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未来の発展に向け、中小企業もテレワーク導入を本気で考えるとき【テレワーク時代の賃金制度と人事評価】

2020.10.01

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、テレワークを導入する企業が増え、人々の働き方が大きく変わろうとしています。また、働き方が変わることで、賃金制度や評価制度もおのずと変わってきます。とはいえ、中小企業では規模や業態によって導入が難しいケースもあるでしょう。今回はテレワークを導入するメリットについて考えていきます。

「働き方改革」をもたらすテレワークの波がそこまで来ている

厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」は、テレワークについて「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外労働」と定義しています。簡単に言えば、パソコンやスマートフォンを使って、会社以外の場所で働くということです。

テレワークは大きく分けて「在宅勤務」「サテライトオフィスワーク」「モバイルワーク」の3種類があります。サテライトオフィスとは会社が用意する仕事場のことで、例えば東京に本社を置く会社がさいたま市や横浜市などに仕事場を設け、社員は好きなところを選んで仕事をします。モバイルワークとは、ノートパソコンなどを持ち歩いて、カフェや図書館、コワーキングスペースなど気が向いた場所で仕事をすることです。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、大企業ばかりでなく中小企業でも、テレワークを導入するところが増えています。「働き方改革」をもたらすテレワークの波がすぐそこまで来ているのです。

自由度の高いテレワークはオフィスワークよりも生産性が高い

働く人にとってオフィスとは、つい怠けがちな心を律してくれる場所です。反面、いつ誰から声をかけられるかわからず、かえって能率が上がらない場所ともいえます。オフィスワークのメリットとデメリットについては思索して答えが出るようなものではありませんから、アメリカで行われたテレワークとの比較実験を見てみましょう。

2010年代にアメリカのとある旅行代理店のコールセンターで、オフィスワークと在宅勤務の生産性を比べたところ、在宅勤務の方がオフィスワークよりも13%も生産性が高いという結果が出ました。うち9%は休憩や病欠の減少によるもので、残りの4%は1分当たりの通話回数が増えたことによるものでした。

同時期にアメリカの特許商標庁の職員を対象に、在宅勤務とどこでも自由に働けるという勤務形態の比較実験も行われています。一方のグループは「在宅勤務で、少なくとも週1日は出勤しなければならない」とし、もう一方のグループは「どこでも自由に働くことができ、年間5回だけ本部に出向けばよい」としました。結果は後者の方が、4.4%も生産性が高いという結果が出ました。

つまり、オフィスワークよりも在宅勤務の方が生産性は高いのです。在宅勤務よりも、どこでも自由に働ける制度や環境がある会社はさらに生産性が高い。要するに、働き方の自由度が高いほど生産性が高いことがわかったのです。

この実験では、職員相互の働く場所の距離と生産性についても調べており、最も生産性が高いのは「同僚が40km圏内で仕事をしているとき」との結果が出ています。これはすなわち、実際に会って情報交換する機会も必要ということを示しています。

ワイガヤで仕事をするのは日本の企業だけの文化

次に、日本で一般的なオフィスワークの現状について見ていきます。日本のオフィスは大部屋で、働く人はワイワイガヤガヤしながら仕事をするのが一般的です。しかし、中にはこのような環境は仕事がしにくいと感じる人もいるのではないでしょうか?

人は間仕切りがない場所で集中して仕事をするためには、同僚と2.4以上離れていなければならないと言われています。これ以上近いと、無視していることが失礼だと感じてしまうからです。しかし、それほどデスクを離しているオフィスは滅多にありません。つまり日本式のオフィスは、互いに仕事の邪魔をしてしまう環境なのです。

経営学者の太田肇さんは、大部屋で顔を突き合わせて仕事をしていることについて「少なくとも私が20カ国以上の企業や役所を見てきたなかではわが国だけである」と言っています(『「超」働き方改革』筑摩書房)。欧米でも中国でも韓国でも、通常、管理職には個室が与えられ、非管理職は間仕切りがあるデスクで仕事をしています。

