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今急成長中のフェムテック市場。新規に参入するにはどうすれば?

2022.09.02

著者:弥報編集部

監修者:山田 奈央子

最近「フェムテック」という言葉をよく聞くようになりました。フェムテックとは、女性のお悩みを解決する商品やサービスのことです。

今回はフェムテックの概要や注目される背景、市場としての成長性なども解説しつつ、具体的に中小企業がどのように参入すればよいのか、一般社団法人日本フェムテック協会の協会代表理事である山田 奈央子さんにお話を伺いました。


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フェムテックとは

フェムテックとは、どのようなものなのでしょうか。

フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語です。学会などで明確に定められているわけではないのですが、我々フェムテック協会においては以下7つの領域を対象として捉えています。

  • 月経
  • 妊娠・不妊
  • 産後ケア
  • 更年期障害
  • ポスト更年期(更年期が過ぎた後の時期、一般的には50代後半以降)
  • 婦人科疾患
  • セクシャルウェルネス(性と生殖における健康)

これら7つの領域における健康課題を解決する商品やサービスが、フェムテックと呼ばれるものです。

女性の辛い状況を周囲に伝えやすくなるように改善する動きや、女性の活躍を推進する動きも含め、フェムテックと呼ぶことがあります。日本においても、ここ2~3年で大きな盛り上がりを見せています。

〈フェムテック市場の規模〉

フェムテックの市場規模や、成長の見通しなどを教えてください。

フェムテック市場の規模は2019年に18.75億ドルになり、積極的に投資が行われるようになりました。特に医療系のスタートアップがどんどん誕生しはじめたのが、このころです。2020年になると、フェムテックを代表するスタートアップが世界でも数多く登場し、産後のケアやセクシャルウェルネス(身体的・精神的・感情的・社会的な観点から見て、性に対して健やかであること)などのジャンルの規模が大きくなっていきました。

2027年に市場規模は2019年の3.2倍、2037年までには400億ドルを超えるといわれています。

出典:フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査を実施(2021年)|株式会社矢野経済研究所

矢野経済研究所のデータによると、日本のフェムテックの市場規模は2019年で約574億円、2021年で約635億円ということです。そして、2025年には2兆円規模になると予想されています。2022年現在では実際、ほぼこの通りに推移している状況です。

「フェムテック」が注目されるようになったのはなぜ?市場参入のメリット

なぜ今、フェムテックが注目されるようになったのでしょうか?

フェムテックが日本で注目されるようになった要因は、いくつかあります。

1つは、新型コロナウイルス感染症の影響で気楽に病院に行けなくなったり、自分の健康状態を見つめ直す機会が増えたりしたことが大きかったからです。

フェムテックの代表的なアイテムといわれている吸水ショーツは、かなり前から日本にも存在していました。ただ外に働きに出ていたり、外出が多かったりする女性は、なかなか使う機会を得られない状況だったのです。しかし、リモートワークが普及したことで、吸水ショーツを使う機会が増え、フェムテックが普及する大きなきっかけとなりました。

2つ目に、メジャーな大企業が参入しはじめていることがあげられます。

日本は2020年がフェムテック元年と言われ吸水ショーツが火付け役となり、Be-A(ベア)やNagi(なぎ)、Periodといったベンチャーが次々と登場しました。メジャーな大企業は2021年あたりからどんどん参入しはじめています。

なかでも、ユニクロの参入は大きな話題となりました。また、GUやスリーコインズなどに、フェムテックの商品が並んだこともムーブメントのきっかけになっています。2022年にはイオンが「byeASU(バイアス)」というフェムテック専門店をオープンしたことで、食料品などの日常品を購入する場所でフェムテック商品を気軽に買えるようになったことは、社会に対してのインパクトが大きかったですね。

3つ目に、ジェンダーに対する意識の変化が、フェムテックの浸透を後押ししたといえるでしょう。

SDGsが日本企業に浸透したことで、17の目標の一つである「ジェンダー平等を実現しよう」の一環として、フェムテック事業を推進するケースも見られます。また、2021年の流行語大賞にフェムテックがノミネートされたり、日経トレンディがフェムテックギアという言葉を取り上げられたりしたことも、ムーブメントを後押しした要因といえるでしょう。


