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ヒット商品を生み出す「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」:実践のビジネス心理学②

2017.10.23

ヒット商品を生み出す「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」:実践のビジネス心理学②

「営業先でなかなかうまく話ができない」「新商品のパッケージに使う文章が浮かばない」

ビジネスの現場でありがちなこうした悩みは、心理学を応用することで解決するかもしれません。本連載では、日本ビジネス心理学会の副会長を務める匠 英一氏が、明日からでも使える心理学を用いたノウハウを、こっそりと伝授します。

「売上No.1」だとなぜ買うか:「バンドワゴン効果」

パソコンなどを買いに行くと、その種類や機能の多さに圧倒されてしまい、何を買えばよいか迷ってしまうことがありますよね。そんなとき、POPの宣伝文句に「当店No.1の売れ筋」などと書かれていたりすると、ついそれを買ってしまったりします。

これは「多数=価値」という心理が働くもので、「バンドワゴン効果」と呼ばれるものです。「バンドワゴン」は、パレードなどで楽器の音頭をとりながら先導する役割を持っています。このことから、「周りと同様の行動をする性質」を意味するものです。

心理学的には「同調効果」とよばれています。心理学者ソロモン・アッシュの実験では、50人の被験者をそれぞれ、解答を知っているサクラを混ぜたグループに入れて質問をしました。このとき、被験者単独で回答させた場合は95%の正解率であるのに対し、5人のサクラに間違った回答を言わせた後で同じ質問をすると、正解率が65%に落ちてしまいました。

また、路上で空を見上げる実験では、サクラ役の3人が空を見上げていると、そこを通る人の60%が同じように見上げる行動をとることが分かっています。見上げる人数が増えればそれに比例して同調効果も高くなることや、自分の判断に自信がないときほど、また流行に反応しやすい人ほど同調しやすいことも実証されています。

多数に同調してしまう心理が「バンドワゴン効果」
多数に同調してしまう心理が「バンドワゴン効果」

自分らしさにこだわる心理:「スノッブ効果」

ところが、私たちの心理にはこの「バンドワゴン効果」とは逆のものもあることに注意が必要です。

例えば、あなたがセミナーなどで隣に座った人がまったく同じ服を着ていたとしたら、居心地が悪くなるのではないでしょうか? それが安い服ならなおさらですが、たとえ高いブランドであっても気まずいものです。

ここには自分と他人を区別したいという欲求があります。多くの人と一緒であることに安心する一方で、「自分らしさ」にこだわる心の働きがあるのです。

このような他者と差別化しようとする心理の働きは、「スノッブ効果」と呼ばれています。誰にでも個性的な自分ありたい、認められたい、目立ちたいといった心理がありますよね。

ちょうど他者に同調しようとする「バンドワゴン効果」とは逆の意味であることから、対で覚えておくとよいでしょう。

他社と差別化したい心理がスノッブ効果
他社と差別化したい心理がスノッブ効果

「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」は相対するものか:実験の例

ヒット商品をつくり出すには、「バンドワゴン効果」が重要であることは確かです。ただし、自分らしさや個性を大事にしたいという「スノッブ効果」も、ブランド品や趣味などに関連する嗜好品には不可欠でしょう。

しかし、そもそもこの2つの効果は相対するものでしょうか? 同じ消費者においては、どちらかの傾向が高いと考えるべきなのでしょうか?

中央大学商学部の研究グループの調査によると、個性重視の「スノッブ効果」が高い傾向の消費者ほど、他人と同調しようとする「バンドワゴン効果」も並行して高いことが分かったというのです。

出典:同一消費者内で発生するバンドワゴン効果とスノッブ効果

端的にいえば、個性重視派ほど多数派にもなびくというわけですが、これは意外な結果でした。本来、個性を求めるタイプは他者への同調はしないと思われがちですが、モノを買う消費行動においてはこの対立的な見方は誤りというのは発見でした。

