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災害が起きても、うちの会社は事業を継続できる?中小企業にこそ必要な BCP 対策

2018.11.07

著者:弥報編集部

著者:林 達哉

突然ですが、あなたの会社にはBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が策定されていますか?

BCPとは、大規模災害などの緊急事態が生じたときに備えて、企業の被害を最小限に抑えて事業を継続するための計画のことです。被災によって操業停止が続いてしまうと、倒産、廃業という最悪のケースも想定されるため、BCPはすべての企業にとって必要なものと言えます。しかし、中小企業における策定率は未だに15%程度と言われており、検討があまり行われていないのが現状のようです。

BCPの目的は「防災」と「事業継続」

「災害大国」と言われる日本。全国各地で毎年のように地震や風水害などが発生し、その脅威は年々強まる傾向にあります。自然災害以外にも火災、爆発、さらにはサイバー攻撃といった災害もあり、私たちの生活はさまざまなリスクに囲まれていると言えるでしょう。

これらのリスクから身を守る手段として欠かせないのが「防災対策」です。家庭はもちろん、自治体や企業でも積極的に整備を進めています。

2011年の東日本大震災では、地震や津波による直接的な被害に加え、仕入れ先が被災して商品が調達できなくなったり、取引先からキャンセルを受けたことなどによって経営が行き詰まり、倒産する企業が続出しました。

従来の防災対策は「どうすれば被害を防げるか」を重視しますが、BCPでは「どうすれば業務を続けられるのか」という観点がクローズアップされます。そこで、防災と事業継続を組み合わせたBCP策定の必要性が高まったのです。

なぜ中小企業のBCP策定率が低いのか

災害時のリスクを抑える手段としてのBCPは現在、多くの企業で策定が進められていますが、その取り組みはどちらかというと大企業が中心という状況になっています。中小企業における策定率は15%程度にとどまり、「(BCPを)知らない」との回答が30%近くに上りました。

中小企業でBCP策定が進まない理由はいくつかありますが、最大の原因は「なぜ必要なのか」についての理解が十分に得られていないことにあるようです。では、BCPがあることで得られる、具体的なメリットを挙げてみましょう。

1.被害の軽減
事前にさまざまなケースを想定した対策を講じておくことで、被災のダメージを小さくすることができます

2.復旧にかかる時間の短縮
災害発生時に各自が行うべきことを時系列でリストアップし、復旧までに要する時間を短縮します

3.企業力強化
災害への対応力を高めることで信用度が増し、企業経営の安定に役立ちます

防災という側面から見ると、多くの企業は定期的な避難訓練や緊急連絡網の整備といった、何らかの対策を行っています。ただし、緊急事態の種類は多種多様で、個々のケースに対応しようとすると相応の手間がかかります。人手不足が深刻化する中、BCPを「面倒なもの」と捉える経営者は少なくありません。

また、BCPを壊滅的な被害をもたらす大地震などの際に使うものと考えてしまう傾向もあります。しかし、近隣火災による停電やインフルエンザ流行など、BCPは業務がストップする恐れのあるすべての事態に素早く対応するためのものです。つまりBCPは「いつ使うかわからないもの」ではなく、「すぐにでも使う可能性があるもの」なのです。

そして企業力強化は、言い換えれば経営改善につながります。被災は避けられないとはいえ、業務が継続できず廃業、倒産するような事態は従業員の生活基盤を奪うだけでなく、商品・サービスを利用する顧客、取引先にも大きなダメージを与えます。早期の復旧と事業継続を目的としたBCPの整備は、自社に関係するすべての人たちに対する責任を示すことでもあります。

災害発生時に、BCPを持つ企業が迅速な復旧を実現した例が増えているのは、最近の報道などを見ても明らかです。たとえば2016年に発生した熊本地震の際、熊本市のある工務店では、東日本大震災で被災した東北地方の同業者からアドバイスを受けて、これまで水害に備え整備していた対応マニュアルを地震用に改訂。多くの企業が操業停止に陥る中でいち早く業務再開を果たし、被災地の復興に貢献しました。また、同社では以前から他県の工務店と協定を結び、災害時には互いに協力する関係を築いていました。