中小企業がフェムテック市場に参入するメリットを教えてください。

中小企業がフェムテック市場に参入するメリットは3つあります。

〈メリット1:新しい領域に積極的な企業として注目される〉

1つ目は、新しい領域の新規事業に取り組んでいるということで、市場での注目を集めやすいことです。

〈メリット2:新規事業の柱になる〉

2つ目としては、フェムテックが新規事業の柱になり得るという点にあります。

〈メリット3:企業内での女性のポジション見直しが進む〉

3つ目は、企業の中で女性が活躍しやすくなることです。これまで企業の中で女性がなかなか活躍できなかった理由の一つに、重要なポジションに女性があまりいなかったことが挙げられます。つまり、キャリアの問題といえるでしょう。

〈メリット4:女性が活躍しやすい企業風土実現〉

フェムテックの新規事業を立ち上げることで、社内で勉強会などが開かれるようになります。ヘルスリテラシーを全員で学ぶことで、苦労を理解し「もっと相手を思いやろう」「マネジメント方法を考え直そう」という動きに発展するという二次的産物が生まれることも、フェムテックに参入する大きなメリットといえるでしょう。

フェムテックは、女性にとって完全に自分ごとです。年齢に関係なく、自分の経験値で発言でき、それがビジネスアイデアとして形になる可能性があります。その結果、社内の風通しがよくなったり、女性管理職・役員を選出する流れが作りやすくなるのです。

実際、多くの会社で「フェムテックを始めたことを機に、女性が活躍できるようになった」という話を聞いています。

発展途上にあるフェムテック市場。現状と課題は

フェムテック市場における課題点があれば教えてください。

あくまでも日本における話となりますが、フェムテック市場の課題は2つあります。

〈課題1:需要と供給がマッチしていない〉

1つ目は、女性消費者のリテラシーが追いついておらず、需要と供給がマッチしていないことにあります。

近年、フェムテック市場が盛り上がってきたことで、参入する企業も増加傾向にあります。これまではフェムテック専門の展示会もなく、2020年や2021年はビューティーワールドや健康博覧会などの、一部コーナーで出展されていた程度でした。しかし、2022年の初めあたりからフェムテックを大々的に扱うブースが増えてきたのです。そして2022年の10月には、Femtech Tokyo(フェムテック トーキョー)というイベントが、東京ビッグサイトで開催される予定となっています。しかし、こうした状況においても「予想しているほど依頼がこない」と、どの企業も口を揃えておっしゃるのが現状です。

我々がフェムテック協会を立ち上げた理由は「女性特有の悩みに寄り添いたい」という思いがあったからです。間違った知識や偏った情報によって、女性自身、自分の体に関する知識が乏しく、今後のライフスタイルにおける体調の変化についてあまりにも無頓着になっていると感じています。そのため、さまざまなフェムテックのサービスや商品があっても「どの商品を選んだらよいかわからない」「自分に何が合うのかわからない」といったように、明らかにヘルスリテラシーが追いついていない状況に陥っているのです。

したがって、まだ啓発が必要な段階で、我々フェムテック協会は今から3年間が非常に重要だと認識しています。

〈課題2:マーケットプロダクトに偏りがある〉

2つ目の課題は、マーケットのプロダクト(商品・サービス)に偏りがあることです。

現状、生理にまつわる商品サービスや妊娠、妊娠するために必要な力である妊よう性にまつわる商品やサービスが、圧倒的に市場を占めています。しかし、実際には女性のライフステージには更年期やポスト更年期、女性疾患など、さまざまな課題がありますから、本当はもっと更年期の商品やサービスが増えなければいけません。

実際に市場規模としても、生理のマーケットよりも更年期のマーケットのほうが大きいといわれています。日本だけでなく世界のマーケットにおいても、更年期向けのサービスや商品は少ないのが現状です。

フェムテック商品やサービスの事例

フェムテックの具体的な商品やサービスの事例をいくつか紹介してください。

フェムテックは、以下のような商品やサービスを展開しています。

〈生理用吸収ショーツ〉

まず、吸水ショーツなどのプロダクトは、ロットが少なく価格もそれほど高くないので、スモールビジネスとしてスタートさせやすいと思います。また、ショーツの延長線上にあるものなので「ここをこうしたい」といったアイデアベースでプロダクトができることも、参入障壁が低い理由です。

