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売上ゼロからV字回復!小さな町工場の大ヒット商品「首掛けフェイスシールド」誕生秘話

2022.04.12

著者:弥報編集部

監修者:大髙 晃洋

家族経営のある小さな町工場から、コロナ禍で売上をV字回復させるほどのヒット商品が生まれました。それはフェイスシールドのイメージを覆す、首掛け専用タイプの「レイヤード」というもの。頭部に装着するものと比べて、飛沫の飛び散りが抑えられているフェイスシールドです。この画期的な商品を作り出したのは、従業員4人、昭和59年創業の有限会社大髙製作所です。主に、アルミ・亜鉛ダイカストの金型を製造しています。

今回は代表取締役の大髙 晃洋さんに、発案から販売までのいきさつや、先代から会社を引き継いだ際のエピソードを伺いました。新型コロナウイルス感染症で一度はゼロになった売上を、V字回復に導いたビジネスストーリー。ぜひ、経営のヒントにしてみてください。


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小さな会社のいいところは、意思決定の早さ&小回りが利く点

首掛けフェイスシールドが生まれたきっかけを教えてください。

2020年に、クルーズ船のダイヤモンドプリンセス号で新型コロナウイルスの集団感染が起きました。地元の横浜だったので、横浜港に停泊しているところをよく見ていたんです。コロナ禍を身近に感じたことで、何か社会に貢献できないかと思うようになりました。当時はマスクが不足していましたから、マスクを作ろうと考えたのが最初です。

うちは金型屋なんですが、金型って新製品が出るときに作るものなんですね。非常事態宣言でメーカーがストップすると、受注がなくなってしまいます。月の売上はゼロになり、いわば「ヒマ」な状態でもありました。

とはいえ、マスクといっても布関係は畑が違いすぎると。フェイスシールドだったら、フレームの金型を作って、ほかの部分は外部委託できます。その頃、神奈川大学の道用大介准教授が3Dプリンタ向けにフェイスシールドの設計データを公開していて、それを基に「KANAGAWAモデル」というフェイスシールドを制作しました。3Dプリンタだと1日20個程度しか作れないものが、金型を用いると量産できるようになります。

フェイスシールドの3D画像
発案から販売までは、かなりのスピードだったとか。

フェイスシールドで行こうと決めて、いろいろ調べるのに2週間くらい。販売まではほぼ1か月でしょうか。ほぼ独断で、社長の僕が手配も何もかも1人でやってしまいました。

小さい会社のいいところはトップダウンで意思決定が早く、小回りが利く点です。うちの場合は設計も製造も僕が携わっているため「ここをこうしたい」といった細かな変更にもすばやく対応できます。分業でやっている会社は、品質の担保という面では大変なんじゃないかと思いますよ。


現在の主力モデル「レイヤード(LAYERED)」は、首掛け専用になっているんですね。

KANAGAWAモデルを自分でも装着して病院や学校に配りに行っていたんですが、夏が近づくとだんだん暑くなってきて。その帰り道おでこに汗をかくからと、無意識のうちに向きを反対にして首に掛けていたんです。そうしたら、暑くもないし飛沫も落ちないし「こっちが理にかなっているのでは?」と考え、ホームぺージで首掛けもできることを提案してみました。

当時はフェイスシールドの種類が少なく「フェイスシールド」と検索するとうちのホームぺージの首掛けの画像がトップに表示されるようになったんです。それを見た大手テレビ局が、直接電話をくれました。撮影の現場では、ヘアメイクを済ませた後にマスクをすると崩れてしまうという問題を抱えていたんです。かといって通常のフェイスシールドでは、飛沫対策としては心もとない。そんなとき、うちの首掛けフェイスシールドが目に留まったそうです。

大手テレビ局とのやり取りの中で、KANAGAWAモデルを首掛けすると、首の太さによっては会釈をしたときなどに落ちるケースもあるとわかりました。そこで形状を見直すと同時に、とことんスタイリッシュなデザインにしようと。フレーム部分はまるでチョーカーのようなブラックと、透明なスケルトンの2種類を選べるようにしました。こうして生まれたのが「レイヤード」です。「これならたくさん買ってもいい」と、レイヤードは大手テレビ局から1万セットの発注を受けました。その後も他局や映画・CMの撮影現場などの注文が入り、累計で6万セット以上売れています。

こだわったのは「お客さまの安心を担保するための施策」

レイヤードの販売戦略として何か行ったことはありますか?

