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「逆境を活かす店 消える店」著者に聞く!コロナ後の会社や店に求められるもの
2022.06.23
著者:弥報編集部
監修者:竹内 謙礼
新型コロナウイルス感染症の影響によって、飲食店をはじめとする多くの店舗がダメージを受けました。しかし、大きな収益減少に転じた店舗があった反面で、ピンチをチャンスと捉え収益増加に転じた店舗があったことも事実です。
アフターコロナと呼ばれる今後の時代において、オーナーさまがどのように経営の舵取りをするかによって、店舗の明暗は分かれます。そこで今回は「逆境を活かす店 消える店」著者である有限会社いろは代表取締役の竹内 謙礼(たけうち けんれい)さんにコロナ禍に生き残った店とそうでない店を振り返りながら、今後どのような舵取りをするべきかお話を伺いました。
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目次
「不測の事態を乗り切れる店」と「消える店」の違い
新型コロナウイルスに勝つ店と消える店の違いを教えてください。
現状としてはコロナ禍を経て「単純に持ちこたえた店」と「以前よりも調子が良くなった店」に2分化されています。前者は、潰れはしなかったけど新型コロナウイルス前のようにうまくいかない店。後者は、むしろコロナ後のほうが以前よりも業績が良くなった店です。
両者を分けた要因は、市場環境の変化に対して臨機応変に対応できたか否かという点でしょう。例えば、深夜営業ができなくなったので早朝やお昼の営業時間を増やしたケースや、すぐにテイクアウトの商品を開発した店など、今調子が良い店は対応スピードが早かったところばかりです。
一方、ずっと悩んでいた店や、もうちょっと状況を見極めようと待ちの姿勢だった店は、全体的に売上が停滞している印象があります。
新型コロナウイルスに勝つ会社には、どのような特徴があるのでしょうか?
SNSをうまく使っている店が、結果を出している傾向にあります。
結果論かもしれませんが、常にお客さまとコミュニケーションが取れていたかどうかによって、勝敗が分かれたように感じますね。飲食店も美容室もすべて同じなのですが、お客さまが「コロナになったので行くのをやめよう」と判断した店と「ちょっと顔出してみようか」と思えた店の差は、SNSをうまく使えていたかどうかという部分が大きいです。
うまくいっている店は、SNSでお客さまとどのようなコミュニケーションを取ったのでしょうか?
SNSをうまく活用できている店は、お客さまと双方向のコミュニケーションを取っている点が特徴です。
例えばSNSで情報を出した後、お客さまの書き込みに対してきちんと返信していた店などが挙げられます。
これまでは、SNSでお客さまに一方通行で情報を発信していればよかったのですが、コロナ禍を経てそれでは不十分になりました。SNSで情報を発信する場合は、お客さまに返信してもらいやすい書き方をする必要があります。Instagramであれば、そのままインスタライブを実施して、お客さまから返信をたくさんもらうような活動が必要です。
コロナ禍を経て、SNS上でのコミュニケーションがより濃密なものに変化しました。そのため「この程度でいいだろう」と思っている店は、まず脱落しています。また、年配者がオーナーの店などで「コミュニケーションの取り方がよくわからない」というケースも同様です。
新型コロナウイルス前は、カウンターに座ったお客さまの顔を覚えることが飲食店のやり方でしたが、現在ではそれが通用しなくなりました。そのため、お客さまを満足させる接点のポイントが、店に来てからだけではなく、店へ来る前の段階も追加されたのです。したがって、接点のポイントを柔軟に調整できた店はコロナ禍でも生き残れましたが、店に来る人だけをターゲットにしていたところは、あまり芳しくない印象がありますね。
まさにSNSの使い方が生死をわけた印象ですね。
