売上計上の新ルール「新収益認識基準」を理解して中小企業の経営に役立てよう!

2020/03/25更新

この記事の監修馬淵 宏真 氏(公認会計士・税理士/馬淵会計事務所代表)

最近、顧問税理士や取引先である大企業から「収益認識基準」や「新収益認識基準」という言葉をお聞きになったことのある中小企業の経営者や経理担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。

これは、2021年4月1日以後に始まる事業年度から、日本の大企業の売上計上の会計基準(収益認識基準)が大きく変わることで、多くの大企業が経理部門だけでなく、営業部門や事業部門まで巻き込んでの対応に迫られていることによります。また、それに合わせて法人税法も改正されています。

新しく導入される収益認識基準はとても複雑で、かつ、強制適用されるのは大企業のみであり、中小企業には直接は関係しません。したがって、中小企業の経営者や経理担当者の皆さんは、その内容をまったく知らなくても、ほとんど影響がないかもしれません。

ですが、大企業との取引を行う場合には、玉突きでビジネスに影響を与える場合があること、税法改正で一部の中小企業にも影響する部分があることから、その内容をザックリとだけでも理解しておくに越したことはありません。

また、この機会に中小企業が留意すべき点や、新しい収益認識基準が中小企業の経営を強くするきっかけにもなるのではないかという観点からも解説していきたいと思います。

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なぜ新収益認識基準が導入されるのか?

売上計上の新ルール「新収益認識基準」導入の目的は、今まであいまいだった売上計上(=収益認識)のルールを明確にし、取引の実態に合わせた売上計上を行うようにすることにあります。

読者の皆さんの企業では売上(=収益)の計上は、どのようなタイミングでどのような金額で行われているでしょうか?

B to Bビジネスの場合、商品の出荷時、顧客への納品時、顧客による検収(納品確認)時など、複数の計上タイミングが考えられます。また、金額については、通常は契約書や注文書に書かれた金額、実際に顧客に請求した金額で行われていると思います。

実はこの損益計算書の一番上に書かれる、企業経営にとって最も重要な項目ともいえる、売上計上(=収益認識)に関するルールについては、企業会計基準でも法人税法でも、あいまいなままでした。長らく、企業会計原則という戦後間もなくの頃に作られた原則において「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と大まかに規定されているだけという状態が続いていました。

このため、今までは大企業も中小企業も、多くの企業で、厳密な意味では売上計上の時期や金額に関するルールが一致していませんでした。

しかし、会計基準のコンバージェンスにより、日本の企業会計基準でも新しく「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準)が開発され、2021年4月1日以後に開始される事業年度から大企業に強制適用されるようになります。

新収益認識基準は、実務への影響を配慮していくつかの簡便的な処理が認められていますが、基本的には国際会計基準(以下、IFRS)の内容とほぼ同じです。また、法人税法も、新収益認識基準の適用を前提とした内容に改正されました。

こうして、日本でもIFRSとほぼ同等の収益認識基準が導入されることとなります。

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新収益認識基準をザックリと理解しよう

では、新収益認識基準とは具体的にどのようなものなのでしょうか。簡単に言うと、複数のモノやサービスを合わせて商談を行った場合、それぞれを別個に販売した場合の価格の比率で売上の計上時期や金額を調整するというのが新収益認識基準の考え方です。

新収益認識基準はとても複雑で、上場企業の経理担当者でも理解するのにとても時間を要します。そこで、ここではザックリと理解していただけるよう、簡単な例を用いて解説します。

(例)

  • 大企業であるB社はシステム開発と運用保守を行っているソフトウェア会社
  • 一つの商談で、システム開発契約と3年間の運用保守契約の2つの契約を顧客と結んでいる
  • システム開発を単独で行った場合の定価は60
  • 運用保守を単独で行った場合の定価は1年あたり90(1年あたり30×3年)
  • 実際の契約書は値引50が入り、両方合わせて100で結ばれており、その内訳はシステム開発契約10、運用保守契約90(1年あたり約30×3年)
  • B社は2021年度にシステム開発を完了し、2022年度~2024年度の3年間にわたり運用保守を顧客に提供した
  • B社はシステム開発、運用保守ともに中小企業A社に外注している

このケースでは、B社は、2021年度にシステム開発代金の10を売上計上し、運用保守料の30を2022年度~2024年度の3年間にわたり売上計上するのが、今までの一般的な会計実務です。

ですが、ここでちょっと考えてみると、システム開発と運用保守の定価の合計が150なのに対して、実際は2契約合計の金額は100で、かつ、値引の50がシステム開発だけに片寄っていることがわかると思います。

このような場合に、新収益認識基準では、実際の契約合計額100を定価の比率(システム開発60:運用保守90)で按分し、2021年度にシステム開発代金の40を売上計上し、運用保守料の60を2022年度~2024年度の3年間にわたり売上計上することになります。