大手テレビ局に大量納入したレイヤードは、ドラマ撮影などで使用されました。その後ヘアメイクさんがほかの撮影現場で「レイヤードを使いたい」とディレクターやプロデューサーに進言してくれたらしく、そういった「横のつながり」に支えられた部分は大きかったと思います。ドラマ・映画・CMなどの撮影風景で認知も広がりましたし、いろんなメディアで紹介してもらえたので、広告費はそれほど使わずに済みました。

ホームページ以外の販路だと、商品を気にいった商社の方から問い合わせをしていただきまして、東急ハンズさんにつながりました。最初は新宿・池袋など首都圏の店舗で販売実績を出したのち、今では広島など他の地方にも展開しています。


大髙製作所では、ホームぺージやSNSを積極的に活用されていますね。

会社のホームぺージは僕が、レイヤード専用のページは経理担当者が兼任で運営しています。僕はずっとパソコンが趣味で、パソコン通信の時代からチャットをやっていたり、Windows95が出たときには既にホームページを作っていました。ネット歴は30年ぐらいということもあって、抵抗なく活用できています。

レイヤード専用のページについては、レイヤードのリリース時にコンサルタントへ相談した際、紹介してもらったデザイナーさんに制作をお願いしました。すごく格好良いサイトに仕上がり、町工場が作ったというイメージを脱却した、ファッション誌のようなイメージで満足しています。


大髙製作所のフェイスシールドがヒットした要因は何だと思われますか。

やっぱり、首に掛けるというオリジナルの形状だと思います。実際に意匠登録も取れていますし。それと、時代に合わせすばやく動けたことでしょうか。まったくのゼロの状態からフェイスシールドの販売に至ったスピードは、うちがほぼ最速だったんじゃないかと。

それに加えて「フェイスシールドは意味がないのでは?」という疑問に答えるための説明にも力を入れました。空調のプロフェッショナルである新日本空調株式会社の協力を仰いで飛沫飛散の実証実験を行い、その際の画像や動画をホームぺージに掲載したんです。シートの消毒方法などについても、かなり細かく記載しました。お客さまの安心を担保するための施策の数々が、受け入れてもらえた要因なのかもしれません。

もうコロナ禍も終わりと思っていたところ、オミクロン株でまたおかしくなってしまいました。しかし、経済を止めるわけにもいきません。経済を回しながら、飛沫対策もする。コロナ禍が続く限りは、その方法の一つとして続けるつもりです。完全にコロナ禍が収束すれば、フェイスシールドも出番がなくなります。本当はそれが望む世界です。ただ世の中の文化が変わり、飛沫を気にする人がいて対策が必要となるのであれば、時代に合わせていくかもしれません。

ネットを活用することで他社との差別化につながった

大髙さんは、30代で会社を継がれたんですね。

自分が高校3年生のときに父が脳梗塞で倒れました。半身不随となり、仕事ができなくなってしまいました。とはいえ自分も大学で勉強をしたくて、わがままを言って昼間働きながら夜学に通いました。自分が代表を継ぐまでは、他の職人さんが支えてくれました。技術的指導もしてもらい、寝る間もない生活ではありました。

代表を継いだとしても、肩書きだけです。金属を相手にする実力社会はそう甘くはありません。30代前半では知識も経験もまだまだ未熟です。何十年もやってきたレジェンドな方々からは、当時かなり厳しいお言葉もいただきました。

そうして辛酸をなめているうちに「責任も結果も自分しだい」というものづくりのおもしろさに目覚め始めました。同業者では、ほぼやっている人がいなかったホームぺージでの営業も始めました。一時はかなりつらい思いをしましたが、支えてくれる人もいて、そういう人たちのおかげで乗り越えられたと感じています。

工場のようす
先代のときと今で変わったことは何でしょうか。

ネットの活用という部分は、他社との差別化につながっているかなと思います。あとは早くからインターネットに親しんでいたこともあり、意識が外に向いている点でしょうか。

今ではいくつかの専門的な技術委員会にも所属しています。名だたる大企業に交じって、なぜか有限会社の僕が入っているという(笑)。でも受け入れてもらえたし、最先端の技術も学べました。その結果、広い視野が持てるようになり、今ではものづくりに限らず業界全体、ひいては日本の今後みたいなものまで考えています。


最後に、コロナ禍で厳しい経営状態にある小さな会社や、ものづくりを行う同業の方へメッセージをお願いします。

うちも一時期は売上がなくなりましたし、本当に大変ですよね。ただ、新型コロナウイルスをきっかけに今までなかった交流が増えたので、それは財産だと思います。あまり閉じこもり過ぎず、適度な人とのかかわりも必要では。自社のポテンシャルは意外とわからないものですが、他の人の言葉でそれに気づくこともありますよ。

有限会社大髙製作所

https://www.otaka-ss.jp/
所在地:神奈川県横浜市都筑区川向町1192-3
従業員数:4名

撮影:Atsushi Watanabe

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

大髙 晃洋(有限会社大髙製作所 代表取締役)

アルミ・亜鉛ダイカストの金型を製造する、横浜にある町工場の2代目。先代の父が病気でリタイアし、業界では異例の早さの当時32歳で後を継ぐ。型にはまらない型屋として、地域でも都筑区の「メイドインつづき」に所属。TwitterやブログなどSNSにも積極的に参加し、他分野の企業と横のつながりも大切にしている。「町工場はテーマパークだよね」とモノづくりの奥深さや面白さを発信。業界を盛り上げようと日々邁進中!

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