- 経営ノウハウ&トレンド
予算がなくても勝てる!食の総合コンサルタントが明かすヒット商品開発の秘訣
2016.12.12
今年もまた歳末商戦がやってきます。定番の商品だけではなく、衣食住の分野で毎年変わり種が登場し、私たちの購買意欲をかきたてます。刺激を受けて「わが社も来年はちょっと目先を変えた製品をつくりたい」と意気込んでいるメーカーさんも多いのではないでしょうか。
しかしながら、新商品の開発というと、大規模なアンケートを実施するなど、マーケティング調査にお金がかかるイメージがあると思います。そのため、「予算がないし、冒険的な新しい商品を生み出せない」と悩んでいる中小企業の方も多いはず。
でも実は、「小規模でやっているからこそ、自分たちで自由に納得のいく製品をつくることができる」というメリットもあるのです。今回は、食の総合コンサルタントとして、数々のヒット商品の開発にも携わってきた小倉朋子さんに、食品はもちろん、他業種にも十分応用できる商品開発のポイントを教えていただきました!
目次
予算がなくてもヒットは狙える!
商品開発というと、綿密なマーケティングに基づいてするものというイメージがあります。そのため大手企業の方が断然有利だと思うのですが、実際のところ、中小零細企業といわれるところにも勝機はあるのでしょうか?
小倉:もちろんです。小さい組織の良いところは、フットワークが軽くて自由がきくところ。マーケティング専門の部署がなくて、大手のような稟議もないとしたら、自分たちの頭で考えて納得のいく製品をつくりやすいと思いませんか?
それに今の時代は、販売戦略にお金をかけなくても、ヒットした商品がたくさんあります。無料で宣伝するツールとして、TwitterやFacebookなどのSNSがすばらしい働きをしてくれることもあります。珍しい商品の話題があっという間にSNSで拡散されて品切れになる、というニュースを皆さまもご覧になったことがあるはず。しかも、大きなリアルの販売網を持っていなくても、ネット販売で全国の消費者にアプローチできますよね。
確かに、自由度は小さい組織ほど高い気はします。とはいえ、アンケート調査の結果など、裏付けがあった方が安心できる気がします。
小倉:多くの方は、「マーケティング調査の結果はこうです」っていう数値的なものに頼ろうとする傾向がありますよね。でも、アンケートを数値化したものだけで、実態をつかめるかといえば、それは違います。数値化できないものを掘り起こすことが、ヒット商品を生み出すヒントになるのです。
「私にピッタリ!」と消費者が「選ぶ理由」をつくろう!
数値化できないものを掘り起こし、ヒット商品をつくる方法とは具体的にはどんな感じなのでしょうか?
小倉:例えばお豆腐を思い浮かべてみてください。色は白で、パッケージは四角か丸が一般的ですよね。食べたら味の違いがわかるのだけれど、パッと見ただけでは違いがわからない。そうすると、わざわざ新しいものを手に取る気分になれず、同じ製品が定番化してしまいます。では、消費者の興味を引くためにはどうしたらいいのか。ある豆腐会社さんは、インパクトのあるパッケージに変えたんです。
目立たせることが重要ということでしょうか。
小倉:それも重要ですが、目立つだけではなくて、選ばれないと意味がないですよね。例えば、「男の豆腐」と書かれていたら、「俺はこっちかな」と選びやすくなるかもしれません。ほかにも、「大人の豆腐」や「子どもの豆腐」があったとしたら、食べ比べたくなりませんか? これは食品以外にもいえることだと思います。
確かにそれだと、「自分のためにつくられた商品なのかな?」って思ってしまいそうですね! 万人受けするものをつくろうとするのではなく、消費者が選ぶ動機をつくるということでしょうか。
小倉:そうです。昭和の時代は、家族みんなで同じものを食べていましたよね。「冷めないうちに食べなさい」と叱られた経験がある方もいると思います。食卓を囲んで食べるから、「おいしいね」と味の確認もできました。今は、親子で違うものを食べることもあるし、単身赴任とか独身者は1人で食べることも多い。食事の在り方が変わってきているから、それぞれの立場で視点を変えることが大事ですね。 ほかにも、女性が食べるお弁当だったら、女性のカバンに収まるサイズにしてあげるとか。
食べ物の味は口に入れるまではわからないですよね。しかも、その味をどう感じるのかは人それぞれ。だとしたら、そのひとつ前の段階で、「これは私のためのものだ」っていう選ぶ理由をつくってあげることが大事なんです。
同じ商品でもネーミングに〇〇を込めると全く売れゆきが違う!
関心を持ってもらうためにはネーミングも重要だと思います。何かコツはありますか?
