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もしも異物混入が起こったら?小さな飲食店の正しい対応を和食店の女将が解説

2022.12.15

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

飲食店で発生しやすいクレームの一つに「異物混入」があります。異物混入は、一度起こしてしまうとお客さまの信頼を失ってしまうばかりか、場合によってはSNSにアップされて炎上してしまうなどの大きなリスクも抱えています。

100%防ぐことは無理にせよ、少しでも混入を避けるにはどうしたらいいのでしょうか。またSNSで拡散されてしまった場合、どのように対処すればいいのでしょう。老舗和食店の女将が解説します。


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異物混入、実際に起こるとどんな影響がある?

東京都福祉保健局の統計によると、令和2年で届出された食品などの苦情4,440件のうち、全体のおよそ1割強にあたる535件が異物混入によるものだったそうです。内訳を見てみると、ハエやゴキブリなど虫の混入が103件でトップ、続いてゴムやビニール類などの合成樹脂類、人毛や獣毛などの動物性異物、ガラス金属類と続いています。

異物混入が起こると、残念ですが確実に店の評判は落ちると考える必要があります。場合によっては、二度と来店してもらえなくなる可能性も高いです。今はなんでもネットにアップする時代なので、異物混入があったときの対応次第ではSNSなどで拡散され、炎上に発展してしまうケースも考えられます。

人間のやることなので100%というわけにはいきませんが、一体どんなことに気をつければ異物混入を防ぐことができるのでしょうか。

(参照)
食品苦情の統計|東京都福祉保健局

日ごろの衛生管理がとにかく大切。きちんとルール化し、末端のスタッフまで浸透させよう

料理への異物混入を防ぐには、とにかく常日ごろから衛生管理を怠らないことが大切です。社員や責任者だけでなく、末端のアルバイトスタッフまで徹底してルールを浸透させておくことで、料理への異物混入をなるべく防ぐことができます。

基本的な対策としては、まずは店内を常に清潔に保つこと。ゴミやほこりを放置すると料理に混入してしまう原因になりかねませんし、汚れを放っておいたままにすると害虫の格好のエサとなってしまいます。面倒でも、その日の洗い物はその日のうちに済ませてしまいましょう。

料理の入った鍋などは、ふたを開けたままにしないことも基本です。そもそも、店内に入ってきた害虫を対策することも必要ですが、害虫そのものを忌避することが望ましいと考えてください。自分たちで対処できないようであれば専門業者に相談し、害虫の発生箇所の特定や薬の散布、日常的にできる予防法などを指導してもらうことも検討してみてください。

お店のコンセプトによって、雰囲気を大切にしたいなどの理由から客席を多少薄暗くすることもあると思います。その場合も、厨房内は必ず蛍光灯などを用いて明るさをキープしておきましょう。食材に虫などがついていたり、料理に異物が混入した場合に発見しやすくするためです。食材は、目視しながらよく洗ってください。特に葉もの野菜の根の部分は虫や砂利などが混入していることが多いので、切り落とした後にもう一度洗い直すなど注意が必要です。

それ以外にも、店内にはありとあらゆる場所に異物となりうるものが存在していますが、きちんと対策することで、料理への混入は防ぐことができます。例えば、毛髪。長い髪はしっかりまとめ、衛生キャップや三角巾などを着用しましょう。最近は色柄ものなどお洒落なアイテムも売られているので、チェックしてみてください。服装を整えたら、始業前にロールシートでユニフォームに付いた細かなゴミを取り除けば、安心でしょう。

手袋やラップなどのビニール片が混入しないようにする基本の対策は「ビニール素材のゴミが発生したらすぐに捨てる」「作業台の上に起きっぱなしにしない」を徹底することです。私が昔働いていたチェーンのファミレスでは、食材が入ったパッケージを開封するときに出るビニールの切れ端は、必ずすぐに捨てるようにと厳しい指導が行われていました。例外を作らず、癖が付くまで徹底的に習慣づけることが重要です。また手袋やポリ袋などは、ピンクや青など色の付いたものを使うと、料理の中に落としてしまった時に発見しやすいのでおすすめです。

古い調理器具にも、注意が必要と考えてください。経年劣化した器具を使い続けていると、木片、塗料、ネジなどが取れて料理に混入する恐れがあります。

当店では以前、蕎麦の入ったお椀に竹の破片が混入しているとクレームを受けたことがありました。その際の原因は、劣化した竹ざるでした。脆くなった竹の切れ端が千切れて、お椀に入ってしまったのです。

異物混入のクレームが発生した場合の正しい対応とは?

