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労働生産性を上げる評価方法「目標管理」の上手な使い方【中小経営者の疑問に答える はじめての人事評価】

2020.06.29

著者:神田 靖美

前回、最も手軽な人事評価方法として「図式評定尺度法」についてご紹介しました。今回は、最も生産性を上げる評価方法である「目標管理」についてお話しします。目標管理は大企業だけのものではありません。適切に実施することで労働生産性を飛躍的に向上させます。

目標管理は「難易度×達成率×ウエート」の合計点で評価する

目標管理とは、いくつかの目標の「難易度×達成率×ウエート」の合計点で評価する方法です。まずは評価例をご覧ください。次の例では、太郎さんの得点は99.1点になります。

(例)不動産A社・太郎さんの評価

目標A
難易度
B
達成率
(%)
C
ウエート
(計100%)
A×B×C
(点)
目標1:賃貸仲介手数料○○万円1001105055.0
目標2:売買仲介手数料○○万円80120%30%28.8
目標3:物件管理手数料○○万円8095%10%7.6
目標4:保険手数料○○万円70110%10%7.7
合計10099.1

「難易度」とは、体操競技やフィギュアスケート競技における難度点のような、客観的に見た難しさです。「彼にとっては簡単・難しい」といった特定個人に限った難しさではありません。

「目標の達成率」はそのまま達成率です。ただし、単に「目標の達成率」で評価していれば、それが直ちに目標管理となるわけではありません。

「ウエート」は目標の重要度によって決め、各項目の合計が100%になるようにします。上記の例では、手数料の重要度に応じて決めています。別の例を挙げると、部門ごとに違う目標が全社目標と合致しているか、全社の売上に対する割合はどうかなども加味して決めます。

目標管理を活用するための7つの条件

これらを踏まえ、目標管理を活用するにはいくつかの条件があります。

①「目標の連鎖」が成り立っていること

目標には「全社目標」(会社全体として追求する目標)と「部門目標」(会社の各部門が、部門全体として追求する目標)、「個人目標」(個人単位で追求する目標)の3種類があります。そして「目標の連鎖」とは、全社目標にあることは必ずどこかの部門が部門目標に入れ、部門目標にあることは必ずその部門の誰かが個人目標に入れるということです。

例えば「全社で売上1億円」という目標を立てたのであれば、各部門の売上目標を合計したときに1億円以上でなければなりません。ある支店の売上目標が2,000万円であれば、その支店の個人目標の合計は2,000万円以上となります。

別の例では、会社が「新しい賃金制度を来年4月から実施する」という目標を立てたなら、人事部はそれを必ず部門目標に入れるようにします。そして人事部の誰かが評価制度づくりを個人目標に入れます。

②上司と部下が話し合って目標を設定すること

目標の設定は上司が一方的に押し付けるのではなく、部下が自由に決めるのでもなく、双方で話し合って合意できるものとします。実はこれが目標管理の一番難しいところです。上述のとおり「全社目標にあることは必ずどこかの部門が部門目標に入れ、部門目標にあることは必ずその部門の誰かが個人目標に入れる」ものですから、個人で目標を選ぶ余地はほとんどないはずです。

また目標の内容は、入学試験やダイエットのような、達成できなくても誰にも迷惑をかけなければいいというものではありません。ここを社員に任せっきりで売上が上がらなければ、会社は給料を払えなくなります。その一方で完全な押し付けは社員のやる気を奪いますし、目標管理をする意味がなくなります。

この矛盾を解決するには、全社目標を立てる段階で「努力すれば十分手が届く内容」とし「社員の職場満足度が向上する内容」を入れることです。

③目標が明確であること

「○○を適切に行う」とか「○○に全力を尽くす」というのは目標ではありません。「売上高○○円」「受付の待ち時間を○○分短縮」「新しい就業規則の作成」など、達成できたかどうか、何%達成できたかが客観的に判断できる明確な目標を立てます。

世の中には、数字で表現できることとできないことがあります。しかし数字で表現できないことは管理できません。「顧客に高い価値を提供する」などもそう。それよりも「売上高付加価値率○○%」とか「顧客満足度調査で○○点」というように、いかに数値化するかを考えるようにします。

④達成期限を示すこと

いつまでにその目標を実現するのか期限を決めます。上の例では、売上高や待ち時間短縮などの期限は、評価対象期間の末日になるでしょうから、あえて書かなくてもいいでしょう。しかし新しい就業規則の作成などは、期限があらかじめ決まっているものではないので、いつまでにやるかを明確にします。

⑤「目標管理シート」を利用すること

何が目標なのか、難易度はいくつか、ウエートはいくつか、達成期限はいつか、達成までの方法はどうするかなどを書き込む「目標管理シート」を使います。記入をせず、目標そのものを忘れてしまっては元も子もありません。

⑥上司は部下の援助者・相談者となること

目標管理の正確な名称は「目標と自己統制による管理」です。個人がいったん目標を設定したら、そのやり方を上司が逐一指示するのではなく、本人に自己統制させます。とはいえ放任するのではなく、上司は相談に乗ったり応援したりする役割を担います。

⑦面談を行うこと

上司と部下は、評価対象期間内に少なくとも3回の面談を行うようにします。1回目は目標設定時です。2回目は評価対象期間の中間時点で、ここで目標の進捗状況を確認し、もっとできそうな目標は上方修正します。難しそうな目標は下方修正したり、目標そのものを取り下げます。3回目は評価対象期間の終了時です。目標をどれだけ達成できたかを確認して評価点を付けます。

