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デジタル手続法(デジタルファースト法)を知ろう!「新たな日常」へ向け、加速する手続きのデジタル化とは

2020.09.16

新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで足踏みしていたテレワークやオンライン診療・オンライン授業が一気に普及し始めました。特別定額給付金や持続化給付金の手続きで、オンライン申請にチャレンジした方もいるでしょう。

今回は、今後さらなる加速が予測される手続きのデジタル化について、その背景や意義、そして中小企業への影響について解説していきます。

新型コロナウイルスで加速するオンライン申請

新型コロナウイルス対策として、国民1人に10万円の特別定額給付金が給付されました。オンライン申請をすると迅速に給付されるとあって、マイナンバーカードを使って申請をされた方も多かったと思います。しかし、オンライン申請に慣れていない方は思うように操作ができず、電子証明書のパスワード忘れや有効期限切れなどで自治体の窓口に駆け込んだケースも相次いだようです。

また、事業者に向けた持続化給付金もオンライン申請が原則ですので、オンラインでの手続きに不慣れな中小企業や個人事業者のなかには戸惑われている方もおられるでしょう。政府が申請サポート会場を設置し、支援をしてくれていますが「なぜここまでオンラインでの申請にこだわるのか……」と疑問に思った方も多いかと思います。

政府は迅速な給付のためと説明していますが、その背景には社会全体のデジタル化を進める「デジタル手続法」が2019年末に施行されたことが関係しています。なお、当初は「デジタルファースト法」と呼ばれましたが、現在は「デジタル手続法」が正式な略称です。

自粛が明け経済活動を徐々に再開している現在、政府は3密の回避など、新型コロナウイルスを想定した新しい生活様式である「新たな日常」を提唱しています。その1つの手段としても「手続きのデジタル化」は注目されているのです。

社会は「紙」から「デジタル」へ

「デジタル手続法」が成立した背景をみていきましょう。2019年4月に開催された平成最後の質問日である第198回国会の衆議院内閣委員会で、政府が初めてタブレット端末を使用して答弁したことが大きな話題となりました。

答弁に立ったのは当時の平井 卓也・情報通信技術(IT)政策担当大臣で、デジタル手続法案関連の質問に対する答弁であったことは象徴的です。閣僚が紙を見ながら答弁をするのではなく、タブレット端末を片手に答弁するという姿は、まさに「デジタルの時代」を彷彿させました。「日本が目指す世界最先端デジタル国家とは、どういった国家像なのか」という質問に対して、平井大臣は次のように答弁しています。

本法案は、行政のあり方の原則を紙からデジタルに転換する、ここが一番大きいところだと思います。単に過去の延長線上で今の行政をデジタル化するのではなくて、デジタルに対する考え方を変えて、次の、デジタルを前提とした時代の新たな社会基盤をつくっていこうとするものです。
出典:第198回国会 内閣委員会 第15号(平成31年4月26日)議事録

これは、電子行政はこれまで「紙だけでなく、デジタルも使えます」という姿勢であったのに対し、今後は「紙ではなく、デジタルを前提に行政を行います」というスタンスに大きく変わるということを意味しています。

デジタルを前提にすると、行政のさまざまな手続きやサービスだけでなく、国民や企業にも対応が求められるようになります。では、中小企業や個人事業主を含めた民間には、具体的にどのような変化が見込まれるのでしょうか。

中小企業・個人事業者もデジタル化のターゲットに

デジタル手続法により、これまで紙ベースで行っていた手続きをデジタル申請へ移行することが義務づけられ、手続きそのものが従来とは異なる形へとシフトする可能性があります。その効果や、中小企業・個人事業者への影響についても質問が出ていました。それに対する答弁としては、行政機関はもとより、企業に関しても規模の大小に関わらず、手続きのデジタル化は人的負担軽減や生産性向上などの効果が期待できるというものでした。

このように、デジタル手続法は行政における手続きを電子化して効率化を図るだけではなく、社会全体、特に民間企業の生産性向上を推進し、経済効果を期待しているものとなっています。デジタル手続法が施行されたタイミングと、コロナ禍にあり、人との接触を極力避けるべき現状を考えると、今後、企業の実務にも大きく影響することが予想されるでしょう。

「デジタルが前提」の社会になると何が変わるのか

答弁にも「デジタルを前提とした時代」という言葉がありましたが、どのようなイメージか掴みかねている読者も多いと思います。そこで金融機関を例に、その変化を見てみましょう。