非常に残酷な話ですが、その通りだと思います。新型コロナウイルスによって、ネットを使いこなせる消費者が大幅に増加しました。ネットから自分が望む情報が簡単に入手できるようになったので、ネット展開していないお店は生き残ることが難しくなったのです。
ホームページやメルマガ、SNSやLINE公式アカウントなど全部ひっくるめて、ネットにどれだけ真摯に向き合っているかで大きく差がつきましたし、今後もその格差は広がっていくでしょう。さらに、コロ新型コロナウイルス関係の補助金も減っていくと思われるので、SNSが使えない店はさらに厳しい状況になることが予想されます。
アナログでもできることはある!コロナ禍を乗り越えた店の取り組みとは
新型コロナウイルスに勝った店の事例をいくつか紹介してください。
ラーメン屋の「丸紀」さんは、新型コロナウイルスの直前ぐらいからLINEを使ってお客さまを集めはじめました。
もともとネットショップを楽天で展開していたそうなのですが、お客さまにITのスキルが必要な点と広告費にお金かかるうえ、ライバルも多いことが課題でした。そこで新聞の折り込み広告を使って、製麺所でラーメンとうどんの直売会を行う旨の告知を行い、集まってくれたお客さまにLINEで友達追加をしてくれたら焼きそばの麺をプレゼントしたそうです。
この施策を2年ほど続けた結果、現在は1度のイベントで100万円程度の売上が上がるようになりました。LINEのお客さまが1,000人ほど来て、メルマガの開封率も9割ほどということです。
丸紀さんの施策が成功した要因には、LINEで直売会に来てくれたお客さまに「麺ニュース」と呼ばれるA4の冊子を渡したことも大きかったと思います。紙の媒体で麺へのこだわりや、仕事への情熱などを詳細に伝えたことでキャラクターが確立され、お客さまとのエンゲージメント強化にもつながりました。LINEの開封率が上がった大きな要因は、売り手にファンがついたためといえるでしょう。
また、和菓子屋の「木村屋」さんは、Googleビジネスプロフィールを活用して収益を大幅に改善しました。新型コロナウイルスで売上が大幅に減少したので、Googleビジネスプロフィールで地域のお客さまにアプローチし、SEOで通販の集客を強化するという2つの施策を実施しました。その結果、ネットショップの売上は1店舗分に相当するまでに至ったそうです。こちらもITを有効活用した事例といえるでしょう。
Googleビジネスプロフィールは無料で実施できるので、おすすめの施策です。特にコロナ禍以降は、スマホで情報を得る人が増えました。そのため、Googleビジネスプロフィールからの来店やサービスの利用につなげやすくなっています。これは、時代の流れに即した効果的な手法といえるでしょう。
ただし、今後Googleビジネスプロフィール使う人が増えることで、チャットでの問い合わせも増加すると予想されます。今後はその問い合わせにどれだけ対応できるかがカギになるでしょう。今後、Googleマップで在庫量などがわかるようになれば、Googleビジネスプロフィールで情報をメンテナンスしていく必要性も高まると考えられます。
Googleビジネスプロフィールは、アフターコロナにおいてSNSを超えるともいわれているので、ぜひ有効活用しましょう。
ITとは関係ない事例では、「ラーメン宝塔 豊川店」さんの事例が挙げられます。新型コロナウイルス前は夕方18時から翌朝4時までの営業でしたが、20年1月20日以降は朝5時から午後2時までと、大胆な営業時間の変更に踏み切りました。その結果、近隣の工場で働く夜勤明けのお客さまが多数来店するようになり、朝8時には店内が賑わう状況になったそうです。
地元のメディアに「朝ラー」として取り上げられて話題になり、営業時間を変更する前と変わらない売上を上げられる日もありました。現在では、午後6時~深夜2時、朝5時~午後2時までの時間を2交代制で営業しています。
このようにアナログな施策でも、できることはあると思います。
アフターコロナの世界で生き残るために企業に求められる3つの戦略
書籍の中でアフターコロナの世界で生き残るために企業に求められる戦略として「非常識戦略」「エンタメ戦略」「新アイディア戦略」という3つの戦略に触れていた点が印象的でした。それぞれの戦略の特徴やメリットを簡単に紹介してください。
