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廃業寸前の町工場を救う挑戦も!スモールビジネスにおけるクラウドファンディング活用事例

2021.06.09

3回にわたってお送りしたクラウドファンディングのコラムも今回が最終回。これまで説明した内容を、実際にどのように実践するのか理解してもらうために、スモールビジネスにおけるクラウドファンディングの活用事例をいくつか紹介します。

クラウドファンディングを活用することで、廃業寸前の町工場を救った事例や、ニッチ商材の開発をおこなった事例など5つの事例を紹介します。これからクラウドファンディングを活用した資金調達やテストマーケティングを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

【メンズアパレル】プレスリリースを絡めたニッチ商材の開発

最初に紹介する事例は、愛知県内にアパレルショップを3店舗、ECサイトも運営されている「林商店」です。

3つの実店舗が緊急事態宣言を受けて休業を余儀なくされ、リモートワークによるビジネスウェアの販売不振の煽りを如実に受けた業種になります。そのさなかに挑んだプロジェクトは「低身長で太った男性向けの仕事着」の開発。その名も「WIDE WORK WEAR」です。

既製服ではなかなかぴったりのサイズがない男性のためのスーツ開発は、大変ニッチな商材ではありますが、ニーズを探りながら予約販売制を取ることが可能なクラウドファンディングには、最適なプロジェクトだったといえるでしょう。

開発背景とコンセプトは下記の通りです。

  1. 背が低く、おなかが出てきた人がカッコよく着られるストレッチ素材のスーツがない
  2. 体型をカバーし、スタイリッシュ&セクシーに見せる「ワイドな男たち」のためのスーツ
  3. 防臭効果が高く、吸放湿性にすぐれたウールを使った国産ストレッチ素材を採用

結果として、20人の支援者から95万円の支援を集め、客単価の平均が5万円というクラウドファンディングでは高単価なプロジェクトになりました。また、本プロジェクトではプレスリリースも活用して4つの新聞に取り上げられるなど、メディア露出においても大きな成果を上げられたといえるでしょう。

量販店に並べるには難しい商品の場合でも、本当に必要な方が手を挙げてくれることで初期生産が実現するのは、クラウドファンディングならではのメリットといえるでしょう。

私自身も前職はアパレルですが、デパートなどと取引を行う場合、フェイスと呼ばれる店頭在庫が店舗数必要になることがほとんどでした。さらに、店頭で販売された後も継続的に商品を陳列する必要があるため、取引開始時には相当の在庫数が求められます。

卸売取引の場合、掛けによる支払いがほとんどです。そのため、メーカー側の先行投資が負担となり資金繰りを圧迫し、経営を悪化させやすい傾向がありました。

しかしD2Cという言葉を見聞きする機会が増え、消費者へ直接販売するメーカーが増えているなか、事前予約による受注販売の形態を取ることが可能なクラウドファンディングは、資金繰りの負担を軽減する効果も期待できます。私自身もアパレル時代にクラウドファンディングのしくみに助けられた経験があったので、B to BメインだったメーカーがB to Cに参入する際にも、クラウドファンディングの活用はおすすめです。

林商店は2021年にもクラウドファンディングを企画しているそうで、継続的にプロジェクトを続けながら、お店のファンを増やす活動に繋げられています。

〈プロジェクトページ〉
https://www.makuake.com/project/wideworkwear/

【ぶどう農園】100年続く4代目の挑戦。耕作放棄地をオーナー制のぶどう畑に

次の事例は農業のイノベーション。大阪府柏原市で100年以上も続くぶどう農園「葡萄のかねおく」の奥野氏は、農業従事者の高齢化や後継者不足で、耕作放棄地が増える近隣農地の将来を憂慮されていました。

耕作放棄地となっていたぶどう畑を再興すべく、ワインの木のオーナーを募集したクラウドファンディングが50万円を目標にスタートし、結果として60人から約81万円の支援を集めました。限定30人で募集した「ぶどうの木のオーナーになる権利」が完売し、リターンが追加されるなど反響も大きかったです。

クラウドファンディングの達成率は161%となりました。ぶどうの収穫販売時期にクラウドファンディングの募集期間を重ねたことで、プロジェクトページを見た方が大阪府柏原市にある直売所でぶどうを買い求めるケースが増え、直売所の売上は前年比で150%ほどになったそうです。

さらにメディアにも多数掲載され、新聞やWebメディアの総掲載数は66本にものぼり、テレビやラジオにも出演されるなど、クラウドファンディングがきっかけで大きな反響を呼びました。ちなみにメディアによる露出効果を、知人の広告代理店の方に広告費と仮定して試算してもらったところ、数百万円はくだらないとのことでした。

