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「頑張れ」はなぜNG?メンタル不調の従業員を復職へと導くための会話術や基礎知識

2021.08.31

著者:弥報編集部

監修者:森本 英樹

ある日突然、従業員がメンタルヘルスの問題で休職してしまった……。そんなとき、経営者や上司はどうすればよいのでしょうか。適切に対応しないと退職に至り、大切な人材が流失しかねません。

今回は、休職者に復帰してもらうまでの準備や流れについて、森本産業医事務所代表の森本 英樹氏にお話を伺いました。休職者にすべきでない発言や相手を不快にさせない会話のコツも、ぜひ参考にしてください。

まずは、本人・周囲へのヒアリングで休職した原因を把握

休職した原因を把握するために、どのようなことをすべきですか?

「本人からのヒアリング」「周囲からのヒアリング」「客観的な事実(勤怠など)の収集」の3点が大切です。本人からのヒアリングは、休職直前・直後だと思考が十分に働いていないことも多く、正確な情報をつかみづらい傾向があります。休職直前・直後の情報は参考程度にとどめ、復帰直前に改めて確認するほうがよいでしょう。周囲からのヒアリングと客観的な事実の収集は、休職直前・直後から始めても大丈夫です。

メンタルヘルスの不調の原因は、仕事だけでなく介護や金銭問題など多岐に渡ります。会社としては、労働時間やハラスメントの有無、客先とのトラブルなど会社事由の原因を把握して、その後の対応を考えなければいけません。また、会社責任がどれだけあるかも重要なポイントです。最終的には労働基準監督署の判断になりますが、労災になれば解雇制限もかかりますし、就業規則上の私病とは異なる対応が求められます。

休職するような事態に至る前に、周囲が不調を感知することはできますか。

メンタルヘルスの不調の表れ方は人によってさまざまですが、一番大事なのは「いつもと違う」という感覚だと思います。例えば普段笑っていた人が笑わなくなったとか、雑談に入ってこなくなったとか、早めに出社していたのにギリギリに来るようになったとかですね。

普段との違いに気付けるかは、普段を知っているかどうかに尽きます。日頃から従業員間の関係がよければ変化にも気付けるし「大丈夫?」と話を聞くこともできるでしょう。また、不調について相談できる窓口を設置するのもよい対応です。社内には相談しにくいけれど外部には話せる、逆に外部には一般的な話しかできないから不満だという人もいるため、できれば複数の窓口を用意するのが理想的です。

復職までの流れを確認。休職期間は「できれば半年」

休職者を復職させるための基本的な流れを教えてください。

厚生労働省の「心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き」が参考になります。最新版であることを確認してからダウンロードし、一度は目を通してみてください。

復職の流れの基本となるのが、下記の5ステップです。これをベースとし、職場ごとに試し出社や短時間勤務などのバリエーションを付けていきます。

1.病気休職開始及び休職中のケア

休職中に安心して療養できるようにするプロセスです。

2.主治医による職場復帰可能の判断

主治医から復帰可能の診断書を発行してもらうプロセスです。「〇月〇日まで休職が必要」という診断書を持って、職場復帰を判断する会社がありますが、病状は変わりうるものなので、必ず主治医からの「〇月〇日から復帰可」の診断書を受け取るようにしてください。

3.職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

本人と会社が話し合って、職場復帰が可能かどうか、復帰するとしたらどのような部署で就業配慮を受けながら働くのかという点を話し合うプロセスです。これが最も大切なポイントとなります。

4.最終的な職場復帰の決定

会社が職場復帰をさせるのかどうか判断します。もし試し出社などをさせるのであれば、その内容や期間について本人とすり合わせしておいてください。

5.職場復帰後のフォローアップ

復帰後、問題なく働けるのかを丁寧に確認していきます。

休職期間はどれくらいの長さが適切ですか?

日本の大規模な製造業を主体とした学術的な調査では、休職6か月で57%、1年で70%、1年半で74%が復帰しているので目安にしてください。休職可能期間は就業規則に従うことになるため、自社の就業規則がメンタルヘルスの不調に対応しているかを確認するきっかけになるでしょう。

とはいえ、従業員が4~5人くらいの規模だと、社会保険料など種々の費用負担から長期間休ませるのは難しいかもしれません。ただあまりにも短いと、労働問題になったときに会社が努力を怠ったとみなされる可能性があります。復職準備を整える期間は、できれば半年は欲しいところです。

※出典:Journal of Epidemiologyの調査結果

休職が決まったら、その人にはどんな言葉をかければよいのでしょう。家族にもヒアリングすべきですか?

