しましょう。お得意さまには商品に対する理解・関心を深めてもらい、本物がわかる高価格帯商品ユーザーへとリードしていくとよいでしょう。

自社を見つめ直し、売上拡大の戦略を立てよう

企業が成長・発展していくには、既存事業の深掘り(レベルアップ)が必要です。

営業的な駆け引きや顧客とのパワーゲームのようなやり取りで一時的な売上を目指したり、成功に時間がかかる新規事業開発にすぐに取り掛かったりするのではなく、まずはどのような仕組みで売上が立っているのかをしっかりと理解する必要があります。そのうえで自社の弱みと強みを把握し、既存事業の強化と売上拡大への一歩を踏み出してください。

企業の変革を阻害する最大の要因は、経営者の思い込みとチャレンジマインドの欠如です。将来に向けて、「自社が目指すものは何なのか」をよく考え、目的・目標実現のために戦略・戦術策定と社内外への展開を、実験・検証も入れながら進めていきましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

加瀬 元日(公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部 主席経営コンサルタント)

株式会社ナイキジャパンにて直営店ビジネスの構築や全国店舗展開業務を経て、現職。
経営革新、顧客満足度向上、社員満足度向上、業績向上の同時実現を軸に、大企業からベンチャー企業まで、多くの企業の経営指導・支援に当たる。
著者『企業経営の理論と実践』(学文社・共著)

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