2019年10月1日からの消費税改正が目前に迫ってきました。事業者の皆さんの準備も大詰めを迎えていると思います。準備項目に漏れがないか、想定通りにできているか、このタイミングで確認しておきましょう。
9月中にやるべきこと、消費税改正前夜にやるべきこと、そして10月に入ってからやるべきことを、いずみ会計事務所の浦田泉先生に聞きました。
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監修:浦田 泉 氏(税理士) 税理士。会計事務所、コンサルティング会社を経て2003年「いずみ会計事務所」を開業。自身の起業経験から、特に女性経営者の起業、会社経営、成長戦略などのお手伝いが得意分野。また、新人の経理担当者でもすぐに使えるようになる弥生会計は、顧問先への導入、指導の実績が多数ある。 |
消費税率変更までに確認と教育を終わらせましょう!
――消費税改正に向けて、2019年9月30日までに事業者が終わらせるべきことは何がありますか?
各種の確認と社員教育ですね。まず大切なのが、会計ソフト、販売ソフトが対応しているかの確認です。弥生会計、弥生販売のユーザーは、まず最新版にアップデートしているか確認しましょう。
参考リンク:新しい製品へのアップデート方法(弥生株式会社)
※あんしん保守サポート中で最新版へのアップデートがお済みでない場合は、お早めにアップデートをお願いいたします。あんしん保守サポートに加入していない方で古い弥生製品を利用している場合、消費税改正(軽減税率制度)に対応していない可能性があります。詳しくはこちらを参照してください。
その他に全事業者に関係のある主な点は下記の5つです。
- 区分記載のレシートや請求書、帳簿などの出力確認
- 経理マニュアルの確認と教育
- 2019年10月1日以降の価格の確認
- カタログ、チラシ、価格表などの改訂確認
- 契約によって定期的に支払っているものの契約内容の確認
3 の「2019年10月1日以降の価格」については適切な設定になっているか、今一度確認してください。
外税扱いで1円単位の価格設定ができる場合はいいですが、すべての業種・業態でそれが可能なわけではありません。わかりやすい例を挙げると、自動販売機や券売機などで1円単位の扱いができないものは10円単位で価格を改定せざるを得ないと思います。そのような場合は価格改定の理由を明確にして便乗値上げと誤解されないように注意することが大切です。
最低賃金をはじめ、人件費の上昇、材料費の物価高騰、配送費の値上がりなど商品を提供するためにかかるコストの値上がりなどの理由で価格改定の説明ができるようにしてください。
また、5の「契約によって定期的に支払っているものの契約内容の確認」は、消費税率変更を挟んで契約をしているものの内容を見直してみましょう。税込み金額で契約していて「租税の変更によって金額の変更の相談が可能」という条項がある場合、契約を行う側は改定のために自ら動く必要があります。契約を受ける側は相手から申し出があるまで待ちの姿勢でいいと思います。

軽減税率対応準備の業種別チェックリストもご活用ください。消費税改正あんしんガイド(弥生株式会社)
小売店・飲食店は前日の準備もしっかり
――小売店や飲食店特有の準備にはどんなものがありますか?
小売店・飲食店では以下の3点も必要です。
- レジの設定や動作の確認
- レジの練習モードで従業員教育
- 顧客対応マニュアルの確認と教育
レジについてですが、今回、複数税率対応レジを新規に購入した事業者も多いと思います。購入されていない事業者でも、前回の8%消費税率改正の際にレジを購入している場合、そのレジに複数税率対応機能が搭載されていることが多いので、確認してみてください。
――9月30日の営業終了後にやることが色々ありそうですね。
少なくとも下記は必要ですね。
- レジの設定の入れ替えと動作確認
- レシートの印字確認
- 価格表示・メニューなどの入れ替え
- 顧客対応マニュアルの確認
飲食店でイートインとテイクアウトの両方がある場合は、4の「顧客対応マニュアルの確認」で、お客さまへの確認方法に加え、税率に関して聞かれた時用のQ&Aなども入れておきましょう。
税率の切替え前後にまたがる取引の適用税率について
――発注が9月30日以前、納品が10月1日以降の場合、どの時点での税率が適用されるのでしょうか?
納品をもって売り上げを計上するとしている事業者が多いと思いますが、通販や受注生産などで、発注が9月30日以前でも納品が10月1日以降で消費税が10%になる場合は、その旨の注意書きをパンフレットやホームページに記載しておくと親切ですね。
10月1日以降の返品については、9月30日以前に納品されたことが特定できる場合の税率は8%で処理するのが適切です。しかし、商品によってはいつ納品されたか分からないものも多いと思います。その場合は10%で返品して、返品先にも10%で取消してもらい整合性を保ちましょう。
――また、一部の取引で旧税率が適用される経過措置があると聞きましたが、これは何でしょうか?
経過措置対象になるのは2019年4月1日よりも前に締結された工事請負契約などです。すでに対象期間は終了していますので、これから新たに結ぶ契約が経過措置の対象になることはありません。
注意していただきたいのは、2019年4月1日よりも前に結んだ契約によって毎月支払っているようなものです。
弥報Onlineの読者にはオフィスや店舗、工場などを借りたり貸したりしている事業者も多いと思いますが、普通の契約では10月以降の税率は10%になります。「一定期間賃料を変更しない」というような特別な契約をしている場合、経過措置の対象になって8%になることもありますが、そのような契約をしているケースは少ないと思います。
事務機器などのリース契約は、近頃は契約期間が満了すると所有権が自分のものとなる契約が多いと思います。この場合は経過措置の対象にはなりません。業務用車両はリース契約になっていることが多いので、経過措置の対象かどうかの確認が必要ですね。
10月に入ってからやるべきこと
――10月に入ってからやるべきことは何でしょうか?
主に下記の3点です。
- 8%、10%に区分した帳簿入力
- 区分記載請求書の発行・保存
- 区分記載されていない請求書の内容確認、補記
2 の区分記載請求書の発行・保存については、こちらの記事【特別連載】消費税率が変わると企業はどうなる?「区分記載請求書等と帳簿の記帳方法」編を参照してください。
3の「区分記載されていない請求書の内容確認、補記」についてですが、適用税率の判定は請求書を受け取った側で行ってかまいません。発行側の同意は不要です。補記は区分記載請求書の書き方にそっておこなってください。例えば、下図の赤字のように補記します。

出典:消費税改正あんしんガイド(弥生株式会社)
――10月1日以降にトラブルなどはありそうですか?
やってみないとわからないこともありますし、多少は混乱もあると思います。問題が出てきたり混乱したりする可能性もあることを前提に、人員配置や仕事量に余裕を持たせ、責任者にすぐに連絡が取れる体制を作っておくといいですね。
一番ありがちなトラブルとして、消費税8%のものを間違って10%として販売してしまうケースやその逆のケースが想定されます。小売店や飲食店でお客さまが追跡できない場合は、お客様からレシートとともに申し出があれば対応するという方法しかないと思います。
具体的に申し出をしていただくためには、店頭に「何月何日、何時から何時の間に、消費税誤り処理がありました。この時間帯に商品ご購入された方はレシートとともにお申し出ください」という告知をしておくなどが考えられます。
消費税率の変更は過去に経験がある方もいらっしゃいますが、軽減税率は誰もが初めて経験することです。事業者同士、協力しあって円滑な取引ができるようにしていきましょう。
【特別連載】消費税率が変わると企業はどうなる?「軽減税率の導入と企業の対応」編
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