そもそも現金とは、紙幣や硬貨における紙や金属そのものに価値があるわけではなく、「ある地域内で価値がある」という信用を前提として「価値がある」ものとして流通しています。デジタル情報を「価値があるもの」として信用できれば、現金の代わりにデジタル情報が流通することも考えられる、ということです。実際に、仮想通貨や暗号資産という形で、今や世界中でデジタルを前提にキャッシュレス決済が広がっています。

例えば、隣の韓国でも決済の90%近くが、キャッシュレス決済となっています。実際に韓国の金融機関を視察に行った知り合いから、驚きの光景について話を聞きました。繁華街にある銀行の金曜日ともなれば、日本ではATMに行列ができる風景が想像されます。ところが、明洞という繁華街にある銀行の支店にお昼頃訪問したところ、来店客が誰もいなかったというのです。

韓国の銀行窓口(写っている人物は撮影者の同行者)撮影:EABuS 安達氏

金融機関のデジタル化が進むと、預け入れや両替などで来店する客はほとんどいなくなり、窓口は大口の取引や貸付・投資相談などの対応だけとなります。それに伴い店舗やATM台数が減少し、コスト削減へとつながります。我が国の金融機関も「デジタルが前提」という流れを受け、コスト削減、ファイナンス・テクノロジー、キャッシュレスなどへ取組みが加速していくことが考えられるということです。

デジタル手続法の位置づけと3原則

続いて、デジタル手続法が中小企業・個人事業者へ影響を与える仕組みについて解説しましょう。

2017年、我が国は行政のデジタル化を進めるため、IT戦略の一環としてデジタル・ガバメント推進方針を発表しました。その方針のもとにデジタル・ガバメント実行計画が策定され、推進力としての「デジタル手続法」が提案されたのです。中小企業・個人事業者にとっても、デジタル手続法は今後対応が求められることが予測されますから、まずはその原則を押さえておきましょう。デジタル手続法では、以下の3つの基本原則が定められています。

デジタル手続法の3原則

1.デジタルファーストの実現

行政手続きやサービスを、紙などを介さずに一貫してデジタルで完結させる原則。
添付書類の廃止や、本人確認や手数料支払いなどをデジタルでの完結を目指し、業務のあり方そのものを見直します。

2.ワンスオンリーの実現

ワンスオンリーとは、一度提出した情報は再提出不要とする原則です。
これまで、民間企業は手続きごとに登記事項証明書などの書類をその都度提出する必要がありました。ですが、今後は一度提出すれば提出済みデータとして管理されるようになり、それ以降は提出不要となります。

3.コネクテッド・ワンストップの実現

行政と民間が関連する各種手続きを、1か所で完結させる原則です。
企業においては、採用や退職などの従業員のライフイベントに伴う届出などを「1か所で1回だけ」行うことで完結できるようになります。コネクテッド・ワンストップ実現には、民間も行政機関との密な連携が必要不可欠です。

デジタル手続法では、マイナンバー制度や法人番号を積極活用することにより、この3原則達成を目指しています。3原則は、それぞれが独立して取り組まれるべきものではありません。互いに連携を図りながら推進していくことで、より画期的かつ高い効果が実感できる施策となっています。

「手続きのデジタル化」は業務効率化の一助に

現在、「新しい日常」へ向けて、電子契約・電子申請の推進が社会的に要請されている状況にあり、今後3原則をもとにあらゆる手続きのデジタル化が推進されていくことが予測されるでしょう。デジタル手続法の流れを受け、中小企業における労務や税務の申請方法も、変化していくことが考えられます。具体的には、社会保険や税制関係の手続や、従業員のライフイベントにともなう各種手続に用いられるようになる、ということです。

電子申請は、慣れるまでは不安に感じる方も多いかもしれません。ですが、結果として業務効率化につながるものであると捉え、これを契機として準備を整えましょう。

この記事の著者

榎並 利博(デジタル・ガバメント研究者)

前・株式会社富士通総研経済研究所、主席研究員。1981年東京大学文学部卒、富士通株式会社入社。住民情報、財務・地図情報など自治体におけるシステム開発に従事。1996年株式会社富士通総研へ出向し、デジタル・ガバメントや地域活性化をテーマとした研究に従事。電子政府やマイナンバーに関する著書・論文・講演等多数。直近の著書として『デジタル手続法で変わる企業実務』(日本法令、2020年4月)を出版。

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