クラウドファンディングのチャレンジにより、資金調達はもちろん「農業の現状を伝え顧客を増やすことに」も繋がりました。さらに大きな広告効果をもたらすという、理想的なクラウドファンディングの活用事例になったわけです。

本プロジェクトは2017年の夏に実施されましたが、順調にいけば2021年の秋に初醸造のワインが完成する予定となっています。5年越しの夢が実現するという、支援した方も嬉しくなるような取り組みです。

近年は、地震や台風などの自然災害に見舞われることも多く、農業や漁業にも支援の輪が広がっています。第1次産業から6次産業化へのイノベーションの一環としても、クラウドファンディングの活用が進んでいると感じます。

〈プロジェクトページ〉
https://camp-fire.jp/projects/view/286680

【川漁師】絶滅寸前の伝統漁法を守るため、若手漁師のチャレンジ

次に紹介するのは漁業の事例になります。岐阜県の長良川で川漁師をされている平工 顕太郎(ひらく けんたろう)氏のチャレンジです。

起案当時「流域最年少で現役世代唯一の漁業の担い手」であり、65歳以下の漁師は彼のみという状況でした。彼との出会いは、岐阜県の関市・美濃加茂市・各務原市、三市主催のクラウドファンディングセミナーに登壇したときです。

当初、お一人でクラウドファンディングに挑まれようとしていましたが、自身の体験も交え「孤軍奮闘は本当に辛いので仲間を集めてください」とお話をしました。これは第1回目で紹介した、仲間集めの件にもつながります。

その後、ご自身のプロジェクトを船の乗組員に見立て「ゆいのふねクルー」と名付け、鵜飼愛好家・水族館職員・リバーガイドなど、日本全国の清流を守りたいという有志を集結させました。そして、ゆいのふねクルーによるSNSの投稿や周囲の呼びかけもあり、本プロジェクトのスピード達成を実現したのです。

目標額は50万円に設定され、正午にスタートしたプロジェクトが、わずか8時間後の20時には100%を達成。最終的には、133人から目標の280%にあたる140万円を集めて終了しました。

即日達成を果たした本プロジェクトは、瞬く間に大反響となりました。NHKワールド JAPANで世界に漁の様子が報道されるなど、彼のもとに数多くのメディア取材が殺到し、テレビ・ラジオだけで10本以上の出演を果たされました。

さらに、CBCテレビのスペシャルドラマ「父、ノブナガ」では、織田 信長役の竹中 直人氏を船に乗せる船頭役としてドラマにも出演されるなど、クラウドファンディングがきっかけで人生が変わったと言っても過言ではないでしょう。平工氏はその後も数多くのメディアに登場されていますが、その様子は下記プロジェクトページからもご覧いただけます。

存亡の危機に瀕しているような業種でも、クラウドファンディングを通じて全国に向けて声を上げ、手を挙げることにより、道が切り拓かれることもあるという勇気がもらえる事例といえるでしょう。

〈プロジェクトページ〉
https://camp-fire.jp/projects/view/289836

【セレクトショップ】廃業寸前の町工場を救う挑戦はSNSでうねりを生んだ

続いては、大阪府大阪市でECサイトを運営しているセレクトショップ「nakota(ナコタ)」のオーナー、吉田 真太郎氏の事例です。

彼は普段からTwitterやFacebook、最近ではClubhouseなどでも情報を発信しています。オープンな投稿は時折バズることもあり、クラウドファンディングの始まりも1つのツイートからでした。

優れたものづくりが可能な反面、下請け工場として大手に翻弄され、廃業寸に陥っていた町工場を救うために発注したニット帽への想いが、やがて大きなうねりを生むことになります。

クラウドファンディングに挑む前からSNSを使って、自社の活動方針などを発信し、フォロワーを増やすことに注力した吉田氏。開始直後、募集期間中も、事細かに状況を伝えるライブ感に魅了され、少しずつ賛同者が増えていきました。

その後も、クラウドファンディングで支援した方々が次々にTwitterで支援表明をし、その数を増やしていきました。達成直後には感謝の気持ちをツイートしています。

本プロジェクトで参考にするべきポイントは、とにかく事あるごとに発信をしていたことと、プロジェクト終了後の迅速な行動です。

リターン品は終了後の開発ではなく、事前に用意してからのクラウドファンディングでした。そのため、即座に発送できたのですが、4月27日の終了時から速やかに発送作業にかかり、5月1日に届いたという報告がTwitterで投稿されています。

このようなSNS投稿やブログなど、ユーザーによって作れられたコンテンツはUGCと呼ばれ、近年マーケティングにおいて重要性を増しています。UGCは「User Generated Content」の略で、店舗や企業によって作られ宣伝されるコンテンツではなく、口コミ効果で次の顧客への呼び水となる点が特徴です。

nakotaのプロジェクトは支援者93人、支援額は約46万円でした。プロジェクトの準備段階から募集期間、終了後にかけて少しずつうねりが大きくなり、どんどん仲間を集めていった事例として、これから起案を考えられている方にも参考になると思います。