当店が経験したように、どれだけ気をつけていても完全に防ぐことはできないのが異物混入です。では、実際にお客さまからクレームをいただいたら、お店はどのように対処したらよいのでしょうか。

まずは、とにかく誠実な対応をすることが大切です。お客さまの話をひと通り聞き、素直に謝りましょう。謝罪をした後、異物が混入した料理を下げ、そうなるに至った原因を調べます。原因がわかったら、その異物が何なのかや、混入した経緯についてお客さまに説明してください。

その際に、混入していた物の素材によっては、お客さまに怪我などがなかったかを確認することも重要です。異物を飲み込んだ場合、後日なんらかの体調不良などが起こったときのためにお名前を聞き、控えておきましょう。また、こちらの連絡先も伝えておくようにしてください。お客さまに怪我などがあり病院に行く場合は、診断書を持ってきていただいて代金を支払います。

料理代金の補償については、混入した料理を無料にするか作り直しが原則です。お腹の減り具合もあるので、どちらが良いかはお客さまに決めてもらうのが良いでしょう。

当店では以前、卵焼きに卵の殻が混入していたとクレームを受けたこともあります。そのときはどうしたかというと、まずは口の中に怪我がないかを確認し、作り直しかお代を頂かないか、どちらがご希望かを尋ねました。お客さまは作り直しがご希望とのことだったのでその通りに対応し、お詫びにお客さまの了承を得たうえで小鉢を無料提供しました。卵焼きのお代は、正規の料金を頂戴しました。

ただし虫や髪の毛のような、一度体験してしまうと精神的ショックが大きいことが想像できる異物の場合は、たとえ作り直してほしいと言われた場合でも料金を頂かない、あるいは作り直したか否かに関わらずテーブルのお会計すべてを無料にするのも一つの対応方法です。ことの重大さに応じて臨機応変に対応すると良いでしょう。割引クーポンなどがある場合は、お渡しすると再来店のきっかけになることもあります。

また、最後の印象はとても大切ですので、お客さまの帰り際に再度のお詫びを忘れず行なうようにしてください。

SNSで拡散されてしまったら、影響は最小限に抑えるように対応しよう

料理に異物が混入してしまったときに心配になるのが、ネットでの拡散です。ただ、店内飲食で異物混入があった場合、その場で適切に対処すれば後々になってSNSに投稿されて大炎上、なんてことはほとんどないと考えていいでしょう。当店でも、異物混入自体は気をつけていてもまれに起こりますが、ネットで炎上した事例は今のところありません。

ネットで炎上しやすいのは、どちらかというとテイクアウトやデリバリーです。店内飲食と違い、クレームを伝える相手が目の前にいない状況では、とっさにスマホを手に取って写真を撮り、投稿するという行動に走りやすいのです。

昨年も、ある芸能人が店の作り間違いで届いた商品を「写真と全然違う」というコメントともにSNSにアップしたところ、大炎上したというできごとがありました。SNSにあげる前に店に連絡しないのはおかしいとの批判も浴びた一方で、投稿した芸能人に賛同するコメントも多く投稿され、飲食店にとっては炎上することのリスクを改めて思い知らされる事例となりました。

こうした事態を防ぐためには、小さな紙などに「何かあった場合はこちらへご連絡ください」と記して、同梱しておくといいでしょう。こちらに何かしらの不備があった場合は適切に対処しますよ、というメッセージを添えておくことで、感情的に投稿する行為をある程度防げるのではないかと考えています。また、店に対する懲罰的な意味合いで投稿した人に対しても、クレームへの準備ができていることを知らせることで、拡散させてもダメージが少ないことを知らせる手段にもなります。

実際に異物混入があったとの連絡が入った場合は、スピーディーに対応することが大切です。本来であればお客さまの自宅まで行ってお詫びをするのが妥当ですが、中には家を知られたくない人もいます。その場合は、異物が混入した現物を店まで持ってきてもらうか、撮影した写真を送ってもらうなどして確認し、返金や作り直しなどの対応をします。

異物を捨ててしまった、食べてしまったなどで真偽の確かめようがない場合でも、当店では返金対応をしています。異物が入っていないのに入ったと言って詐欺行為を働く人がいないとも限りませんが、経験上そういった人はめったにおらず、炎上するリスクの方がよほど大きいためです。仮に本当に異物が入っていた場合に対応をせずにいると、それこそネットに投稿されて炎上する可能性が高まります。

日ごろから店の名前でSNS内を検索し、異物混入に限らず、知らない間に自店への不満を投稿しているユーザーがいないかチェックしておくのも一つの方法です。見つけたらDMやリプライなどからコンタクトを取り、詳しく話を聞く、謝罪をするなどの対応を行ないます。こうした小さな火種を一つずつ消していくことも、大きな炎上を防ぐ一つの手立てです。

仮に万が一SNSで炎上してしまったら、

  • 投稿を放置しない、反論しない
  • SNS上ではとにかくお詫びに徹する
  • その件について自店がどう対応するのかを明確にする

この3点をもれなく実施してください。

ただし炎上が広まるのは早い一方で、店側の誠実な対応が同じような速さで拡散されることは基本的には期待できないことを、頭に入れておくことも大切です。一度炎上し始めたら、それ以降は火に油を注ぐような行為を避け、ダメージを最小限に抑える対応を取るしかありません。だからこそ、炎上する前に徹底した予防策を取ることが大事なのです。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。

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