目標管理の効果をさらに高める6つのテクニック

目標管理による生産性向上の効果をさらに高める6つのテクニックがあります。

1.トップが深く関与すること

目標管理を行うことで、大半のケースで生産性が上がります。ただしその上昇率には差が出ます。この上昇率に大きな影響を与えるのが経営トップの関わり方です。生産性が下がるのはトップが関わっていないケースがほとんどです。

トップの役割として全社目標を設定すること、目標管理シートの提出状況、面接の実施状況、全社目標の達成状況をチェックすることなどがあります。

2.目標は4つの視点でバランスよく立てること

目標管理を導入していない会社でも、売上と利益の目標は立てるはずです。逆にそれしか目標を立てていない会社も多いものです。しかしそれでは野球の監督が選手に向かって、ただ「勝て!」と指示しているのと変わりません。全社目標を立てる際には、次の4つの視点からバランスよく目標を配分します。

財務の視点

売上高や利益など財務諸表上に表れる数字の目標です。売上高、利益、キャッシュフロー、株主資本利益率、付加価値額などがあります。

顧客の視点

どういう顧客をどれだけ持つかに関する目標です。新規顧客獲得数、顧客定着率、ウェブサイト閲覧数、クレーム件数、顧客満足度調査結果などがあります。

社内ビジネスプロセスの視点

社内での仕事の進め方に関する目標です。特許取得件数、不良品率、受付の待ち時間などがあります。社員が仕事をしやすくなる目標を入れるだけでなく、顧客の満足度向上につながる目標も必ず入れるようにします。

学習と成長の視点

資格取得数、改善提案件数、従業員満足度調査結果、研修実施数、年休取得率、社員定着率、労働生産性などです。会社の利益につながるような目標だけでなく、社員の職場満足度を向上させる目標も必ず入れるようにします。

3.行動計画が立てられる目標を設定すること

例えば「宝くじに当たる」という目標を立てる人はいませんよね。実際に株式投資で収益を上げることを目標にして、大きな損失を出した会社があります。これは経済学的にも証明されていますが、株式投資で市場平均を上回る収益率を継続することは不可能です。逆に方法論が存在するにもかかわらず、神頼みしかないと勘違いして目標に入れないという過ちを犯すこともあります。努力すれば成功できるかどうかを見極めることは、思いのほか難しいのです。

4.「条件付き計画」を立てること

目標は簡単な実行計画を立てることで達成率が格段に上がります。「もし……になったら、○○(場所)で、○○をする」という計画を「条件付き計画」と言います。例えば「毎週金曜日の15時にプロジェクトの進捗状況を報告するメールを課長に送る」などです。場所は「会社であること」などが明白な場合は指定しなくても構いません。

さらに「上司に見せる」「報告する」「相談する」といった計画を立てるよう指示し、定期的に進捗状況をチェックします。

5.「困難だが可能」な目標を立てること

目標は難しすぎても優しすぎてもいけません。ある製材所の実験で、社員に「トラックは最大積載量の94%の荷物を積んで走ることを目標にせよ」と指示したところ、単に「全力を尽くせ」と言った場合よりも明らかに積載量が増えたという結果が出たそうです。

これにならって目標を「限界値の94%」と設定します。もちろん現実には何が限界値なのかわかりませんから、何が94%なのかもわかりません。これはおおよそ94%をイメージして、限界に近いけれども十分可能な目標を立てるという意味です。

6.結果に関するフィードバックを行うこと

フィードバックとは、結果に関する情報を伝えることです。「最大積載量の94%の積み荷」という目標を立てたならば、実際の積み荷は何%だったのかを教えます。結果だけでなく、どこが良くてどこが悪かったのかも伝えます。

フィードバック時に上司が注意すべきことは、個人の才能を問題にしないということです。「君には才能がない」はもちろん「君には才能がある」もNGです。才能がないと言われれば、部下は努力しても無駄だと意欲を失います。才能があると言われれば、部下は喜びやる気を出します。しかし人はいったん「自分には才能がある」と思い込むと、失敗したときなどに必要以上に落ち込み、自信をなくしてしまいます。

褒めるにしても叱るにしても「こうしたほうが良かった・悪かった」と「方法」に焦点を当てることです。

プロセスを評価するよりも、結果を評価するほうが手軽

目標管理は結果だけで評価します。これに対して、プロセスも評価すべきだという意見があります。確かに結果は努力や怠慢だけでは決まりません。運も結果を左右します。正しいプロセスを踏んだかどうかで評価することができれば、むしろ結果の評価は不要でしょう。

しかしプロセスの評価は容易でありません。例えばダイエットをしている人が「○○kg減量する」という目標を決めたとします。この場合、正しいプロセスは、1日のカロリー摂取量を一定以下に抑えることや、1日のカロリー消費量を一定以上にすること、毎日体重計に乗ることなどです。プロセスの評価とは、これらを本当に実行したかどうかチェックすることです。また実行できなかった場合、例えば残業続きで食事の回数が増えた、ケガをして運動できなかったなど、やむを得ない理由であったかを判断することです。

それよりもポンと体重計に乗せることのほうがずっと簡単ですし、それがずさんな評価というわけでもありません。

目標管理にも欠点はありますが、数ある評価方法の中では最も優れています。経営者の皆さん、ぜひ導入を検討してみてください。

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この記事の著者

神田 靖美

人事評価のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。中小企業を中心に賃金・評価制度の構築をサポート。著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版 2003年)。共著に『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(日本実業出版社 2017年)ほか。毎日新聞『経済プレミア』に『ニッポンの給料』、清話会『先見経済』に『目からウロコの賃金管理』を連載。1961年生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。趣味はベトナム旅行

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