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もし社長が急にいなくなったら?コーポレートガバナンス強化で会社の存続力を強化しよう

2022.04.14

著者:弥報編集部

監修者:林 公一

近年、事業承継ができず、社長1代で会社を閉じてしまうケースが増えています。社長がいなくなり、会社がまわらなくなるのがその大きな理由です。会社を存続させるためには、中小企業においても会社の経営を適正化する「コーポレートガバナンス強化」が必要と考えられ、近年注目が集まっています。

コーポレートガバナンス強化は、社内に新しい知見を取り入れることにつながります。外部知見を取り入れながら、必要に応じて柔軟に社内の権限や義務を移譲し、組織存続可能な状態へと改善できる。事業存続を目指す中小企業にとっては導入・強化を検討したいところではないでしょうか。

そこで今回は、コーポレートガバナンスについてアタックスグループの代表パートナーで公認会計士・税理士でもある林 公一さんに解説していただきました。


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「コーポレートガバナンス」とは会社経営を適正化すること

コーポレートガバナンスについて、教えてください。

コーポレートガバナンス(Corporate Governance:企業経営の統制)とは、ステークホルダーの利益を守ることを目的に、企業経営を統制したり、監視する役割を持たせたりすることです。アメリカの総合エネルギー会社であるエンロンが起こした不正会計事件や、東芝の不適切会計などが話題となり「きちんとした会社運用をしていきましょう」という風潮が強まったことから、注目されるようになりました。

中小企業の経営者にはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、難しく考える必要はありません。基本的には内部統制を適正化し、社外取締役や社外監査役などのアドバイスを受けながら、会社を正しい方向に進めるために行われるものと考えてください。


コーポレートガバンスは、なぜ必要なのですか?

企業経営には、事業規模に関わらず経営をコントロールするしくみが必要です。特に大企業の場合、社長だけですべてを制御するのは現実的ではありません。

VUCA時代(「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:あいまい性」の頭文字をとったもの)と呼ばれる先行き不透明かつ将来の予測が困難な現代において、経営者の意思決定が求められる局面はたくさんあるでしょう。スムーズかつ会社に有益な意思決定を実施するためには、社員や投資家、取引先の業者などのさまざまな人の意見や、アドバイスが有用です。そういった多角的に物事を進めていくしくみとして、コーポレートガバナンスを導入・強化することが重要です。それゆえに、上場会社はこのコーポレートガバナンスが求められます。

〈参考〉
市場の先が読みづらい「VUCA」と呼ばれる新時代到来!中小企業が生き残るために必要な企業変革力を船井総研コンサルに聞く|弥報Online


中小企業においてもコーポレートガバナンスを実施するところが増えているそうですが、どのような背景や理由があるのでしょうか?

私自身は、事業承継が理由となっているケースが多いと考えています。社長が退いた後でも「仕事がきちんとまわる会社」にしておくことに、重要性を感じる事業者が増えているのです。

多くの創業社長は自分で物を作って、売って、資金繰りに苦労するといった、さまざまな経験を積んでいます。創業社長の多くはこうした経験に基づく感覚なようなもので、決算書を見なくても大まかな会社の状況を把握している方が多いでしょう。

ところが事業承継で2代目や3代目が社長になると、経験をベースとした感覚を持ち合わせていませんから、創業社長のように1人で会社経営をしていくのが困難になります。そのためノウハウや知恵、人材、お金などといった会社のリソースを最大限活用し、会社を組織化して組織全体で会社を回すことが存続には必要不可欠だと思います。例えば、コロナ禍を乗り切った企業は、社員全員の知恵を集め、新しいことを始めたケースが多くありました。

また、社外の取締役がいる場合は、厳しい意見にもフラットな立場で判断することができます。しかし資本と経営が分離していない、オーナーと社長が一緒というパターンでは、だれも社長に口出しできないケースが多いです。すなわち、外部の話に耳を傾ける機会が少なくなる傾向があります。こうしたケースでもコーポレートガバナンスを実施していれば、外部の話を聞き、場合によっては社内で権限や義務をほかの人へ移譲し、仕事を組織で回せるようになります。

外部の知見を活用し会社を存続可能な状態に。コーポレートガバナンス強化のメリット・デメリット

中小企業がコーポレートガバナンスを強化するメリットを教えてください。

コーポレートガバナンスの大きなメリットは、外部からの知見を取り入れて有効活用することで環境適用ができ、さらには新しいものを創出できるまでに発展できる可能性がある点です。

息子が会社を継いだときに周りの役員たちが何をやったらよいか、わからなくなるという事例はよく耳にします。息子自身も自分がすべきことを理解しないまま社長というポジションについてしまうため、会社は混乱状態に陥ってしまうのです。

