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家業の老舗和菓子店を継いだ3代目社長。承継後に法人化や経理のデジタル化をしたわけ【御菓子司風月堂】

2022.08.02

著者:弥報編集部

監修者:藤田 浩一

茨城県日立市の「御菓子司風月堂」は、1948年創業の70年以上続く老舗和菓子店。3世代で通うファンもいる、地域に根ざしたお店です。

現在3代目で代表取締役の藤田 浩一さん。事業承継後は、一般的な「老舗・家業」などの変化が少なく、安定したイメージとはうって変わって、経理のデジタル化やクラウドファンディング、異業種とのコラボレーションなどさまざまな改革を行います。家業を継ぐ人が少ないと言われる昨今、藤田さんに「家業の可能性」について取材してきました。


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家業を継ぐことへの抵抗は、他の仕事を知ることで薄れた

まず、御社の事業について教えてください。

私と両親を含め11名の従業員で、和菓子を中心に和洋菓子の製造・販売を行っています。近隣に団地があって、お客さまは家族連れが多いですね。中には、親子3代で通っていただいている方もいますよ。

どのような商品を販売しているのでしょうか。

いち押しは、飯沼栗をふんだんに使用した栗蒸し羊羹の「万羊羹」です。飯沼栗は地元・茨城県産のブランド栗で、普通の栗と違い、イガに1つしか実が付きません。イガとはトゲトゲの栗の皮と思っていただければわかりやすいと思います。さらに、収穫してもすぐ出荷せず、2週間ほど低温熟成されています。万羊羹は今後、3,000円・5,000円・10,000円の3価格帯で販売する予定です。

祖父の代から続くどら焼きは、生地を1枚ずつ手焼きしています。機械で作ったどら焼きは薄くぺったりしてしまいますが、手作りだとふんわりホットケーキのような食感です。1番人気は生クリーム入りの「かまくら大福」で、父が開発しました。いつか自分も、父のかまくら大福を追い越せるような商品を作りたいと考えています。

和菓子は茶道のお茶請けとして発展し、江戸時代後半に今の形になりました。これほど長い歴史を持つお菓子は、世界でも珍しいのではないでしょうか。「日本を感じられる」という和菓子の魅力を、多くの人に伝えたいです。

当初は、家業を継ぐつもりはなかったとか。

跡取りとして生まれ育ちながら、家業を継ぐことには抵抗を感じていました。それは、家を継いで当たり前という風潮への反抗だったかもしれません。

プログラマーを志して専門課程のある高校に入学したものの挫折し「他の道を」と思ったタイミングで、母親から製菓専門学校への入学を勧められました。

そのときも家業は考えず「東京に行けるなら」とよこしまな気持ちで了承しました(笑)。

家業に入ったきっかけは何でしょう。

東京に行ってみて初めて、いろんな職業があると気付きました。他の仕事について知ることで、家業を継いでもいいかなと思えるようになったんです。ただ、すぐ家には戻らず、神奈川県のお菓子屋さんに就職して、その後は5年間の修業期間に入ります。

和菓子の修行は、5年ほどかかるのが一般的です。1年目は計量・洗いものなどの雑用、2年目でなんとか製造工程に関われるようになり、仕上げを担当できるのは3・4年目から。住み込みの2人部屋だったので、プライベートの時間もありません。古い慣習が残る業界ですし、働くというより「修行させていただく」という雰囲気ですね。そんな状況でも、家業を想定して材料原価や価格設定といった経営面への意識は忘れないようにしていました。26歳で修行を終えて、家業に入ったのは2009年です。

承継後に法人化や経理のデジタル化。笑顔の連鎖を生みたい

家業に入ってから、新しく始めたことはありますか?

2020年に会社を法人化し、代表取締役になりました。社会的信用を担保するには法人化が必須だったんです。

その他に、法人化の少し前から経理をデジタル化しています。売上などをデータ化して商品生産に役立てたり、QR決済も導入したりしました。

以前、茨城県のビジネススクールに通っていたそうですね。

茨城県主催の「茨城県北ビジネススクール」は、人口減少が進む県北地域の振興を目指すプロジェクトです。最終講座のプレゼンでは、1万円の栗蒸し羊羹を国内外で販売する計画を発表し、最優秀賞を受賞しました。この経験が、現在販売している万羊羹につながっています。それ以外に、全国の家業後継者がつながり、その家業を成長させるためにイノベーションを起こそうと活動している家業イノベーション・ラボに加入し日々サポートしていただいています。

学びのなかで、自分が実現したいのは「笑顔の連鎖・循環」だと気付きます。従業員を幸せにするにはどうしたらよいか、そう考えるようにもなりました。結果的に前向きな従業員が増えて、作業効率も上がったと思います。