間仕切りがあると、互いによそよそしくなってしまうような気がしますが、実際は逆です。間仕切りがない方が、間仕切りがある状況よりも対面での会話が減り、デスクを並べていながら電子メールで話し合うようになるなど、互いによそよそしくなって生産性も低下するという実験結果もあります。

一例として、ブレーンストーミングというものがあります。集団で互いに参加者のアイデアを批判せず、無責任でもナンセンスでも何でもよいから、自由にアイデアを出し合うという発想法です。直感的には相互に刺激し合って良いアイデアが出てきそうな気がします。しかし心理学的には、ブレーンストーミングよりも個人でいろいろと調べて考えた方が、優れたアイデアが生まれることが明らかになっています。

日米の実験の例を取り上げてきましたが、誤解してほしくないのは、客観的なデータをもって「オフィスワークが絶対ダメで、テレワークこそがすばらしい」と絶賛したいわけではないということです。ただ、これまでテレワークの導入を考えてこなかった中小企業の経営者の皆さんも、導入を考えるうえで1つでもヒントになるものがあればと思っています。

テレワークの導入で、生産性も社員満足度も大きく変わる

では、テレワークを導入することで、生産性や社員満足度はどう変わっていくのでしょうか。

まず、無駄な会議が減ります。会議がむやみやたらに多いのは日本企業の特徴で、長時間労働の一因として指摘されています。無駄な会議が減り、必要な会議にリモートでどこにいても参加できるようになれば、これまでかかっていた交通費や会議室の利用料、移動時間も削減できます。

また個々の社員が仕事の計画を立てやすくなります。仕事場で誰かから話しかけられることも、突発的に雑用を押し付けられることも減るからです。仕事をいつどこでやるかを決めるだけで、目標の達成率が上がったという実験結果もあります。

テレワークでは、職場で同僚が遅くまで仕事をしているので、自分だけ先に帰りにくいという状況もなくなります。仕事がないのに職場にだらだらと長居することなくなり、仕事が終わればさっと帰る文化ができます。経営者からすれば不要な残業代の削減につながるでしょう。

さらに、社員は年次有給休暇も取りやすくなるはずです。有休の取得は法律で義務化されていますが「休みなど、別に無理して取ってもらわなくてもいい」という経営者もいるかもしれません。しかしテレワークでは、会社は社員を常時支配下に置き「あれをやりなさい」「これをやりなさい」と面と向かって指示を出す状況がないため、特に休まれることで生じる不利益はオフィスワークと比べて小さくなります。

むしろ社員の会社に対する満足度が上がり、生産性や定着率、満足度が上がるという利益の方が大きいでしょう。

テレワーク主体に舵を切るのが企業発展のための最良の選択肢

「デジタルファーストの原則」というものがあります。デジタル技術を使ってできることは、アナログではなくデジタル技術を使って行うということです。テレワークは典型的なデジタル技術を使ってできることです。今後は好むと好まざるとにかかわらず、テレワークに移行せざるを得ない状況がやってきます。

すでに一部の企業は、テレワーク主体に切り替えて事務所を使うのをやめたり、小規模な事務所に移転したりする動きが出ています。先ほどコスト削減のメリットについて書きましたが、他にも事務所の賃料を減らしたり、社員の通勤手当も1か月分の定期券代ではなく、出勤日数分の実費にできたりします。

今後は、この経費の節約で生まれた資金を元手に、高い賃金で優秀な人を採用しようとする企業が出てくるはずです。すると業界全体の賃金相場が上がります。オフィスワークを続けようとする企業は、コスト削減のメリットを享受できず大きな負担となります。

中小企業にとっては業態や規模に照らしてという条件付きですが、未来を見据えるならば、テレワーク主体に舵を切るのも1つの方法です。新しい働き方を手に入れるのが企業発展のための最良の選択肢といえる時期なのかもしれません。

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この記事の著者

神田 靖美

人事評価のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。中小企業を中心に賃金・評価制度の構築をサポート。著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版 2003年)。共著に『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(日本実業出版社 2017年)ほか。毎日新聞『経済プレミア』に『ニッポンの給料』、清話会『先見経済』に『目からウロコの賃金管理』を連載。1961年生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。趣味はベトナム旅行

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