このような事態を避けるためにも、息子が会社を継いだ後、社内・社外問わず役員や社員が支えることで、会社存続が担保できます。さらには、新しい知見やアドバイスを受けることで、新規事業などにもチャレンジできるような柔軟性や体制を整えることができるのです。


中小企業でコーポレートガバンスを導入・強化した具体事例を紹介してください。

コーポレートガバナンス導入・強化を検討する企業の傾向としては、社外監査役や社外取締役を入れて、積極的に外部の話を聞こうとする姿勢がある点が共通項として挙げられます。

例えば、古い体質から新しい体質へ脱皮する必要性を感じていたオーナー社長が会長になり、社長には第三者を配置したケースがあります。この事例では社長の後継者を社外から引き抜いてきて、数年間経験を積ませてから社長に就任させたそうです。さらに社外監査役も配置して、風通しよく話ができる体制を作ったといいます。

思い切った決断だと感じるかもしれませんが、実は難しいことをやっているわけではなく、本質は「組織化」と「外部の知恵を取り入れる」という、この2つの作業を行っているだけです。この2点を押さえるよう意識することが重要と考えましょう。


中小企業がコーポレートガバナンスを強化するデメリットはありますか。

デメリットとして考えられる点は、意思決定が遅くなることです。とはいえ大企業と比べれば時間はかかりません。ただ社長1人で即断していたときと比較すると、どうしても意思決定のスピードは遅くなるでしょう。


コーポレートガバナンス強化を怠ると、どのようなリスクがありますか?

コーポレートガバナンスができていない、つまりきちんと組織化できていない企業は、事業継続や事業承継が困難になる傾向が強いです。

会社を組織化しておけば、社長が自分のいなくなった後について考える際にも、選択肢を増やすことが可能です。第三者へのM&Aだけでなくファンドを活用し社員に会社を任せるMBOも実行できるでしょう。

また、社員に丸投げで好き放題やらせているような会社の場合、不正の発生率も高くなります。そのため、ある一定のチェック機能も必要と考えましょう。

「不正が絶対に見つからない」という状況に置かれたとしたら、どんな人にも魔が差してしまう瞬間があるかもしれません。重要なのは、そのような瞬間を作らないことです。粉飾決算が絶対に起きないような会社のしくみを整備することで、社員に過ちを犯させない抑止力となるということを、覚えておいてください。

会社の不正をなくす!中小企業におけるコーポレートガバナンス強化のポイント

中小企業でコーポレートガバナンス強化を実施する場合、具体的にどのようなステップや内容の考慮が必要でしょうか。

「月次決算をきちんと実施しましょう」ということを、第一にお伝えしたいです。

具体的には「月次決算を月末で締めて、10日以内に数字を出せるようにする」ということです。現在のリアルなデータに基づいて会社経営や予算、中期計画を適切に作るということですね。こうした会社経営の基本的な部分を、愚直にていねいに進めていくことが重要です。

コーポレートガバナンスで押さえるべきポイントは、以下の2点になります。

  • 会社の不正をなくすこと
  • いろいろな知見を入れて、VUCA時代を生き残る術を得ること

5~15名程度の中小企業で、月末に締めて10日以内に数字が出せる企業はほんのわずかだと思います。というのも、その重要性も理解されず、それができるように間接コストをかけていない会社が大半だからです。

予算実績管理についても同様です。予算は計画を立てればOKですが、実績との差額を数か月後に確認しても意味がありません。

まずは月次決算や予算実績管理が迅速に行える環境に是正していけば、中小企業のコーポレートガバナンス実現につなげることは十分可能です。

過去をきちんと見ながら、将来どうするべきかを考えることが一番難しいと思います。日常業務に忙殺されることなく、将来を見据えて動くことこそが、経営者や役員の本来の仕事であることを意識しましょう。

とはいえ中小企業でこれを実施できるのは、おそらく社長しかいません。しかし、それだけの時間的余裕が社長にはないというのが現実です。「明日の売上を取りにいくだけで必死な状態なのに、3年後どうすると言われても……」という状況の社長が多いのです。しかし、いつまでもそのような意識では、会社自体の存続が危うくなってしまいます。


コーポレートガバナンス実施の妨げになっているものには、どのようなものがあるのでしょうか。

現在、多くの中小企業の社長が苦しんでいるのが、VUCAや新型コロナウイルス感染症の影響で対策が急がれるDX化です。社内のDX化が必要であると理解していても、何から手を付けてよいのかわからないという企業はたくさんあります。

さらに「働き方改革」も経営者の負担となっています。働き方改革で総労働時間が定められたため、売上向上には時間当たりの生産性を上げることが必須となりました。こうした課題を抱えながらも、目の前の実務に追われ、課題に立ち向かう余裕がないということが、大きな問題となっているのです。