〈デリケートゾーン系コスメ〉

デリケートゾーン系のコスメも増えていて、フェムテック市場において吸水ショーツと2大巨頭といえる状況となっています。デリケートゾーンのアイテムは、フェムケアソープやクリーム、ミスト、オイルなど、さまざまなものに細分化されるのが特徴です。

〈オンライン系サービス〉

まとめ系の情報サイトなども、IT系の企業が医者などと協業して始めやすいので、最近非常に増えています。さらに、オンライン診療やLINEで相談を受けるオンライン系のサービスや、フード・サプリ系のサービスも参入障壁が低いため、多くの企業が参入している状況です。

3年前は女性のお悩みを解決する商品が多かったのですが、ここ1年位は特出したお悩みを解決するものや、女性のライフスタイルを変えてQOLの向上をめざす商品やサービスが増えている印象がありますね。

中小企業がフェムテック市場へ参入するにはどうする?

フェムテックは国内ではまだ比較的新しい市場だと思いますが、中小企業でも参入できる余地はあるのでしょうか?

現在であれば、中小企業がフェムテック市場に参入する余地は十分にあります。

多くの企業がリスクを大きく取らずに、まずは自社のリソースを活かして、できることから始めているケースが多いのが現状です。例えば、アプリが得意な会社であれば生理管理のアプリ、下着の会社であれば吸水ショーツ、メディアを運営している会社であればまとめサイトなど、自分たちの強みとなる要素を加えるとどんな商品を作れるのかというアプローチが圧倒的に多いと思います。そして、それが最も順調に展開します。やはりその会社のリソース、得意なところを活かすことが大変重要です。

その会社の強みがまったく活かされておらず「なんとなく作ってみました」という商品を、消費者は賢いのですぐに見抜きます。フェムテック業界では、女性のお悩みを解決することや、女性自身が共感できるプロダクトであることが非常に重要です。我々が商品やサービスを評価するときには、さまざまなポイントがあるのですが「ちゃんと女性の気持ちに寄り添っているか」「女性のお悩みを解決できるものか」という部分を高く評価しています。

「うちの会社はこのような強みを活かして、女性のお悩みを解決します」といった明確なストーリーを明示できないと、いくらフェムテックを打ち出しても市場に受け入れられないでしょう。

もちろん、化粧品会社がいきなりオンラインサービスをスタートさせるなど、まったく違う業種で始めるケースも多いです。しかしプロダクトが的を射ていないことが多く、失敗するケースが多いので、やはり自社の強みを活かせる業種で参入するべきでしょう。

また、うまくいっている企業は、社内にフェムテックチームを立ち上げているケースが多いです。公募制にして、部門横断でやる気のある女性社員を集め、自分の経験値や悩みを活かして商品化することで社内の活性化にもつながります。

マネジメントに男性社員も加わっている点も、成功している企業の共通点です。商品やサービスの開発は女性が行い、ビジネスにおけるマネジメントは男性が行うパターンが、成功しやすい傾向にあるようです。

〈フェムテック事業に取り組むチームの編成は女性率が高い傾向にあり〉

フェムテックの商品やサービス開発など、事業を推進する方に性差はあるのでしょうか?

フェムテック協会の会員1万人に対してアンケートを実施した結果、社内のフェムテックチームに男性がいる割合は50%でした。男性の役割としては、管理職や推進役といったケースが多いです。一方、生理系のカテゴリーに関しては、女性社員の割合が多くなります。

大企業の場合は、社長や役員命令で社内に専門の部署が立ち上がって推進するケースがほとんどのようです。中小企業の場合は、女性社員からの提案するパターンがかなり多いと聞いています。


フェムテックの商品、サービス開発を男性社員が行うことはあるのでしょうか?