休職している状況なので、心理的な負荷をかけるわけにはいきません。まずは体調を確認したうえで、以下のような言葉をかけましょう。

「焦る気持ちもあるだろうが、じっくりと体調を整えて欲しい。ある程度体調が整って、職場復帰ができそうな状態になったら、復帰のタイミングについて話し合いをしていこう」

家族へのヒアリングは、状況によると思います。回復に時間がかかったり、本人の思考力が十分に回復せずうまく伝達できなかったりする場合は、一緒に話を聞いてもらうのがベターです。

面談の人数や頻度はどれくらいが妥当ですか?また、面談を拒否される場合はどうすればよいのでしょうか?

中小企業の場合は上司・人事担当者のほか、経営者などが話を聞くことになると思います。取り囲まれるような雰囲気はプレッシャーになるため、人数はあまり多すぎないほうがよいでしょう。休職中は月1回程度の連絡でかまいませんが、復帰直前は多くの人と接点を持つことが重要です。いろいろな人と会って話しても、体調を崩さずコミュニケーションが取れるかどうかというのは、復帰の判断材料にもなりますから。

面談が精神的負担・体調回復の支障になると訴える場合は、主治医からの診断書に「現時点では職場と接点を持たないことが必要」と記載してもらうよう伝えてみてはどうでしょうか。もちろん、その状態のまま復帰まで様子を見るというのではなく、ある程度体調が回復してから、面談を再開するようにしてください。

職場復帰の可否を判断するポイントはありますか?

日常生活が可能なレベルの回復と、仕事ができるレベルの回復には結構なギャップがあります。回復したので職場復帰したいという人の話を聞くと、休日のような過ごし方をしていることが多いんです。例えば、お昼前に起きたとか、昼寝もしているとか。

職場に復帰できるかどうかのポイントは「就業中と同様の過ごし方ができるか」という点です。会社に出社していたときと同じ時刻に起きて、勤務時間と同じ分の時間は頭も身体も動かせる状態にしないといけません。それを本人にもしっかり説明しておきましょう。厚生労働省の手引きにも「通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる」「決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である」などの指針が示されているので、そちらも合わせて確認してみてください。

自分語り・他者との比較はNG。休職者に言ってはいけない言葉

休職者に言ってはいけない言葉はありますか?「頑張れ」という言い方はよくないなどと聞きます。

健康な人には言ってもかまわないけれど、メンタルヘルスの不調を抱える人にはNGというような言葉はありません。病気か否かに関係なく、無神経な発言はすべきではないという点に尽きます。「頑張れ」がよくないのは「あなたには頑張りが不足している」というニュアンスが含まれるからです。

相手を不快にさせない会話のコツは「自分語り」「他者との比較」を避けること。体調不良の状況で他人の苦労話に耳を傾ける余裕はないですし「あなたは〇〇さんと比べるとダメだね」という言葉から得るものってないですよね。その他にも「あなたは評判が悪い」といった改善につながらない漠然とした指摘、人格否定・個人攻撃につながる表現もやめましょう。

休職者に言ってはいけない言葉一例

「頑張れ」
「あなたは〇〇さんと比べるとダメだね」
「あなたは評判が悪い」

など
では逆に、休職者の気持ちが楽になるような言葉は何でしょうか。

本人の話を聞くことを重視し「仕事ができるようになるまで焦らず体調を整えてほしい」「気になっていることがあれば回答するよ」と伝えれば基本的には十分です。加えて「アイメッセージ」「ユーメッセージ」を活用してみてはいかがでしょうか。アイメッセージの主語は「私」、ユーメッセージの主語は「あなた」です。

例えば、進捗報告が上がってこないときにユーメッセージを使うと「(あなたは)なぜ進捗報告をしないの?」という叱責に近い印象を受けます。一方で、アイメッセージは「(私は)進捗報告を待っているよ、報告してくれると(私は)助かるんだけど」となり、断定や命令の要素はあまり感じられません。

ユーメッセージは、ぶっきらぼうに聞こえたり「上から目線」のニュアンスが強いんです。アイメッセージをうまく使えるようになると、会話の表現に幅が出ますよ。ほめるときも「(あなたは)頑張ったね」より「あなたのおかげで(私は)助かったよ」のほうが心証はよいでしょう。

休職者が安心する言葉一例

「仕事ができるようになるまで焦らず体調を整えて欲しい」
「気になっていることがあれば回答するよ」
「(私は)◯◯を待っているよ、◯◯してくれると(私は)助かるんだけど
「あなたのおかげで(私は)助かったよ」

など
メンタルヘルスの不調から職場復帰したばかりだと、ミスの指摘などを行うのは気が引けるという人もいるかと思います。

怒鳴ったりハラスメントになる言動は当然ダメですが、できるだけ他の従業員と同様に接してください。ミスの指摘やミスをしたこと自体にショックを受けて出社できないような事態に陥った場合、そもそも復帰できる状態ではなかったということです。復帰直後は、残業や休日出勤をさせないという「枠組み」への配慮は必要ですが、それ以外は同じレベル感で問題ありません。

