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ある日突然、未払い残業代の請求が!これって会社が払わないといけないの?【弁護士が労務管理をわかりやすく解説】

 

ある日突然、退職した元社員から残業代を請求された、とある中小企業。しかもその額、ウン百万? こ、こ、これって会社が払わないといけないの? 今回のテーマは「未払い残業代の請求対応」です。

毎回、中小企業の身近な事例を取り上げながら、弁護士・松江仁美が法的見地からわかりやすく解説します。

執筆者:松江 仁美

弁護士法人DREAM代表弁護士。1957年静岡県生まれ。中央大学法学部卒業。93年弁護士登録。建築紛争、企業法務などを多く手掛け、建築不動産関係会社の顧問を多数務める。「頑張る社長たちの応援団」でありたいと思っている。空手5段、日本空手道松濤会本部指導員、神田小川町に自らの道場、「一道館」を構え、日々稽古に励んでいる

ある日突然裁判所から届く「労働審判」の呼び出し状

突然届いた裁判所から呼び出し状。差出人は東京地裁民事11部。もしかして「オレオレ詐欺」ではないか、といぶかった顧問会社の社長から私のもとに電話で相談がありました。

民事11部、労働部……。まさか労働審判じゃないだろうなと思いつつ、当事者は誰ですか? と聞くと、申立人はAさんとのこと。Aさんは過去にその会社に勤めていた元社員。「申立人」とされているなら労働審判で間違いない。悪い予感的中。どうも未払い残業代を500万円あまり請求するという労働審判の申立のようです。

拡大すれば数千万円にも!未払い残業代請求の恐ろしさ

2006年に始まった労働審判制度は、東京地裁の例を挙げると、毎年1,000件超が審理されています。月あたり約80件の申立があるわけですから、利用頻度の高い制度と言えます。気をつけなければならないのは、私も会社側の代理人として何度も対応してきましたが、経営者にとってあなどれない制度であるということです。

審理は、裁判官1人と労働関係の専門知識を有する労働審判員2人からなる労働審判委員会で行います。早期の審理で調停合意を目指し、合意に至らなくても審判決定が出されます(審判に異議が出されれば、通常訴訟に移行)。

誤解を恐れずに端的に言えば、労働者擁護のための制度ですから、よほどのことがない限り、申し立てられた会社が無傷で終わることはありません。また、手続き自体が簡単であることと、裁判手続きである割には早期に決着が付くので、経済的に追い詰められている労働者にとっては、デメリットは小さく、メリットの大きな制度と言えます。

しかも恐ろしいのは、残業代は1時間分だけならたいした金額でなくても、これが1日数時間に及び、それが毎日続き、その状態が何年も……となると、請求額は数百万円といった危機的事態を招きます。

さらに怖いのは、会社が残業代を支払わざるを得ない事態に追い込まれると、それまで無関係だった他の元社員たちからも、われもわれもと残業代を請求されることが往々にしてあります。

1人あたり数百万円の請求をされていて、それが10人になれば数千万円の請求になります。他に同じような請求をしそうな元社員が何人いて、と考えていくと、相当な資金準備が必要となります。この話を当の社長に伝えると、泡を吹いて倒れそうになっていました。

また労働審判の準備は時間との闘いでもあります。裁判所から会社に呼び出し状が届いた時点で、審理期日はおよそ1カ月後に設定されています。その日程の調整もさることながら、答弁書を書いて期日の1週間前には提出しなければならず、さらには第1回審理の期日にはほぼすべての主張を証拠書類とともに準備しておかなければなりません。しかも、間違いなく初回から和解を打診されますので、審理のための主張資料を用意するエネルギーに加え、和解への心の準備も必要です。社長にかかる負担は大きく、まさに正念場となるわけです。

この事例では、会社に残業の定めがなかったことを逆手に取った元社員が、退社後に「法定労働時間を超えて会社にいた時間分」を未払い残業代として請求してきました。しかし、会社にいたのは事実だとしても、実際に業務のために残っていたのか、残る必要があったのか、そもそもどのくらいの業務量があったのか、それを誰が管理していたのか、などがこの会社では何1つ決まっていなかったことが問題の火種となったのです。

結局、会社は残業実態がないことを必死で立証し、申立の半分は実態がないとされるも、残り半分は否定するのは難しいとして200万円程度の和解金を示唆され、これを支払うことになりました。幸いなことに後続部隊が現れることはなく、労働審判はこれで終了。その後、会社は労働条件や福利厚生の整備に努めることになったのは言うまでもありません。

以降、この会社では残業の申請・許可制を導入し、パソコンのログイン・ログアウト履歴をシステムで管理できるようにしました。極力、人の手がかからないように省力化したのです。また、外出中の社員の行く先や行動把握も始めました。業務ではパソコンが必須であるため、社員がパソコンを起動した時間を後からでも管理・把握できるように。導入に際しては社員からの反対もありましたが、どうにかこのシステムを軌道に乗せることに成功しました。

きちんと働いた人に相応の支払いをする、という当たり前のことを行うのがいかに大変かを思い知らされた事件でした。

今回の結論 ~最善の対策は常日頃からの環境整備~

昨今は「働き方改革」などの浸透もあり、大企業を中心に違法な残業をさせる企業は目に見えて減ってきています。とはいえ、中小企業ではまだまだサービス残業が当たり前という実態があるのも事実。でも、それは違法なのです。

労働基準法では、法定労働時間(「1日8時間」「週40時間」)を超えた業務時間分の割増賃金の支払いを義務付けています。この未払いは労働基準法に違反し、処罰の対象となります(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)。

労働問題は事が起きてからでは遅いのです。また、インターネットで検索してもらえば一目瞭然ですが、こうした問題についてサイトを開設している人たちの大半は、労働者を支援する専門家ばかりです。顧問弁護士もいない中小企業でこれをやられたら、弁護士を探すだけでも大変な労力を要します。

この解決策は「就業規則の整備」に尽きます。就業規則をどのように運用して、実際にどう機能しているかを証拠として残す。この業務慣例を作っていくしかありません。

就業規則は、会社によってカスタマイズすることになりますが、残業代に限ると、方向性は2つあります。1つは、残業するかどうかを申請・許可制にすること。申請時は内容・時間・理由を書かせ、それを許可する権限を誰が持つかを決め、また実際に残業が生じたときの監視体制も必要になります。

2つ目は、労働安全衛生法で労働時間の把握が義務化されましたが、業務に必要な時間外労働時間を割り出して、固定残業代(みなし残業代)として支払うやり方です。会社の状況に合わせて導入する内容を考えるといいでしょう。

まとめとして、経営者は残業がどういう場合にどんな指揮命令系統で命じられ、その管理・確認はどんな体制で行われており、事が起きたときに裁判所に提出できる書類を残しているか。この証拠作りを常日頃から徹底するほかないのです。

「転ばぬ先の杖」――労務管理は常に先手を打っておくことが肝要です。

 

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松江 仁美(まつえ ひとみ)/ 弁護士
著者:松江 仁美(まつえ ひとみ)/ 弁護士
弁護士法人DREAM代表弁護士。1957年静岡県生まれ。中央大学法学部卒業。93年弁護士登録。建築紛争、企業法務などを多く手掛け、建築不動産関係会社の顧問を多数務める。「頑張る社長たちの応援団」でありたいと思っている。空手5段、日本空手道松濤会本部指導員、神田小川町に自らの道場、「一道館」を構え、日々稽古に励んでいる。

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