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中小企業が取るべきアフターコロナに向けての人事戦略

2020.07.08

著者:弥報編集部

監修者:宮花 宙希

新型コロナウイルス感染症の影響で、社内リソースの活用方法や、採用活動の在り方自体を大きく見なおす必要が出てきました。今後どのような社会になるか予測不能な部分も多いことに加え、大企業のように資金が潤沢ではない中小企業には、より効率的な人事戦略が求められるでしょう。とはいえ市場変化のスピードも非常に速くなっており、早めに手を打つ必要があります。

そこで今回は、中小企業向けに数多くのセミナーを実施している株式会社船井総合研究所HRD支援部の宮花宙希(みやはなひろき)さんに、アフターコロナ時代を見据えた中小企業の人事戦略についてお話を伺いました。

新型コロナウイルスの影響下でも生産性を上げる人事戦略とは

今後、中小企業が社員の定着率を上げるために実施すべき施策や注意点などについて教えてください。

生産性の高い社員もそうでない社員も、組織の定着率を高めるポイントは5つあります。

  1. 会社の理念・価値観に共感できるか
  2. 社員間のコミュニケーション・人間関係が良好か
  3. 能力・スキルを高められるかどうか
  4. 報酬・評価に納得しているか
  5. 時間・休暇などの働き方に問題はないか

もちろん業界や組織によってどこが課題かは異なりますが、例えば配置転換によって2.の人間関係が良好になる、3.の新たな業務を行うことで学びや成長につながるという効果が期待できます。

つまり施策を実行する前に、目指すべき組織像や現状の課題、取り組む目的をしっかりと整理した上で取り組む必要があるのです。それによってエンゲージメントを強化することができます。

具体的な施策の一部を紹介します。

  • 理念・価値観の共有:経営方針発表会、朝礼、会議、社内ブランディングツール
  • 社員間のコミュニケーション:1on1などの面談、社内イベント、交流会
  • スキルアップ:研修・勉強会、スキルチェック、配置転換
  • 報酬・評価:人事制度、考課者研修、フィードバック面談
  • 時間・休暇:残業管理、特別休暇、産休・育休などの福利厚生

通常、育成や研修については、新人として入社した場合にマナーや会社のルールなどの研修を行い、その後は配属部署の業務を学ぶOJTといったケースが多いと思います。しかし将来のリーダーや幹部を育成しようと思うと、担当業務だけではなく経営に関わるような会計やマーケティング、マネジメントなどについても学ぶ必要があるでしょう。

そのため担当業務を推進するためだけの研修以外に、必要な知識やスキルを学ばせるプログラムも重要になります。

社内の評価制度や報酬体系の見直しは必要でしょうか?

業界やビジネスモデルによって、報酬制度の見直しが必要な場合もあります。

新型コロナウイルスの影響が拡大するまでは、国内の採用難や人手不足の状況により社内の定着率を上げようと給与(とりわけ固定給)を積極的に引き上げていた会社も多いです。

しかし現在は業績への影響が大きく、固定費の見直しが迫られている会社も多いと思います。多くの企業にとって経費の中で人件費が占める割合は大きいですから、今後の有事にも備えてより業績と連動した報酬体系に変えたいと見直しを実施するケースも発生すると予想されます。

アフターコロナでの中小企業の採用活動はどうなる?

今後、企業の採用活動にはどのような影響が出ると考えられますか?

業界や職種によって大きな差が出ますが、全体の流れとして求人倍率は低下して、失業率が上昇すると思われます。

現在、新卒採用の場合では合同企業説明会を中止、会社説明会や面談の活動を自粛により延期している企業も多いです。景気や業績によって採用活動が消極的になり、求人の応募獲得に以前ほど苦戦することはなくなりますが、採用計画の見直しや非対面での採用活動への取り組みの必要性が高まると思われます。