他の従業員への説明は?復職当日はどう接する?経営者や上司が準備しておくべきこと

休職した原因が「人」「仕事内容」だった場合、同じ業務に復帰させてもよいのでしょうか。特に小さな会社だと、異動などは難しいですよね。

厚労省の手引きでは「元職場に復帰が原則」とされていますが、幅広く対応したほうがよいと思います。「この職場環境だったらだれもが不調になりかねない」という場合は、まずは、そのような職場の状態を改善することが必須です。一方で「それほど仕事の負荷は大きくないのに不調になった」のであれば、仕事との相性の悪さや対人関係、本人のスキル不足といった原因をしっかり究明しなければなりません。

後者のケースでは環境を変えたら安定することもありますが、絶対とは言えませんし、小さな会社で異動や配置転換を行うのも現実的には難しいでしょう。なので、最初に会社として「できること」「できないこと」を線引きしておくようにします。「営業から事務に異動させるのは無理だけど、苦手な取引先は別の担当者に代えてあげてもよい」といった具合ですね。

小さな会社ならではのメリットもあって、それは細やかに個別対応ができる点です。大きな会社は上司の上司とかになると、もう雲の上という感じですが、小さな会社は顔が見えます。だれがどんな仕事をしているかはもちろん、子育て中といった事情もわかりますし、お互いに合えばカバーしやすいという面もあります。

他の従業員にはどのように説明したらよいですか?

しばらく残業をさせないといった就業配慮がある場合は、周囲の理解を得なければなりませんし、ある程度の説明は必要です。何もかも全部伝えるのは、本人も気持ちのよいものではないでしょうから「不調があって、仕事はできるようになったものの、まだ万全の状態ではない。しばらくの間は残業にも制限があるのでよろしくお願いしたい」くらいに周りに知らせたほうが、うまくいくと思います。

「試し出社」とはどういう制度でしょう。勤務時間や勤務内容、賃金はどのようになりますか?

制度の内容は会社によって異なり、名称も「試し出社」「リハビリ出社」などさまざまです。試し出社には、大きく分けて2つのパターンがあります。

1つ目は仕事をしないパターンです。具体的には、時間通り会社まで来てそのまま帰宅するというものと、会社に来たら読書などをして仕事はせずに過ごすというもので、いずれも無給となります。2つ目は、半日などの短時間勤務からスタートして、徐々に労働時間を延ばしていくパターンです。こちらは仕事をした分の賃金が支払われます。

2つ目のパターンの折衷案として、業務を軽減し賃金水準を下げて仕事をしてもらいつつ、回復の度合いを確認する形もあり得るでしょう。ただし、どのケースでも就業規則や内規の定め、本人の同意が必要です。無給のパターンだとケガなどをした際に労災・通勤災害が認められないため、事故が起きたときの対応を考えておかねばなりません。

復職当日に周囲が注意すべきことを教えてください。

本人に「放置されている」「歓迎されていない」と思わせるような言動は避けてください。具体的には、パソコンがロックされたままになっているとか、だれも声をかけないとか、そういうことがないようにしましょう。復帰を一人ひとりに伝えるよりは負担が少ないので、朝礼などで簡単なあいさつをしてもらうとよいでしょう。

復帰後の流れはどうなりますか?定期的に面談などを行ったほうがよいのでしょうか。

就業配慮を行う場合は、3~6か月で解除することが多いです。その期間は、本人と上司が定期的に面談することをおすすめします。復帰してすぐに万全の状態には戻りそうもないという場合や口数が少ない人には、業務日誌をつけてもらいましょう。業務内容や体調について記入し、それを元にコミュニケーションを取るという方法もあります。

休職者を抱える中小企業の経営者に向けて、メッセージをお願いします。

私が担当している会社の中には、産業医の選任義務がない50名未満のところもあります。そういう会社の経営者は「人を大事にしよう」という意識が強かったり、経営者が大病を患った経験があったりして従業員の健康を重視している人が多いです。

今コロナ禍で人材が流動化してきていますが、新しく人を雇うのは大変ですよね。休職者をきちんと戻してあげることで雇用を維持できますし、本人だけでなく他の従業員にも「この会社は面倒見がよい」と信頼感を与えることにもつながります。それは大きなアドバンテージであり、会社のカラーの1つになると思います。

この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

森本 英樹(森本産業医事務所 代表)

医師、医学博士、社会保険労務士、公認心理師。社会保険労務士資格を持つ開業産業医として労働衛生にかかわるコンサルティングや企業の嘱託産業医、実務家視点での講師や執筆等を行っている。近著として『ケースでわかる 実践型 職場のメンタルヘルス対応マニュアル』(中央経済社)。

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