個性を重視することと多数派へ同調する傾向は相互に関連していて、両者とも高い消費者がいるということに注目しておく必要があります。

「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」を販売に活かす3つのポイント

このような心理調査の結果をどのように販売に活かすのかについて、アパレルや食料品を例に3つのポイントを見てみましょう。

1.同じカテゴリーの商品を、色や組み合わせによって多様性を演出する

例えば、ユニクロには同じアイテムの商品であれば、その種類の色やサイズが多様であるため、色の違いで個性を出せる点や、上下の組み合わせをアレンジできるデザインにすることで、消費者側が「自分らしさ」を演出できます

極端ですが、スティーブ・ジョブズは、まったく同じ色(黒のタートルネック)と形(ジーンズとのペア)のスタイルを通すことで有名でした。本人は考える手間が省けると語っていたようですが、ベルトは変えていたそうです。彼はそれによって個性的であることと、多数派への同調効果を同時に満たしていたのかもしれません。

2.売れ筋商品を「限定化(希少化)」すること

ジーンズのようなどこにでもある商品であっても、「限定」というかたちで期間や場所に制約を設けると、そこに「希少価値」が生まれます

「○○が売れています! 在庫僅少」といったPOPがあったりするとどうでしょうか? 今買わないと損のような同調の心理が働きつつ、残りわずかしかないという希少性がこだわり派の心理にも響いてくるはずです。

また、地域限定での販売も、それが自分の故郷であったりすると「自分らしさ(個性)」を感じる人も多いのではないでしょうか。食材や酒などはご当地ブランドを戦略として重視しているわけですが、そこには「自分らしさ」を個性として重視する消費者がいるということです。

3.高額所得の消費者ほど2つの効果が高くなる!上位の消費者層を分類する

この2つの効果を販売で活かす上では、消費者層の選択も重要になります。先の中央大学の調査では、高額所得者ほど「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」の関連度が高くなることが分かっているからです。

つまり、ブランドなどの高額商品を購入する消費者には、個性的なモノと多数派に受けがいいモノを両立させる販促が必要だということになります。

心理学では「多数」や「集団」を分類するときに、ある特定の自分らしさと関連が高い「準拠集団」というものを重視します。準拠集団は、同じ趣味サークルや仕事仲間などが典型的な例ですが、トヨタか日産かといったブランドの好みによっても分けられる場合があります。バイクのハーレーダビッドソンには熱狂的な顧客が多いことが知られていますが、そこに個性としての「自分らしさ」の特徴が表れてくるからです。

消費者層を高額所得者という枠で分類しながら、そこにどんな準拠集団があるのかを知ることが重要です。まずは購入単価上位の顧客20%を目安に調べ、その「準拠集団」が何かを把握して、その集団(多数派)に即した限定販売を試してみましょう。

バンドワゴン効果とスノッブ効果を販売に活かす3つのポイント
バンドワゴン効果とスノッブ効果を販売に活かす3つのポイント

まとめ

今回紹介した「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」は、特にBtoC向けのビジネスを行っている企業にとって有用です。今日の消費者は「多様化している」ともいわれますが、実際には裏側でこうした心理が働いていると考えれば、解決の糸口が見つかるかもしれません。従来の経験と勘に頼る販売ではなく、科学としての根拠ある戦略を考える上で参考になればと思う次第です。


「ビジネス心理検定」とは?
ビジネス心理検定

マネジメント心理(人事・経営)とマーケティング心理(営業・広告)、コーチング心理(※2018年春開始)の3種類の本格的な検定試験。スマホ動画でも受講可の学習サイトなどを日本ビジネス心理学会が主催。これまで3年間で450人が受験し、うち320名が合格。現在当学会フリー会員を募集中。会員はこれらの専門的な解説をネット上で視聴できる。

この記事の著者

匠 英一(たくみ えいいち)

和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て、同大学医学部研究生終了。現在、デジタルハリウッド大学教授、日本ビジネス心理学会副会長、(株)人材研究所顧問研究員。専門は認知行動科学を軸にした人材開発、コーチング、マーケティング。大学教授と兼務しながらコンサル業と「ビジネス心理検定」の普及活動に従事。主著は『ビジネス心理学』『最強の仕事力』『仕事の厄介な問題は心理学で解決できる』など50冊ほどあり。ほかに心理学者としてTVレギュラー出演多数。

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