アフターコロナを見据えた採用活動のポイントや注意点を教えてください。

こちらは業界や会社の事業戦略によって採用活動をどうすべきかという計画は異なりますが、全体でみると採用自体に慎重になると思います。

目標採用数を当初の計画より減らし、全体の求人倍率低下が見込まれるでしょう。また、アフターコロナの観点から社内のデジタル改革を推進できる人材を採用したいなど、今後の経営において必要な専⾨的スキルを持った人材はよりニーズが⾼まると思います。

なお採用活動は、一堂に会するような説明会イベントの大々的な開催は難しいでしょうから、WEBを活用したスカウト型採用へのシフトが重要です。

大企業のように経営を前進させるためのハイスキル人材、即戦力人材の採用ができない中小企業は、どのように採用活動を行うべきなのでしょう。

今後、重要性が高まるハイスキル・専門スキルをもった人材の採用が中⼩企業で難しい場合、⾃社で採⽤することに囚われる必要はありません。

例えば、外部のコンサルティング会社やアウトソーシングを活用することで、経営を前進させるという方法が挙げられます。自社で採用した場合、スピードや推進力は高まるかもしれませんが、人件費という固定費の増大に繋がるため、業績状況によっては自社採用以外の施策も検討する必要が出てきます。

再び就職氷河期になるとの予測もありますが、中小企業側にとってこれはチャンスと見てもよいのでしょうか?

積極的な採用を行いたい中小企業にとっては、これまでよりもチャンスとなるでしょう。今まで採用が難しかったレベルの人材、内定を出しても辞退された人材を獲得しやすくなると思われます。

大学の9月入学変更を見据え今後採用活動で備えておくべきこと

今回、新型コロナウイルスの影響で大学を9月入学に変更するという話も挙がっていますが、もしも今後9月入学に変更になった場合、企業側にどのような影響が出るのでしょうか?

9月入学により卒業タイミングが異なり、それに伴う採用活動のシフトは必要ですが、採用活動としてやるべきことが大きく変わるわけではありません。世界の多くが行っている9月入学に合わせることで、グローバル人材の採用を考えている企業にとっては、むしろ採用活動が推進しやすくなるでしょう。

ただし、もしも今後9月入学となった場合、採用で忙しくなる時期が変わるため、それに対応できるよう社内の準備は必要です。採用の繁忙期、入社の時期が今までと大きく異なるので、その時期に活動できる・受け入れができるように通常業務との兼ね合いを検討しておくとよいと思います。

採用活動の繁忙期は就職活動の情報解禁や合同企業説明会の実施時期もそれに合わせて変わりますので、各社の会社説明会や面接などの選考の実施時期も変わります。

また9月入学にかかわらず、採用におけるオンライン化は加速していくでしょう。ただし切替が発生する初年度のみ、昨年は4月入社であり、今年は9月入社といった例年通りの1年スパンというサイクルではないため、入社時期・戦力化する時期を見越した計画が必要です。

アフターコロナでは柔軟に変化できる中小企業こそ有利

今後、世の中がどのように変化していくのかまだまだ予想できない部分も多いと思います。そのため人事戦略に関しても「これだ!」と決め打ちで進めるのではなく、市場の変化に柔軟に対応していく必要があるでしょう。

そのような状況においては、大企業よりもスピーディーに動ける中小企業のほうがむしろ有利になるケースも出てくると思いますので、攻めの人事戦略に打って出るというのも1つの方法かもしれません。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

宮花 宙希(株式会社船井総合研究所 HRストラテジー支援部 マネージング・ディレクター)

2013年船井総合研究所に入社後、採用・育成・評価・組織活性といった人材・組織をテーマにさまざまな業界・規模の企業支援に携わる。現在は部署にて責任者をしており、人材採用から人を育てる評価制度構築支援など総合的なマネジメント強化による業績アップを得意としている。現在所属中のHR支援部において、人財や組織の観点からコンサルティングを実施。企業の持続的な成長は、事業戦略やマーケティングだけでは実現できず、人財・組織に関する戦略や施策も重要性が日に日に高まっているため、主に「採用」・「育成」・「定着」分野にてお客様の成長をサポート実施。

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