結果的に、今までの処理と比べると、システム開発に30の売上が配分され、売上高が前倒しとなります。

売上の時期が後ろ倒しになるなど、中小企業に玉突きで影響が出ることも

そして、大企業の外注先となっている中小企業A社の立場から上記例を見ると、玉突きで影響が出てくることもあり得ますので、注意が必要です。

例えば、大企業のB社は、売上と原価を対応させるために、外注先である中小企業のA社にも売上の計上時期や金額といった契約条件の変更を要請してくることが考えられます。つまり、値引の片寄りを是正するよう要請してくるということです。

上記例の場合には、結果的にB社の売上が前倒しされることにともない、外注先A社の売上も前倒しされることから、中小企業であるA社に有利な条件変更となりますが、これが逆の場合には、A社にとって売上の時期が後ろ倒しになり、資金繰りにも大きな影響を与えます。よって、A社としては、今まで元請けであるB社が顧客とどのような取引を行い、自社にも玉突きの影響があるのかないのかを早めに確認しておくことが大切です。

元請けへの働きかけは経営状態や資金繰りの改善につながるチャンス

新収益認識基準導入を機に、元請けである大企業B社に働きかけて、契約書と取引の実態を一致させることにより、中小企業の経営を強くするという試みも考えられます。

今まで、元請けである大企業との取引の実態と契約書上の金額の内訳が一致せずに、結果として売上が後ろ倒しになっていたような会社(A社)においては、新収益認識基準の適用を機に元請けB社に契約の変更を働きかけ、本来あるべき姿に契約書上の取引金額と時期を是正するということも考えられます。

このような働きかけは、元請けとの力関係を見たら一見すると無謀と思われるかもしれませんが、複数の外注先企業が連携して元請けB社に働きかけるという方法もあります。

また、消費税法は新収益認識基準に対応しておらず、今まで通り、契約書に書かれた売上金額にかかってきますので、B社にとっても、顧客とのそもそもの契約書を取引実態に合わせるというインセンティブはあるのです。

このような取り組みを通じて、中小企業の経営状態や資金繰りを改善させ、経営を強くするというチャンスもあるのではないでしょうか。

中小企業にとって新収益認識基準は「契約書を本来あるべき姿に正す」後押しになる

今回の新収益認識基準の導入によって、法人税法も大きく変更されています。中小企業にとって重要なのは「返品調整引当金制度の廃止」と「長期割賦販売等の延払基準の廃止」です。

「返品調整引当金」とは当期に売り上げた商品につき、契約に基づき次期以降に買い戻しを行う場合において、返品が予想される商品の利益部分について設定された引当金です。実務的には法人税法の定めにしたがい計算した額を損金経理することにより、会計上も税務上も当期の費用として計上することを認められていました。

新収益認識基準において、買い戻し条件付き販売については、予想される返品部分について、販売時に収益を認識しないこととなったため、法人税法でも返品調整引当金が廃止となりました。

また、割賦基準とは、割賦販売に適用されてきた会計処理方法で、代金の回収または回収期限の到来により、収益を計上するものです。新収益認識基準のもとでは割賦販売についても、通常の製品・商品の販売と同様の方法で収益認識をすることになり、割賦基準を適用できなくなるため、法人税法でも長期割賦販売等の延払基準が廃止されることとなりました。

どちらも経過措置はありますが、いずれも経過措置後は廃止されます。これらの制度、特に、返品調整引当金を利用している中小企業は少なからずあると考えられますので、該当する場合は、早めに顧問税理士に相談することをおすすめします。

また、法人税法22条の2が、収益認識に関するルールとして新たに作られ、原則として、「その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度」に「その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額」で売上計上する、と新しく規定されました。

しかし、この規定は、中小企業が従来行ってきた売上計上の方法を否定するものではなく、中小企業には影響を与えません。

……ここまで、新収益基準についてかなりザックリと解説してきましたが、新収益認識基準の根底には、「表面上の契約書がゆがんでいる場合は、そのゆがみを正してから会計処理を行う」という考え方があることをおわかりいただけたと思います。

この考え方をもう一歩踏み込めば「表面上の契約書がゆがんでいる場合は、取引の仕方を見直して、契約書も本来あるべき姿に正す」ということにつながります。

この「契約書も本来あるべき姿に正す」という部分が中小企業にとってはとても大切で、立場の弱い中小企業が、大企業との間でゆがんだ契約書を結ばされているケースがあるとしたら、新収益認識基準がそのようなケースを減らす後押しとなり、中小企業の経営が強くなる一助になることを願ってやみません。

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この記事の監修馬淵 宏真(まぶち ひろまさ)/ 公認会計士・税理士

馬淵会計事務所代表。大手監査法人やコンサルティング会社にて、スタートアップ企業から日本を代表するグローバル企業まで、さまざまな成長過程の企業の会計監査や株式公開支援、国際会計基準(IFRS)導入支援、業務改革コンサルティングなどに従事した後、開業。 現在はクライアントの社会的信頼性を高め成長に寄与するため、会計分野にとどまらず、中期経営計画策定支援ガバナンス向上支援、内部統制構築支援なども含め、企業が次のステージに成長するための次の一手をアドバイスしている。大小多くの企業を見てきた豊富な経験から、企業にとっての「お手本」の引き出しが多いのが強み。ビジネスアンサンブル合同会社/馬淵会計事務所 ホームページ。新規タブで開く

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