非常識戦略とは、今までの常識を常識として捉えない考え方です。
例えば「値上げすると客が逃げる」というのが常識だと思われていますが「値上げしても実は客が逃げない」と捉え、そのためには何をすればよいのかを考えることが重要です。そもそも常識を覆した原因は新型コロナウイルスでしたから、日常的に常識をひっくり返す習慣を経営者だけでなく、従業員も持つ必要があります。
エンタメ戦略とは、純粋にお客さまを楽しませたほうが、結局お金を使ってくれるという考え方です。
既にアフターコロナと呼ばれる時代に突入していると仮定した場合、今後は新型コロナウイルスがなくなっていくのが基本的な流れとなりますから、お客さまの気持ちは前向きです。そのため、明るい情報にはフィットしやすくなっています。
明るい情報にお金を払いやすくなりますから、いかに楽しい情報やイベント、売り方を提案できるのかという部分が重要でしょう。お客さまを楽しませることを第一に考える必要があると思います。
新アイディア戦略とは、ゼロベースでこれまでにはまったくなかったような発想を持つという考え方です。
非常識戦略と似た部分もありますが、
- 非常識戦略:前提となる常識をひっくり返すアプローチ
- 新アイディア戦略:「そんな発想なかった」というゼロベースのアプローチ
という点が、両者の違いです。
例えば、最近取材した運送会社の「西田商運」さんの会長は、豚骨スープの残りからバイオディーゼルエンジンの燃料を精製することに成功しました。
きっかけは、サトウキビからバイオ燃料を作るという技術に感銘を受けたことだったといいます。ラーメン屋さんが捨てている豚骨スープの残りをもらって独学でやってみたところ、1週間でバイオ燃料を精製できたそうです。
その後、カスが引っかかるのでプラントを自作したり、豚骨スープのラードを回収するための「豚骨スープカット君」という機械を製造したことで、現在は社内の50%程度の車がそのバイオ燃料で動いています。その結果、ラーメン業界が乗ってきたことはもちろん、バイオ燃料で走っているトラックを使う運送会社のほうがSDGsにつながるということで、取引先がどんどん増えていったそうです。
そもそも、運送会社が豚骨ラーメンのスープを燃料にするという発想自体がこれまでにはありませんでしたから、これぞ新アイディアです。今後の社会では、世の中にまったくないようなアイディアで、自信をもって切り込んでいく姿勢が求められるでしょう。
もちろん、やってみないとわからないところもあると思いますが、コロナ禍では意外に慎重になる企業が多く「やってみよう」というところは少なかった印象です。
新型コロナウイルスに勝つために経営者に求められるマインドセットを教えてください。
今後の社会において、1つだけ絶対言い切れるのは「物が高くなる」ことです。したがって「自社の商品やサービスを、いかに高く売ってやろうか」というマインドセットが重要になります。つまり、高い理由をどうやってお客さまに伝えるのか、真剣に考える必要があります。
自社の商品やサービスを高く売るためには、お客さまに高い理由をわかってもらう必要があるので、やはりSNSや動画、ポップなどを活用して伝えることが軸になってくるでしょう。「高く売る」ことについて、どれだけ深い意識と真剣さで取り組めるかどうかが、今後は大事になっていくと思います。
しかし人間は我慢が利かないので、値上げがいつまでも続かず、どこかのタイミングで再び安売りに走ることが予想されます。そうなると、大きな企業しか残れなくなるため、小さな企業はお客さまとコミュニケーションができていないと厳しいでしょう。例えば、行きつけの居酒屋が、枝豆を350円から500円に値上げした場合は「しょうがないな……」で済むかもしれませんが、初めていく居酒屋では「高い」と感じてしまうと思います。
お客さまに高い理由を納得してもらうためには、やはりコミュニケーションや情報発信がうまい会社のほうが有利なのです。
アフターコロナでの新消費動向に対応するために、経営者はどのような舵取りを行うべきでしょうか?