〈参考〉
ITツール導入でDXを実現した中小企業の成功事例3選|弥報Online


コーポレートガバナンス強化においては、コンプライアンスやリスクマネジメント、内部統制、内部監査といった施策の運用が必要かと思いますが、それぞれの施策について中小企業が注意するべきポイントを教えてください。

まずコンプライアンス遵守は絶対条件です。法律を守らない会社は、社員が離れていきます。

クリーンな経営は従業員にとって大前提です。会社が持続成長する事業を行うためには、コンプライアンスを遵守して社員を守ることが、会社の大小に関わらず絶対必要と考えましょう。もっと言えば「コンプライアンスを守っていたら、会社がまわらない」というような企業は、今の時代、社会からは認められる存在ではなくなります。

リスクマネジメントに関しては、自分(社長)がいなくなったときのリスクについて備えることが重要です。自分がいなくなった後、会社を組織で回せるかを、常に意識しておいてください。会社の抱えるリスクは他にもたくさんありますが、例えば「ちゃんと決算書を見て経営していますか?」「御社はどれくらいまでの借入金が適正ですか?」と質問したときに、適切な回答ができる情報が社長の頭の中にあるかがポイントと考えましょう。

中小企業など人数が少ない会社には、内部統制や内部監査を実施できる体力はないことも多いでしょう。そのような場合は、税理士や会計士など顧問の先生にチェックしてもらうのがおすすめです。

ただし万が一社長独断で不正を行う、いわゆる「マネジメント・オーバライド」が行われていた場合は、なかなか対処しきれないのが現実でしょう。マネジメント・オーバライドとは、社内の内部統制はうまく働いているものの、社長の鶴の一声で「右に行け」と言われたら、左が正解でも右に行かざるを得ない状況のことです。こうしたリスクを想定して、コーポレートガバナンスを強化には社外取締役を入れる必要があります。社長の独善を防ぎ、社長にとって良き相談相手を見つけるのです。


中小企業がコーポレートガバナンス強化に悩んだときには、どこへ相談するべきでしょうか?

会社をよく見ている税理士や会計士がよいかと思います。ただし、税理士の中でも税金関係に特化している場合は、厳しいかもしれません。コーポレートガバナンスに関する知識に乏しい方が多いためです。

おすすめは独立している会計士です。内部統制や監査といったひととおりの経験を持ち合わせているうえに、会計士ですから法人税のロジックも理解しています。


社外取締役を置く場合、どのような方にお願いするべきでしょうか?

たくさんの会社を見ている、知識の引き出しが多い税理士や会計士がおすすめです。

例えば、社長がある業界で30年間働いていた場合、その業界に関する議論で太刀打ちできる人材はなかなかいません。しかし数多くの案件をこなしている税理士や会計士なら、他社の内部統制の事例を多く語れるでしょう。そのため社長に納得感を与えられる、説得力ある話ができます。その結果、社長が素直に耳を傾けるケースが多いのでおすすめです。

また、大企業に勤めていた方も社外取締役としていいのですが、中小企業を見下すスタンスの方はNGです。自分の知見を活かして会社に成長してもらいたい、自分の経験を役立ててもらいたいというマインドを持っていることが、大前提になります。例えば65歳以上の方などで、リタイアしていても「一緒に頑張ろう」というスタンスを持っていれば、OKと考えてください。


自分がいなくても組織がまわせるかという部分で「まわせる」「まわせない」と判断基準があれば教えください。

社長自身がやるべき業務を把握していて、あるべき姿を第三者に伝えられるかどうかを基準として考えてください。

具体的には、中期計画を作る場合に「うちの会社は3年後にはこうありたい」「こういうことが大事だ」と言える、または役員同士でこうした話ができる状態であれば「まわせる」状態と考えていいでしょう。

社長が一方的に話す会社の場合、社員が思考停止に陥りやすい傾向にあり、そういった状況は「まわせない」ということになります。優秀な社員は「べき論」を語ることが多いのですが、社長も最初のうちは話を聞くものの、段々と鬱陶しくなってくるケースがあります。そうなると優秀な人を遠ざけるようになってしまうので、周囲は社長のYESマンしかいなくなります。

このような状態に陥ってしまうと「効率よく給料を上げる方法」=「社長の言うことを聞くこと」になりがちです。これでは会社を回せる状況になっているとはとても言えませんし、会社の成長は厳しいでしょう。

自分がいなくても会社を存続させるためには、コーポレートガバナンス強化は必須と考えて、ぜひ前向きに取り組んでください。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

林 公一(アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士)

1987年横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングに参画。KPMGでは、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。アタックス参画後は、事業評価や事前(買収)調査、株式公開プロジェクト、企業再生支援などに従事。2008年アタックスグループ代表パートナー就任。現在は、中堅中小企業の事業承継支援や後継者・幹部教育にも注力している。

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