ビジネススクールでは、職人と経営は役割が異なるとわかったのも収穫です。良いものを作っても、それを伝える術がなければ多くの人には届きません。また初めて意見を肯定され、背中を押してもらえたので、それも貴重な体験でした。父は職人気質で、あまり人を褒めないんですよ(笑)。

最も大きな糧となったのは「本当にやりたいことは過去にある」というアドバイスです。何かをしたいと未来にばかり目を向けるのではなく、一度これまでの道のりを振り返ってみては、と。

そうして人生を顧みる作業で浮かんできたのは、幼いころ、母親と成田山を訪れた記憶でした。私は3人兄弟の末っ子長男で、母親を独占することに飢えていたんですね。でもあの日、母はなぜか私だけを連れて出かけました。そのとき食べた甘栗が、本当に美味しくて……。これこそが自分の原体験だと、栗で何か作ろうと決心し、開発したのが万羊羹です。

料理店とのコラボや体験教室、クラウドファンディングにも取り組まれています。

新しいことが好きなので、実現可能な話であれば引き受けるようにしています。コラボではワインに合わせたデザートを作り、訪れていた在日ギリシャ大使夫妻の称賛が自信につながりました。体験教室を始めたのは、子どものなりたい職業にパティシエはランクインするのに、和菓子職人は入らないから。クラウドファンディングは目標額うんぬんより、挑戦に意味があると考えてやりました。

今計画しているのは、和菓子とワインのペアリング会です。ビジネススクールの同期が茨城県内でワインを造っていて、そこのスパークリングワインに合う和菓子を作りたいと思っています。普通の和菓子にはあまりない酸味を入れるなど、試行錯誤しているところです。これらの取り組みは、今後の事業継続のためでもあります。親が辞めても1人でやって行くには、新施策が欠かせません。

「とりあえずやってみる!」若い人の視点で経営の改善点を見出す

家業を継いで良かったと思われる点を教えてください。

一番は名前を引き継ぐことができ、家業の歴史を伸ばせるという点です。歴史はどれだけお金を払っても買えない貴重なものです。当店は今年74年になりますが、ここまで続いてきた伝統を引き継いでいける。そして、初代と2代目が培ってきた歴史を引き継げる。その価値は高いと思っています。

その他に、家業を継ぐメリットは何だと思いますか?

メリットは、自分で決断して事業を進められる点です。もちろん責任も伴いますが、自由度も高く、自分で頑張った成果がそのまま結果として表れるため、大きなやりがいを感じられますね。

今後の展望について教えてください。

2019年に日本で初めて開催された国際博物館会議に参加して、海外のVIPに和菓子作りの実演を行いました。手応えを得られたし、海外販路の確保にも挑戦したいです。日本の将来を考えると、小さな会社も外貨を稼ぐ必要が出てくるのではないでしょうか。いつかはイギリスのアフタヌーンティーに和菓子が並んでいたり、ヨーロッパのメニューの1つに「FUJITA」があったりしたら嬉しいですね。

アニメの影響もあって、海外ではどら焼きが人気です。それに、和菓子はビーガン食品じゃないですか。海外はビーガン需要が大きいし、豆もポピュラーだから、特にあんこには可能性を感じています。

最後に、同じ業界で頑張っている方や、家業の後継者に向けてメッセージをお願いします。

「とりあえずやってみる!」ですね。行動によって視点が変わり、何かが見えてきたりします。そのときは失敗したとしても「ダメな方法を見つけた」と捉えたらいいんです。家業の軸さえ見定めていれば、いくらでも自分の色を足していけますよ。

私も最初はそうでしたが、近年は家業を継ぐか迷っていたり、継ぐ人がいなかったりという話をよく聞きます。継いでもらえないのは、あまり儲かっていないケースが多いのではないでしょうか。でも、もしかしたら先代の経営に改善の余地があるかもしれません。例えば、親の世代って自分の人件費を考慮しなかったりしますよね。そういった部分に若い人の感覚を取り入れて、収益性を高めることは可能だと思います。

御菓子司 風月堂

https://www.fugetsudo.net/
所在地:〒319-1307 茨城県日立市十王町山部1773-1
従業員数:11名

撮影:Atsushi Watanabe

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

藤田 浩一(株式会社常陸風月堂 代表取締役社長)

東京の製菓専門学校を卒業後、神奈川県で5年修行し事業承継を目的にUターン。2020年代表取締役社長に就任し3代目当主に。2021年茨城県北ビジネススクールにて最優秀賞を受賞。クラウドファンディングで支援率471%達成後、茨城産高級栗を使用した1本1万円の高級栗蒸し羊羹を商品化。「笑顔」が生まれ連鎖する世界を実現すべく、付加価値を高めた和菓子販売や地域の和食店、コーヒー店とのコラボ商品を手掛ける。和菓子業界の伝統を承継すると同時に、枠にとらわれない独自性と創造性で「笑顔の循環」を目指している。御菓子司 風月堂

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