最近、中小企業の経営相談で多いものが採用に関する悩みです。今後の経営においては、人材の採用と育成にすべてかかっているといっても過言ではありません。
人の採用がうまくいって、育成もうまくいけば、物が高く売れるようになる可能性が大いにあるので、アフターコロナでも戦っていけると思います。
コロナ前までは、ある程度は人を採用できましたが、現在は採用が非常に難しくなっています。さらにコロナ禍で、高い給料で休みも多い条件を提示する大企業が増えたため、小さい会社が「休みが少なくて給料も低めですが、働いてくれませんか?」と伝えても、来てくれる方は少ないでしょう。
したがって、小さな会社は「うちの会社で働くとハッピーだよ」ということを、どうやって伝えられるかが重要です。最近は、note(文章やマンガ、写真、音声を投稿できるプラットフォーム)などを使って、企業の人事部が独自で「うちの会社はこんなことをやっています」と発信するケースが増えました。
例えば「SDGsには、このように取り組んでいます」といった情報を発信することで、求職者に「この会社だったら、多少給料が悪くても休みが少なくても働いてもいいかな」と思ってもらえるように、どう演出するかが重要なポイントです。
特に、今後採用のメインになってくるZ世代やミレニアム世代の人材は、学校で社会貢献に関する授業を受けているため、30代以上の方の意識とは大きな違いがあります。彼らが大切にしているのは、給料や休みが多いことよりも、自分の会社がどれだけ社会に貢献していて、社会問題に対して真摯に向き合っているかという点です。今後は会社の見せ方がより重要になることを、経営者自身が理解しておかなくてはいけません。
今の若い人たちは、SNSで企業がどのような発信をしているのか、しっかり見ています。例えば、私が担当している企業はSNSでヘイトスピーチをしてしまい、その後は採用活動を行なっても、まったく人が来ない状況に陥りました。また、大手牛丼チェーン店の事例なども、記憶に新しいところだと思います。
しかし発想を転換すれば、発信する情報を変えることによって、ポジティブな効果を得ることも可能です。例えば「うちの会社の面接を通過する方法」というコンテンツをブログなどにアップして、面接時にその方法を実践してきた人材を選別する企業が増えています。また「うちの会社の周りには、こういうおいしいお店がたくさんある」といった情報を発信する企業も散見されるようになりました。
やはり安い給料で休みも少ないため、これまでとは違った形で情報発信をしないと、小さい企業が大きな会社から人材を奪うのは困難なのでしょう。今後は、これまで以上に会社の見せ方が重要になってくることが予想されます。
最後に、アフターコロナを生き残るためのアドバイスをお願いします。
目の前のことだけではなく、2〜3年くらい先を考えて、今からコツコツとやるべきことを見つけることが非常に大切です。以前とは違い、やったことが反映されるまでに2〜3年程度のタイムラグが発生するようになったので、逆算で考えて今から2〜3年後にプラスになることが何なのかを考える必要があります。
例えば、会社でInstagramやnoteでブログを始めようとする場合には、結果が出るまでに2~3年程度かかることを覚悟しなくてはいけません。しかし、SNSを含めたITに対して長期的な視点を持つためには、それなりの知識が必要です。したがって、ITリテラシーやインターネットの知識を高めるために、日々情報収集や勉強をする必要もあるでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
竹内 謙礼(有限会社いろは代表取締役)
1970年生まれ。大学卒業後、出版社、観光施設の企画広報担当を経て、2004年に経営コンサルタントとして独立。楽天市場において2年連続ショップ・オブ・ザ・イヤーを受賞したほか、複数のネットビジネスの受賞履歴あり。実店舗の集客や販促戦略、ネットビジネスを中心にしたコンサルティングに精通しており、個人事業主から大企業まで、幅広く販促ノウハウを提供している。また、経済誌やWebニュースなどへの連載や寄稿のほか、日経MJにおいて、毎週月曜日「竹内謙礼の顧客をキャッチ」を執筆中。取材した企業は400社を超える。著書は『巣ごもり消費マーケティング』『ネットショップ運営攻略大全』(技術評論社)、『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『会計天国』(PHP研究所)ほか50冊以上。経営コンサルタントの竹内謙礼の公式ブログ
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