あります。ただし、このパターンの場合、男性社員側に自分の意見を通したい方が多いと、ユーザーが欲しい商品やサービスとミスマッチが起こる可能性が高くなるでしょう。

もちろん中にはフェムテックについて深く勉強されている男性もいて、商品やサービスのアウトラインをほとんど作っているというケースもありますが「フェムテックが儲かるらしい」という噂だけで、リサーチもせずに進めるケースはほとんどの場合うまくいきません。

やはり、フェムテックを活用して女性のどのような課題を解決するのかという志や、それを実現するために勉強する強い意思がないと、プロジェクトの成功には繋がりません。


弥報Onlineの読者には女性の経理担当者も多いのですが、フェムテックチームに経理担当者を参加させるメリットがあれば教えてください。

経理の方は社員一人ひとりとコンタクトをとる必要があるので、社内でも頼れる存在になっている場合が多いです。縁の下の力持ちのように、社員全員の状況をよく知っていて相談にも乗っているので、女性に寄り添った商品開発ができると思います。

実際に私が、社内のリテラシーをあげたり、働きやすくするためのフェムテックチームを社内に作ったときも、プロジェクトリーダーは経理の女性でした。メンバーの面倒見がよく「彼女に聞けばなんでも解決する」と言われるほど、皆に信頼される存在です。

実際に会社のことを一番よく知っていて、日ごろから「今、こんなことで悩んでいます」「家庭でちょっとトラブルが……」といった相談に乗っているような方は、ユーザーに寄り添った商品開発にはうってつけの存在といえるでしょう。


中小企業がフェムテック市場への参入を検討する場合、社内で準備するべきことを教えてください。

プロジェクトを推進するためのチーム編成が最も大切です。性別の偏りがないチーム編成が、非常に重要であると意識してください。

フェムテック事業がうまくいっている企業は、この点をとても大事にしていますね。チーム内に必ず男性と女性を編成し、それぞれの能力を活かせるように役割分担を明確にしています。

また、女性の風土や意見を取り入れることが、このジャンルは特に大事と考えてください。

〈フェムテック事業検討時の相談先〉

フェムテック事業を検討する際、困ったときに相談できるところがあれば教えてください。

まず、我々フェムテック協会に相談してみてください。我々は、既に開発済のプロダクトを推薦させていただいたり※、賛助会員になってくれた企業をPRする活動をしています。

※推薦の際は評価を行い、合格に達した際に推薦とさせていただいております。

マーケットの状況がまったくわからない場合には、矢野経済研究所のデータなどを購入して勉強したり、既にフェムテック商品を展開している企業に相談するのもよいかもしれません。

一方、マーケティングの相談をしたい場合には、株式会社ハー・ストーリィが最近、フェムテック事業や商品化に注力されているので、そちらへ勉強しにいくのもおすすめです。

既に商品を開発済みで、どうやって販売したらよいかわからない場合には、合同会社DMM.comがフェムテックのオンライン展示会を開催しているので、そちらに出展してみるのも一つの方法です。企業マッチングなども積極的に行っているので、有効活用してみてはいかがでしょうか。

また、株式会社ダブルコレクションが運営するウーマンズラボではフェムテック向けの展示会を取りまとめています。アプローチしてみるのも、一つの方法と考えてみてください。

国もサポートしてくれる!フェムテックに使える補助金

経産省もフェムテックを推進する企業を全面的にサポートしているようですが、利用できる補助金や助成金はあるのでしょうか?

2022年度は5月で終了していますが「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の活用がおすすめです。次回も実施されると思いますので、ぜひご活用ください。

「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」は、国が採択された企業を積極的にPRしてくれたり、相乗効果が出せそうな企業を紹介してくれたりする点も大きなメリットです。また、実証実験の途中で何度か報告会が実施されるので、そのときに他社の成功事例などを参考にでき、非常に有用といえるでしょう。

また、フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金に限らず、プロダクトを開発する場合は「ものづくり補助金」、ITサービスを開発する場合は「IT導入補助金」を使うなど、さまざまな補助金を併用されている企業が多いです。

要件を満たしている場合は、ぜひ補助金の活用も検討してみてくださいね。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

山田 奈央子(一般社団法人 日本フェムテック協会 事務局)

上智大学文学部ドイツ文学科卒業。大手下着メーカーで下着の企画・開発を行った後、ランジェリーの販売も経験。世界初の下着コンシェルジュとして下着のアドバイスを行う。2006年に上田 美央と株式会社シルキースタイルを設立し、フェムテック商品の企画開発を行う。2021年より(一社)日本フェムテック協会を設立。代表理事として女性特有のゆらぎに寄り添うため、ウィメンズヘルスリテラシーの重要さを周知するさまざまな活動をしている。

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