被災してから「どうしよう?」と慌てるのではなく、平時からあらゆる事態を想定して対策を考える。まさにBCPの「転ばぬ先の杖」的な発想が会社を救ったのです。

まずは「入門コース」を策定しよう

それでは、これからBCPを策定したいと考える場合、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。中小企業庁はBCP導入を支援する目的で「中小企業BCP策定運用指針」を発表しています。ここでは、初めてBCPを策定する企業に向けた「入門コース」を例に、いくつかポイントを紹介しましょう。

この指針では、BCP策定の手順を以下のように示しています。

①基本方針の立案

はじめに、「何のためにBCPを策定するのか」を明らかにします。人命(従業員・顧客)の安全、自社経営の維持、供給責任の遂行、雇用の維持など、思い描く方針を確認します。

②重要商品の検討

災害発生時に、最も優先的に製造・販売しなければならない重要商品・サービスを決めます(例:A社向けのB商品など)。

③被害状況の確認

災害により会社が受ける影響のイメージを持ちます。たとえば地震であればライフライン、情報通信、道路、鉄道などの利用可否、そして、会社の経営資源(人、情報、モノ、お金)に関するものについて、被害発生時の影響を検討します。

④事前対策の実施

緊急時において、前述した会社の経営資源を確保するための対策を検討します。事前対策は、まず現在の実施状況を把握してから、今後実施すべき対策を検討します。対策の実施が困難な場合には、近隣の企業や取引先、商工会などとの連携も考慮しましょう。

⑤緊急時の体制の整備

緊急時の対応(初動対応・復旧のための活動など)を行うための責任者を整理します。災害発生時には責任者が被災する場合や、不在の場合もあるため、代理の責任者も決めておきます。

ここまでの手順をまとめた書式は「BCP入門コース」として、中小企業庁のWebサイトからダウンロードすることができます。空欄に必要事項を記入するだけで、最低限必要とされるBCPを策定することが可能です。

BCP策定後に必要なこと

入門コースのBCPは数時間あれば作成可能で、決して難しい作業ではありません。しかしBCPは一度つくれば安心というものではないため注意が必要です。災害発生時には「想定外」という言葉がよく聞かれますが、災害は事前に想定したレベルを大きく超えることは珍しくありません。

たとえば、2018年9月に北海道胆振東部で発生した地震では、発電所が被災したことから広範囲で停電が発生し、多くの工場、商店が電源を確保できず操業停止に追い込まれました。BCPで停電時の対応を定めていた企業も道内全域規模での発生は想定しておらず、今後の課題として改善が求められています。

「BCPがあっても、想定外の事態が起きたら役立たないのでは…」そんな考えから、策定に消極的になってしまうケースも見られます。BCPは実際に起こりえるさまざまな非常事態を想定しながら、絶えず点検と改善を重ねることが大切です。

一方、BCPを策定した企業に対し、緊急事態に対応するための投資を支援する各種制度も整備が進んでいます。日本政策金融公庫は、本記事で紹介した策定運用指針(基本コース以上)にのっとってBCPを策定した企業の取り組み(施設の耐震化、自家発電設備の設置、倉庫の防火対策など)を支援する「社会環境対応施設整備資金」を整備しています。また、全国の各自治体でもBCP策定推進を目的とした補助金・助成金制度を設けています。対象となる事業や支援の内容はさまざまですが、これからBCP策定を進める際には導入を検討してみましょう。

BCPは経営戦略を見直すきっかけに

BCPは災害などの緊急事態に備えるための取り組みですが、同時に、現在企業が抱えている問題点を浮き彫りにすることにもつながります。これは、BCP策定が経営課題の解決や、業務効率化にも役立つことを示していると言えるでしょう。「必要なのはわかるけど時間がなくて」とおっしゃる経営者の方も、経営改善の一テーマとして、BCP整備に取り組んでみてはいかがでしょうか。

この記事の著者

弥報編集部

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この記事の著者

林 達哉(はやし たつや)

出版社勤務を経て独立。書籍・雑誌のコンテンツ制作、マーケティングに携わる傍ら、IT、ビジネス等の分野で執筆活動を行う。

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