〈プロジェクトページ〉
https://camp-fire.jp/projects/view/243122

【ご当地グルメ】テスト販売から商品化し、即完売となった希少な和牛グルメ

最後に紹介するのは、お取り寄せグルメの「Brejew(ブレジュ)」の事例になります。BrejewはECサイトを中心に、デパートやスーパーにおける催事で高級お取り寄せグルメを自社で企画から製造、販売までを手掛けるお店です。

2020年の新型コロナウィルス感染症の影響による巣篭もり需要を追い風に、業績が飛躍的に上がったお店ですが、2019年までは試行錯誤の連続で非常に苦労されていました。本プロジェクトは、それまで販売実績のなかった生肉の商品化に向けてのテストマーケティングと、商品開発をかねた試みとしてスタートしました。

島根県の山間部で飼育されている奥出雲和牛という、希少な和牛のすき焼きを販売するために企画されたクラウドファンディングです。飼育頭数も少なかったため、急激な受注があっても対応が難しい商品ということもあり、クラウドファンディングで事前予約、先行販売に挑みました。

結果は目標50万円に対して、523%の260万円もの支援を集めて大成功を収めました。この支援者、支援額という結果は、実販売に至る際にも、非常に参考となるデータになりました。再生産や再調達が難しい食肉や魚介類、野菜、柑橘などは、商品化に至ったときの仕入れ計画にも役に立ちます。

また、再生産が可能なアパレルや雑貨においても、生産ロットの計画に役立つ活きたデータが手に入るのも、クラウドファンディングの有益なポイントですね。その後、この奥出雲和牛のすき焼きは、年末商戦の商品としてECサイトで販売され、あっという間に完売となりました。

Brejewは2019年からECサイトの販促、集客としてブログやFacebook、Twitter、プレスリリースに注力しました。このクラウドファンディングは、それらの成果の結晶ともいえる事例だったと思います。

事実、2018年に1回だけだったテレビ取材は2019年には2回に増え、2020年はPRを強化したこともあり、テレビだけで9回、ラジオ、雑誌などのメディアでの紹介実績は20回近くにまで上りました。

最後に

ここまで3回にわたって、スモールビジネスをおこなう方々に向けてクラウドファンディングのお話をしてきました。繰り返しになりますが、私自身、2013年にクラウドファンディングに出会い、9件の起案と数多くのプロジェクトの伴走を行い、本当に事業や人生を変えた方々にたくさん出会ってきました。

また、クラウドファンディングがきっかけで、何度もテレビやラジオ、新聞、雑誌に出させていただいています。2014年には、大阪府の「クラウド型ファンド活用促進事業」において、大阪市に本社のある企業として初めてクラウドファンディングに挑戦することになり、当時橋下 徹市長がよく会見を行っていた大阪市役所のプレスルームで記者会見に臨ませていただくなど、一生モノの経験によって人生が変わったと痛感しています。

これまでテレビなどで紹介されるクラウドファンディングの成功事例、活用事例では、高額調達事例やSNS上で数万「いいね」を獲得したような、どちらかというと派手なプロジェクトが多かったように思います。だからこそ、今回は個人事業主から十数人のスタッフで成り立つスモールビジネスに特化した活用事例を紹介することで、クラウドファンディングをより身近に感じていただくとともに、先を読むのが困難な時流の中で事業をされている皆さんの後押しになれればと思い執筆しました。

このコラムを続けて読んでくださった皆さんが、これから挑戦されるかもしれないクラウドファンディングに向けて、少しでもお役に立つことができれば幸いです。

次は、皆さんがクラウドファンディングをきっかけに、人生が変わるまでとはいかずとも、きっかけやヒントを掴むことになればこの上なく嬉しく思います。


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この記事の著者

酒匂 雄二(株式会社ユウキノイン 代表取締役)

ネット通販会社、ゲーム会社を経てアパレルD2Cに。EC店長時代にSNS活用で広告費をゼロにしながら売上を2年で400%まで拡大。大阪地域密着型クラウドファンディングのプラットフォームに設立から参画。資金調達支援の傍ら、自らもクラウドファンディングで9回の資金調達に成功。2020年1月に起業し、セミナー講師、ECサイト・コーポレートサイトのSEO(検索対策)、資金調達のコンサルティングを行う。
過去9回のクラウドファンディング・プロジェクトの起案を行い、全件で目標額を達成。プラットフォーマーとしても200件近いプロジェクトに伴走。

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