小倉:わかりやすいところでいうと、「ストーリー」を伝えてあげることですね。例えばここに「煮込みハンバーグ」と「創業以来、継ぎ足してきたソースで煮込んだハンバーグ」を並べられたら、後者の方が「おおっ!」ってなりませんか? ほかにも、「田中さんが2年間、丹精込めてつくった〇〇」など、開発者の想いをイメージさせるのもいいと思います。
作り手が気づいていない魅力を拾い上げるイメージですね。
小倉:えぇ。作り手の皆さまは自分の仕事で精いっぱいで、アンテナを広げる余裕がない方も多いと思います。でも、1日のうちのほんの一瞬でいいから、1人の生活者として好きなものに触れて、なぜそれが良いと思ったのか考える習慣を持つことをオススメします。それを続けていると、「ひょっとしたらウチのウリはこういうことなんじゃないか」と見えてくると思います。
お話しいただいたことに加えて、商品開発のネーミングでは、ここだけは押さえた方がいい、ということはありますか?
小倉:普遍的なニーズを押さえることですね。そこを押さえれば、大ヒットにならなかったとしても、大コケもしないと思います。例えば、人は健康でありたいですよね。食品の場合だったら、安心・安全なものを食べたいし、おいしいものを食べたい。そういう普遍的な欲求はカバーした方がいいですね。ただし、こうした普遍的な欲求を逆手にとって成功した例があります。
昔、「まずい! もう一杯!」という青汁のCMがありましたよね。あれは、「まずいのがわかっていて飲みほすんだから、よほど体に良いんだろう」と思わせることに成功しているといます。ただし一歩間違えると「まずい」だけのイメージでお客さまが止まってしまうので、そうさせないように、その先の想像をさせる必要がありますね。
消費者としての体験を大切にして、「アイディア体質」をつくろう!
少し話しただけでも、小倉さんからはいろんなアイディアが出てきました。でも、普通の人ではそんなにポンポンとアイディアが出てこない気がします。
小倉:私は24時間、食のことばかり考えているオタクなんです(笑)。毎日コンビニでトレンドチェックしていますし、スーパーで買い物するつもりが、店内に気になることがたくさんあって、2時間視察してしまうこともある。誰からも頼まれていないのにですよ。こんなふうに、普段の習慣があってのアイディアなんです。いっせーので考えても、良いアイディアは簡単には出てきません。
スーパーに2時間ですか! それだけの時間を費やしていれば、「プロの消費者目線」というのが身につきそうな気がします。
小倉:どんな商品も人間が生み出して、人間が買って食べるわけですよね。だから人間と食に対する興味が必要だと思います。人間の購買動機って、突き詰めると心の部分にあるんじゃないでしょうか。だから、イチ消費者として、例えば、スーパーやコンビニ、デパ地下や飲食店に行ってみる。そこで、「なぜ自分はこれを買ったのか?」「なぜ自分はこのコピーに惹かれたのか?」といったことを自分の心に問いかけてみる。最初は意識してやるところからスタートすることになるかもしれませんが、次第に楽しめるようになると思います。
好きでやることが大事、ということですね。
小倉:そうです! 本人が好きでやっていることなら、何でもいいかもしれないですね。サッカーが好きなら、自分ならどんなサッカーユニホームをつくりたいか?とかを考えてみる。そうやって考える習慣をつくることが大切だと思います。なんとなく考えていたら、なんとなくのモノしか生まれてきません。ですからぜひ、楽しみながら考える習慣をつくり、アイディアが出てくる体質を目指してください。
商品開発のポイント(まとめ)
- 潤沢な予算がなくてもヒット商品はつくれる! 中小企業は身軽さと自由さを武器にしよう
- 「男性向けだったら」「女性向けだったら」というように消費者が選ぶ基準を想像し、視点を変えてみよう
- ネーミングやコピーを考えるときは「ストーリー」や「普遍的欲求」を押さえよう
- 日ごろから考える習慣を持ち、アイディアが自然と出てくる体質を目指そう
お話を伺った方:小倉 朋子(おぐら ともこ)さま
株式会社トータルフード 代表取締役/トータルフードプロデューサー/亜細亜大学講師 /ほか。 飲食店のコンサルティング、メニュー、戦略開発他、諸外国の食事マナー&総合的に食を学び広い視野で強く美しく生きる教室「食輝塾」を主宰。食事作法、伝統食、トレンド、食育、箸、食文化、ダイエット、地球食環境他、グローバルな専門が特徴。著書多数。『私が最近弱っているのは 毎日「なんとなく」食べているからかもしれない』(文響社)、12月21日発売予定『仕事ができる人ほど大切にしたいこと「食べ方」を美しく整える』(実務教育出版)などがある。
撮影協力/Beanz Depot
この記事の著者
弥報編集部
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