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小宮一慶が教える、「小さな会社の事業戦略」6つの策定ステップ

2020.02.18

会社経営は①企業の方向づけ②資源の最適配分③人の動かし方の3つの要素からなります。特に①は企業の命運の8割を握るといっても過言ではありません。

「方向づけ」とは、ずばり「戦略」のこと。将来を見すえて「何をやるか、やめるか」を決めることです。

中小から大企業まで数多くの経営者に常に寄り添いながら、その経営を指南してきた、経営コンサルタントの小宮一慶氏が、今回は「小さな会社の事業戦略」をテーマに、6つの策定ステップについて説明していきます。

STEP 1 ミッション(目的)を明確化する

ピーター・ドラッカーは、企業が事業戦略を策定するときに「『目的』からスタートしなければならない」と言っています。

「目的」とは、企業の存在意義です。自社が何のために存在しているのか。これを明確にしなければなりません。志のない経営者が率いる企業は進む方向性がブレます。この辺りはJ.C.コリンズ著『ビジョナリーカンパニー』(日経BP社)に詳しく書かれています。実際に私も多くの企業を見ていて、存在意義がしっかりとしていない企業はそもそも成長できないし、一時的に成長できても長続きしないと感じます。

現在では、この「目的」を「ミッション」と呼ぶ企業も増えています。「ミッション」を元に、将来構想として「ビジョン」を描き、行動規範となる「理念」を決めて、それを守るのが経営です。

ミッションの一例として「良い商品やサービス、独自の商品やサービスをお客さまに提供し、それを通じて社会に貢献すること」や「働く人を生かし、幸せにする」などが挙げられます。

STEP 2 「外部環境分析」で自社を取り巻く環境を知る

「目的」を明確にすることはとても大切ですが、もちろんそれだけでは事業戦略は策定できません。次に必要なのは「外部環境分析」、つまり自社を取り巻く環境を分析することです。

「会社」は、「社会」の「社」と「会」の字を逆に並べた言葉ですが、どんなに大きな会社でも社会(外部環境)の変化には勝てません。小さな会社ならなおさらです。

分析する対象は、お客さま(市場)の動向、競合他社の動き、ターゲットとする地域の景況、法制度や政治の状況、テクノロジーの変化など、自分たちがコントロールできないすべてです。もちろん企業ごとの重要度に応じて、分析の精度を変えなければなりません。

ところで、経営者が外部環境分析の能力を高めるために、私は新聞を読むことをお勧めしています。できれば日経新聞を毎日読んでください。新聞の読み方にはちょっとしたコツがあります。私が運営している会員制セミナーの会員さんたちも必ず行っていることをご紹介します。

新聞には1つの記事の内容を6~7行でまとめた「リード」付きの比較的大きな記事が、毎日10本程度は見つかります。自分の興味のあるなしにかかわらず、この記事、このリードだけでも、訓練だと思って毎日読んでみてください。これを2カ月も続ければ、自分自身の関心が広がり、世の中の見方が変わります。(詳しくは拙著『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座 2020年版』をお読みください)

STEP 3 「内部環境分析」で自社の強み・弱みを客観的に見る

次のステップは「内部環境分析」、つまり自社の「強み・弱み」を分析することです。事業戦略を策定するうえで、「他社との違い」を明確にするための前提となるステップです。競合他社と比較して、自社のどこに強みがあり、弱みがあるのかを相対的に分析してみましょう。

まず商品やサービスについて、QPS(Quality、Price、Service)の観点から考えていきます。商品やサービスを購入するお客さまは、QPSの組み合わせで、自分に都合のいいものを選んでいるからです。

「Q」は商品の品質です。商品そのものとも言えます。「P」は価格。「S」はサービスですが「その他」の要素もあります。もう少し説明すると、コンサルティング会社や機械のメンテナンスサービスを提供する会社では、お金を頂くサービスは「Q」、お金を頂かない要素は「S」となります。コンビニエンスストアの例を挙げると、お客さまは家や会社から「近い」ところを選びがちですが、店の近さに対してお金を払う人はいません。そういうお金を払わない「その他」の要素が「S」なのです。

このQPSそれぞれについて、競合他社との比較を具体的かつ正確に分析していきます。そして、それを支える人や設備、資金の状況を分析するのが内部環境分析です。人や設備、資金は戦略上の強みになったり、逆に戦略策定や実行の足かせとなるからです。

STEP 4 マーケティングとイノベーションを戦略の根幹にすえる

このように、外部環境、内部環境を十分に分析したうえで、ミッション(目的)に基づいて事業戦略を策定していきます。ここでもまたピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、戦略の根幹にあるのが、お客さまに対して価値をつくり出す「マーケティング」と、新しい価値を生み出す「イノベーション」です。これが企業の価値を高めるための命運を握ります。

「マーケティング」とは、お客さまが望むQPSの組み合わせを見つけ出し、それを商品やサービスに落とし込み提供することです(マーケティングについては、次回詳しく説明します)。これなくしては戦略の策定はあり得ません。

「イノベーション」は、商品そのもの、製造方法、流通プロセス、組織などを大きく変え、新しい価値を企業にもたらすことです。

「マーケティング」や「イノベーション」では、M&Aをしたり、逆に自社の一部分を外部に売却したりする可能性があります。これを上手に活用することで、企業は価値を高めることができます。

STEP 5 ファイナンス、HRM、システム戦略を立案する

マーケティングとイノベーションを支える戦略として、資金面でのファイナンス戦略、人や組織面でのHRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)、情報を支えるシステム戦略の3つが必要になります。

現状のヒト・モノ・カネの資源をベースにしつつ、必要に応じてファイナンスを行い、人の採用を考えなければマーケティングやイノベーションの遂行は難しくなります。資金面や人材面の制約が、戦略上の大きな制約となることもあります。

STEP 6 PDCAで有言実行し、反省する

マーケティング、イノベーション、ファイナンス、HRM、システムなどの戦略を立案する際には、その達成度合いを測るKPI(Key Performance Index)の設定が重要となります。マーケティングでは、売上高や利益がKPIとなりますが、その中間目標のKPI(例えば来店客数、購入単価)なども有用です。

そして、戦略が当初期待したKPIを生んでいるかのというチェックも行います。いわゆるPDCA(Plan Do Check Action)です。このPDCAサイクルをきちんと回しているかどうかで、企業のパフォーマンスは大きく違ってきます。PDCAの本質は「有言実行」と「反省」です。やるべきことを公言し、それをチェックすることで反省する。この繰り返しが重要なのです。

事業戦略の「策定」と「実行」には段階がある

事業戦略の策定にはステップ(段階)が必要です。事業戦略といっても何から手をつけていいかわからない。難しそうで、どこから始めていいのかと悩んでいる経営者の皆さんには、ぜひ本稿の6つの策定ステップを参考にしていただきたいと思っています。

次回は、事業戦略の中核をなす「マーケティング戦略」について、6つの実行ステップを踏まえて解説していきます。

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この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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