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小宮一慶が教える、キャッシュ・フロー計算書で会社の資金の流れをつかもう

2021.05.27

著者:弥報編集部

著者:小宮 一慶

今回は会社の資金の流れや将来性を読むのに便利な財務諸表である「キャッシュ・フロー計算書」についてご説明します。貸借対照表や損益計算書と同様に、基本の構成を知っておけば、読み方はそう難しくはありません。数字に強い経営者になりましょう。

まずはキャッシュ・フロー計算書の構成要素を知ろう

まずキャッシュ・フロー計算書の基本的な構成を見ていきます。キャッシュ・フロー計算書は、「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業キャッシュ・フロー)」「投資活動によるキャッシュ・フロー(投資キャッシュ・フロー)」「財務活動によるキャッシュ・フロー(財務キャッシュ・フロー)」3つのセクションに分かれています。

1つ目の「営業キャッシュ・フロー」は企業の通常の事業活動で増減する資金を表します。これがマイナス続きでは事業を継続できませんから、これがプラスであるかどうかが重要になります。

売上高に対する営業キャッシュ・フローの比率を「キャッシュ・フローマージン」と呼びますが、私の経験から言えば7%以上あれば合格です。

また損益計算書上は利益が出ていても、売掛金を回収していない、在庫が増加しているなどの場合は、営業キャッシュ・フローがマイナスとなることもあります。経営では「利益はキャッシュ・フローとは違う」という認識を持ち、利益もキャッシュ・フローもプラスにすることが大切です。さもなければ黒字倒産という事態も起こり得ます。

2つ目の「投資キャッシュ・フロー」は、企業が投資にどれだけの資金を使っているか、あるいは回収しているかを表します。投資は設備投資などのほかにも、財務的な投資も含みます。普通は投資をすれば資金が出ていきますから、投資キャッシュ・フローはマイナスになります。

後ほどご説明しますが、特に設備投資に当たる「有形固定資産の取得による支出」が減価償却費よりも多いかどうかのチェックは必要です。資産価値の減少分である減価償却費分くらいは再投資していないと、現事業の維持がおぼつかなくなるからです。

3つ目の「財務キャッシュ・フロー」は、財務活動でどれほど資金を得ているか、あるいは使っているかを表します。お金を借りる、あるいは増資するなどして資金を得ている場合はプラスになります。逆に資金の返済を行えばマイナスになります。財務キャッシュ・フローについては、配当や自社株買入れなど株主還元についても見る必要があります。これもマイナスになるからです。

まとめると、営業キャッシュ・フローを稼ぎ、その範囲内で投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローのマイナスを賄っているというのが、バランスの良いキャッシュ・フロー計算書です。

キャッシュ・フロー計算書から企業の実力を見てみよう

それでは、実在する企業の実際のキャッシュ・フロー計算書を例に、企業の実力を見ていきましょう。今回は日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)の201912月期のキャッシュ・フロー計算書を使って分析していきます。

1)営業キャッシュ・フローは「稼ぐ」の根幹

企業が通常の事業活動で稼ぐキャッシュ・フローである「営業キャッシュ・フロー」については、マクドナルドの場合、20192月期は4495,200万円となっています。201812月期の3481,700万円よりも29%のアップです。もちろん、営業キャッシュ・フローが増加するのは企業にとっては好ましいことです。先述した「キャッシュ・フローマージン(=営業キャッシュ・フロー÷売上高)」も15.9%と、合格点の7%を大きく上回っており十分なキャッシュを稼いでいます。

キャッシュ・フロー経営の大前提は「稼ぐ」と「使う」です。営業キャッシュ・フローが「稼ぐ」の根幹ですから、営業キャッシュ・フローを稼がなければ「使う」ことはできません。

この稼いだキャッシュを、「財務改善」「未来投資」「株主還元」に「使う」わけですが、これらについてもキャッシュ・フロー計算書から読み取れます。

2)投資キャッシュ・フローは「未来投資」を確認

まず投資キャッシュ・フローを見ます。マクドナルドの場合は1456,900万円のマイナスです。つまり、投資にお金を使っているということです。

投資キャッシュ・フローを見る際は、「未来投資」をどれくらい行っているかをチェックします。この把握はなかなか難しいのですが、私のやり方をご紹介します。

「有形固定資産の取得による支出」と「有形固定資産の売却による収入」の差額が主に純額の設備投資を表しますから、この数字がそれらの目減り額である「減価償却費」や「減損損失」よりも多いかどうかをチェックします。

マクドナルドの場合、20192月期の純額での有形固定資産の取得による支出と、売却による収入の差額は1282,300万円です。減価償却費と減損損失の合計が1044,700万円ですから、資産価値の目減り分よりも多く投資をしている、すなわち未来投資をしていると言えます。

この未来投資という観点からは、M&Aなどの項目が投資キャッシュ・フローに出てくることもあります。

通常、投資キャッシュ・フローはマイナスになります。設備投資などを大きく売却しない限り、投資の方が大きいことが多いからです。この投資によるキャッシュ・フローのマイナス分を、営業キャッシュ・フローのプラスの範囲内に抑えることができれば、借入などの資金調達をする必要がないので、財務的に強い会社と言えます。

ただし、現預金が潤沢な会社の場合、この投資キャッシュ・フローには、「財務的な投資」の売買も含まれますから、これらは設備投資などの「戦略的な投資」とは区別して考える必要があります。

3)財務キャッシュ・フローで資金の過不足を調整

財務キャッシュ・フローについても見てみましょう。営業キャッシュ・フローで稼ぎ、投資キャッシュ・フローで使います。先述のとおりマクドナルドは約449億円稼ぎ、約145億円使っているわけですから、差額分の約304億円の資金の余剰があります。それを調整するのが財務キャッシュ・フローです。

財務キャッシュ・フローは、大きく分けて2つの部分からなります。1つは、借入や増資などで資金調達をしている、あるいはその返済をしている、つまりファイナンスの部分です。もう1つは、配当や自社株の買い入れなどで株主還元を表す部分です。

まずファイナンスの部分から見ていくと、マクドナルドでは「長期借入金の返済による支出」が1062,500万円あります。余ったお金で財務改善をしていることがわかります。一方、株主還元の部分を見ると、配当金の支払い額が398,800万円あります。

繰り返しになりますが、営業キャッシュ・フローで稼いだ分と投資キャッシュ・フローで使った差額が約304億円あり、その中から長期借入金を約106億円返済し、株主に40憶円ほど配当しているということです。この残ったお金が、キャッシュの増加(約153億円)となります。

このようにキャッシュ・フロー計算書を見れば、企業の「稼ぐ」と「使う」についてわかります。マクドナルドの場合、営業キャッシュ・フローを十分に稼ぎ、それを投資や財務改善、株主還元に使い、さらにキャッシュを増加させているということになります。

終わりに、これまで学んできたように、財務諸表を見るのは決して難しいことではありません。経営者の皆さんは数字のことは経理や税理士に任せっぱなしにせず、基本的な構成を知り、自社の現状把握や目標設定といった経営に役立てていきましょう。数字の毛嫌いをなくし、数字に強い経営者になりましょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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